白衣観音(読み)ビャクエカンノン

デジタル大辞泉 「白衣観音」の意味・読み・例文・類語

びゃくえ‐かんのん〔‐クワンオン〕【白衣観音】

《〈梵〉Pāṇḍuravāsinīの訳》
胎蔵界曼荼羅まんだら観音院一尊白衣を着け、白蓮華の中にいる。白は清浄菩提心を表す。
三十三観音の一。頭から白衣をまとい、石上結跏趺坐けっかふざする姿をとる。大白衣

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精選版 日本国語大辞典 「白衣観音」の意味・読み・例文・類語

びゃくえ‐かんのん‥クヮンオン【白衣観音】

  1. ( [梵語] Pāṇḍuravāsinī の訳 ) 仏語。密教で、胎蔵界曼荼羅の中の観音院に描かれ、この院の部母とされる女性尊(観音母)。白衣をまとい、白蓮華(びゃくれんげ)の中にいて、左手に蓮華を持つ。日本では、三十三観音の一つ。頭から白衣をかぶって岩上にすわる姿が多く水墨画の題材とされた。白処尊とも。
    1. 白衣観音〈仏像図彙〉
      白衣観音〈仏像図彙〉
    2. [初出の実例]「自持来白衣観音像一鋪、即懸壁上退帰了」(出典:参天台五台山記(1072‐73)四)

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改訂新版 世界大百科事典 「白衣観音」の意味・わかりやすい解説

白衣観音 (びゃくえかんのん)

観音菩薩のかぎりない慈悲の心は白処に住むとするところから,白処尊菩薩とも呼ばれて信仰されてきたが,とくに補(普)陀落山(ふだらくせん)(ポータラカ)中の清流岩上に身をゆだねて思索する瞑想の世界は,白衣に象徴される清澄な境涯とともに禅的境地の顕現として禅宗にとり入れられた。そこでは過去の儀軌にとらわれることなく,三十三身に変化して一切の苦悩を消散せしめ,不吉を転じて吉祥となす観音のもつ自在性が尊重されたのである。水月(すいげつ),滝見(たきみ),楊柳(ようりゆう)といった背景のもつ意味もまたしかりで,すべては禅的精神の表象とみなされた。観音を囲繞する山水樹林も,衆生を包む現世の延長であり,頂上に垂れさがる薛茘(へいれい)は煩悩の象徴であって,修行はこれを払拭するためになされるのである。14世紀ころの初期禅林所縁の白衣観音図の図容は《大方広仏(だいほうこうぶつ)華厳経入法界品》の補陀落山中に安座する姿である。楊柳と水瓶(浄瓶(じんぴん))をともなうのは《請観音消伏毒害陀羅尼経(しようかんのんしようふくどくがいだらにきよう)》の〈楊枝浄水〉を供えて観音を召請する経説に由来する。

 《禅林象器箋(しようきせん)》によれば,禅寺において観音像がまつられた場所は衆寮(しゆうりよう)/(しゆりよう)の中央に南面する観音龕であり,衆寮はあらたに掛塔(かた)(入門)する修行僧の受付を行うところである。この衆寮の本尊が補陀落山中の観音龕に座す白衣像であり,彫像から画像に移行した。善財童子の補陀落山訪問の姿はまた,衆寮の本尊にふさわしい。この図容は,中国唐代の画家呉道子(ごどうし)や周昉しゆうぼう)が水月観音として描出した新様式にもとづくもので,中国から高麗,そして日本に波及した。この白衣観音図を中心として,日本では〈観音猿鶴図〉のように左右に猿鶴(えんかく),漁樵(ぎよしよう),竜虎(りゆうこ),寒山・拾得(かんざんじつとく),山水,花鳥などが意識的に配され,三幅対形式を成立させてくる。猿鶴については中国宋代の禅僧雪竇(せつちよう)和尚が,祖師西来の意を問われたとき〈猿は箇木(こぼく)に啼き,鶴は青霄(せいしよう)に唳(な)く〉と答えた故事による。漁樵また仏法求道の象徴である。白衣観音はまた,高僧の本地ともいうべき意味から鏡中に線刻される例も生じた(鏡像)。

 鎌倉時代後期における禅林所縁の白衣観音図は,当初,従来の著色仏画形式の図上に禅僧による頌徳(しようとく)の賛詩をともなったものにはじまり,しだいに菩薩というよりは人間的姿態によって表現され,色彩をはなれて水墨に,筆致も表出的なものに移行する。中国宋・元時代の牧谿,玉澗,日本では南北朝期に黙庵,可翁,良全,愚谿,室町時代になると五山を中心とした禅寺所縁の画僧,たとえば東福寺の明兆(みんちよう)およびその一派の霊彩(れいさい),赤脚子(せつきやくし),相国寺の周文派,鎌倉では仲安真康(ちゆうあんしんこう),祥啓(しようけい)とその一派などを挙げることができる。以来この図容は形式化され,近世へ引きつがれた。
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百科事典マイペディア 「白衣観音」の意味・わかりやすい解説

白衣観音【びゃくえかんのん】

吉祥を表す観世音菩薩で,中世以降は三十三観音の一つとされた。息災延命や安産,育児などの祈願の本尊に用いる。尊形は,一面二臂(ひ),肉身白黄色,白衣をまとう。本来白の蓮華上に座すが,禅宗では水辺の岩上に座した姿で水墨画の好画題となる。牧谿(もっけい)筆(大徳寺),能阿弥筆(溝口家)などが著名。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「白衣観音」の意味・わかりやすい解説

白衣観音
びゃくえかんのん
Pāṇḍaravāsinī

大白衣,白処観音ともいう。白 pāṇḍaraは清浄菩提心を表し,胎蔵界曼荼羅観音院では部母 (ぶも) ともされている。また三十三観音の一つとして,白衣を着け,左手に蓮華を持ち蓮華の座にいる。息災延命の功徳がある。

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世界大百科事典(旧版)内の白衣観音の言及

【観音】より

…密教の聖観音では,胎蔵界曼荼羅観音院に描かれる,左手に蓮茎を持つ姿の像が多く造られた。変化観音には前述の六観音のほかに白衣観音と水月観音が,画技をよくする禅僧によって水墨画として鎌倉・室町時代に多数描かれた。これらは礼拝の対象となる本尊画とみなされるより筆者の精神の表出が注目されていた。…

※「白衣観音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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