後日所持人に手形要件の全部または一部を補充させる意思で,ことさらにこれを記載せず,つまり白地のまま,署名して流通におかれた証券。手形要件が欠けたものであるから,厳格な意味においては手形と異なる(手形法1,2,75,76条)。しかし,白地を補充する権利(補充権)が付与され,その行使による完成が予定されている,いわば未完成な手形である点で,単に要件を欠くため無効とされる不完全手形と区別される。振出人が署名して流通におく場合(白地振出し)が多いが,引受人や裏書人,保証人による場合(白地引受け,空白裏書,白地保証)もある。
白地手形は,補充によって手形上の権利者となりうる法律上の地位と,補充権とをあわせ表章するものと解されており,経済的には完成した手形と同様な価値を有する。実際取引上も,手形交付の際,その原因となった債務の金額や弁済期等が未確定な場合に,手形金額や満期日等を白地にしておくとか,手形で金融をえようとする者が直接金融業者を知らない場合に,受取人を白地にしたものを周旋者に交付して割引きを依頼するとか,振出日から満期までの期間が比較的長い場合に,これを隠すために振出日を白地にするなど,さまざまなかたちで利用され,補充前にも流通することが多い。このため,白地手形も流通は完成した手形と同様の方法によることが慣習法上認められ(善意取得,人的な手形抗弁の切断,除権判決(〈公示催告〉の項参照)も可能),現行手形法もこれを前提としている(10条,77条2項)。しかし,まだ完全な手形ではないから,それによって手形上の権利を行使することはできず,たとえ支払呈示をしても,債務者を履行遅滞に付する効力や遡求権を保全する効力は生じない。ただ,時効の中断については,白地のまま提起された訴えによってもその効力を認められている。
所持人が白地を補充すれば手形は完成し,署名者は補充された文言に従って手形上の責任を負うこととなる。補充が署名者の決めた内容に違反してなされた場合(不当補充,補充権濫用),例えば,10万円の範囲で補充権が与えられたのに20万円と記載された場合にも,署名者は,悪意または重大な過失により,手形を取得した者以外の者に対しては,かかる違反をもって対抗することをえず,20万円について責任を負う(10条,77条2項)。補充権は5年で時効にかかると解されている。
手形要件をすべて記載したうえで,それ以外の記載事項について,後日取得者に補充させる意思で,これを記載せず発行された手形を,準白地手形という。これはすでに完成された有効な手形であるから,固有の意味における白地手形ではない。しかし,補充が他にゆだねられている点では白地手形と共通であるから,完成手形であることから生じる差異を除いては,白地手形に関する理論が適用される。
なお小切手の場合(白地小切手)にも,以上に述べたのと同様のことがあてはまる。
執筆者:今井 潔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
未完成手形のことで、後日、手形所持人に手形要件の全部または一部を補充させる予定のもとに、要件を記載せず白地のまま署名して流通に置かれたもの。本来、手形要件を具備しないものは手形として効力を生じない。しかし、売買など原因関係上、売買代金や弁済期などがまだ確定していないときでも、手形を流通に置く必要があるため、実際界の需要に応じて、古くから商慣習法としてその効力が認められていたが、現行の手形法はその有効性を前提とした白地手形の規定を置いている(10条)。白地手形として認められるためには、手形行為者の署名が必要であるが、その署名はかならずしも振出人の署名である必要はなく、実際上も振出しに先だって白地のまま引受けの署名がなされる例が多い。また、白地手形であるためには、要件の欠缺(けんけつ)が後日補充される予定がなければならない。補充の予定がない場合は不完全手形として無効である。また、要件の欠缺の種類は問わないから、手形金額のほか、支払地・受取人などの要件を欠く場合もある。白地手形の所持人はいつでもその白地を補充して完全な手形にすることができる。この権利を補充権といい、補充権の濫用があった場合でも、白地手形の署名者はその違反をもって善意の手形取得者に対抗できず、補充された文言に従って責任を負わなければならない(手形法10条)。以上のことは白地小切手についても同様である(小切手法13条)。
[戸田修三]
『前田庸著『手形法・小切手法入門』(1983・有斐閣)』▽『長谷川雄一著『白地手形法論――その法律的構成と基本問題』改訂版(1986・商事法務研究会)』▽『鈴木竹雄著、前田庸補訂『法律学全集32 手形法・小切手法』新版(1992・有斐閣)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加