観世音菩薩(読み)かんぜおんぼさつ

精選版 日本国語大辞典 「観世音菩薩」の意味・読み・例文・類語

かんぜおん‐ぼさつ クヮンゼオン‥【観世音菩薩】

(「かんぜおん(観世音)(一)」の尊称) =かんのん(観音)(一)
※百座法談(1110)三月二日「たとひ悪業のなみたかくとも般若の船にのりて観世音菩薩にかぢをささせたてまつりて」 〔法華経普門品

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デジタル大辞泉 「観世音菩薩」の意味・読み・例文・類語

かんぜおん‐ぼさつ〔クワンゼオン‐〕【観世音菩薩】

《〈梵〉Avalokiteśvaraの訳》世の人々の音声を観じて、その苦悩から救済する菩薩。人々の姿に応じて大慈悲を行ずるところから千変万化の相となるといい、その姿は六観音三十三観音などに表される。また、勢至菩薩とともに阿弥陀仏の脇侍で、宝冠に化仏けぶつをつけ、独尊としても信仰される。観音菩薩観自在菩薩。観世音。
[補説]鳩摩羅什くまらじゅうによる旧訳で、玄奘げんじょうの新訳では「観自在」とされる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「観世音菩薩」の意味・わかりやすい解説

観世音菩薩
かんぜおんぼさつ

大乗仏教の代表的な菩薩で、仏教の慈悲の精神、すなわち仲間に対する友情と悩める者に対する同情とを人格化したものである。観音(かんのん)とも略称される。サンスクリット語では、アバロキタavalokita(観)とスバラsvara(音)の合成語、アバロキタスバラという。この語は、悩める世間の人々の音声を観ずるものという意味である。また観自在(かんじざい)菩薩ともいわれるが、それはサンスクリット語のアバローキテーシュバラavalokitêśvara、すなわちアバロキタ(観)とイーシュバラīśvara(自在)との合成語で、衆生(しゅじょう)の苦悩を観ずること自在なるものという意味である。中国における旧訳(くやく)では観音、観世音の名称が用いられるが、7世紀の玄奘(げんじょう)の漢訳では観自在の名称である。また密教では多くの場合に観自在の名称が用いられることが多い。さらに救世(くせ)菩薩、施無畏(せむい)菩薩、補陀大士(ふだたいし)、南海(なんかい)大士などの異名もある。

[壬生台舜]

起源

観音信仰の起源は大乗仏教の菩薩思想の流れのなかに培養されたもので、弥勒(みろく)菩薩と同じくらい早い時期にインドで成立した。しかし他方では、イランの光明(こうみょう)思想がインドに展開したという説や、インドのシバ神あるいはビシュヌ神の説話と深い関係があるという説など、仏教以外に観音信仰の起源を求める考え方もある。このような考えは観音信仰に他の宗教の信仰形態が影響していることを示す。『妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)』の一章「普門品(ふもんぼん)」には観世音菩薩が中心に説かれている。すなわち、一心に観音の名を称えれば、即時にその音声に応じて、衆生の七難(火難、水難、羅刹(らせつ)難、刀杖(とうじょう)難、悪鬼難、杻械枷鎖(ちゅうかいかさ)難、怨賊(おんぞく)難)を救うために、種々の姿を現すと説く。そこに説く三十三身は、のちに「三十三観音」あるいは「三十三所札所」信仰の基礎となった。『妙法蓮華経』は鳩摩羅什(くまらじゅう)が406年に訳出したが、それ以前に竺法護(じくほうご)が268年に『正法華経(しょうほけきょう)』を訳出した。さらに601年に闍那崛多(じゃなくった)が『添品(てんぽん)法華経』を訳出した。現存の鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』第25の「観世音菩薩普門品」は本来、偈頌(げじゅ)の部分がなかったが、『添品法華経』から付加したものである。インド仏教において『法華経』よりやや遅い成立と考えられる『無量寿経(むりょうじゅきょう)』には、阿弥陀如来(あみだにょらい)の脇侍(きょうじ)として観音と勢至(せいし)の2菩薩が取り上げられている。これは、観音の慈悲と現世の衆生救済能力が優れているという考えから、来世を願う信仰に導く阿弥陀如来にとってそのかわりとなりうる補処(ふしょ)の菩薩として最適であるとされるからである。

[壬生台舜]

観音像の変化

観音像はその変化(へんげ)相により種々あるが、のちに聖観音(しょうかんのん)のほかに、十一面観音、如意輪(にょいりん)観音、馬頭(ばとう)観音、准胝(じゅんてい)観音、千手(せんじゅ)観音を加えた六観音の信仰や、さらにこれに不空羂索(ふくうけんさく)観音を加えた七観音の信仰が生じた。これらの観音像の変化相はヒンドゥー教の影響を受けたもので、十一面観音は多面の変化像であり、不空羂索観音は多臂(たひ)の超人的な変化像である。さらに絶大な威神力をもつ救済の期待が千手観音の成立となるなど、信仰が造像のうえに変化を生じさせた。また説話上では、観音の住処がインドのポータラカPotalaka(補陀落(ふだらく))山であるという信仰が生まれる。インドではポータラカは南インドのコモリン岬であると場所を特定するが、中国では浙江(せっこう)省舟山(しゅうざん)列島の普陀山(ふださん)、日本では紀州(和歌山県)熊野の那智山(なちさん)とする考えがある。要するに観音の霊場が補陀落山であるという考え方に変わっていく。またチベットでは、ラサのダライ・ラマの住処がポータラカであるとされ、ダライ・ラマは観音の化身(けしん)と信じられてチャン・レー・シク(チベット語で「観音」の意)とよばれる。なお、日本の日光という地名は、補陀落から転訛(てんか)した二荒(ふたら)を音読、好字をあてたものである。

 このように観音信仰はインドから中央アジアに伝わり、中国、チベット、朝鮮半島、日本へと広がったが、それは法顕(ほっけん)や玄奘の旅行記からも知られる。中国では6世紀から9世紀にかけて、観音関係の経典が続々と翻訳され、それに伴って各種の観音信仰が盛んになった。

 日本においては律令(りつりょう)国家の精神的支柱となった玄昉(げんぼう)の筑紫(つくし)(福岡県)観世音寺千手観音、実忠(じっちゅう)の東大寺二月堂十一面観音、道鏡(どうきょう)の下野(しもつけ)(栃木県)薬師寺如意輪観音などのような密教的な観音像に対する信仰がみられる。正倉院古文書には『観音経』や陀羅尼(だらに)の書写、あるいは古記録に残る観音像造立の記録などが残っているが、現存するものとしては、法隆寺の百済(くだら)観音像や四十八体仏中の辛亥(しんがい)年銘(651)の観音菩薩立像が代表的な上代の観音像である。この時代の観音信仰は、天災、疫病あるいは兵乱の鎮定という現世利益(げんぜりやく)を期待して、国家的受容の形で行われた。その後10世紀ころになると、観音信仰は抜苦与楽を願う個人的な信仰へと移っていく。ここに霊験(れいげん)の多い観音霊場が求められ、観音を本尊とする寺院の建立が盛んになり、長谷寺(はせでら)、石山(いしやま)寺、清水(きよみず)寺、粉河(こかわ)寺などが有名となった。さらに観音三十三身に数をあわせた西国三十三所の霊場信仰がしだいに定着する。近世になると、坂東(ばんどう)三十三所、秩父(ちちぶ)三十三所など地方的な札所巡礼が盛んになる一方、儀式のうえにも説話文学にも観音信仰が浸透していった。

[壬生台舜]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「観世音菩薩」の意味・わかりやすい解説

観世音菩薩
かんぜおんぼさつ
Avalokiteśvara

観自在菩薩とも訳す。大乗仏教において特に崇拝されている菩薩の名。世間の人々の救いを求める声を聞くとただちに救済する求道者の意。救う相手の姿に応じて千変万化の相となるという。阿弥陀仏の脇侍ともなる。胎蔵界曼荼羅の中台八葉院西北,また蓮華部院の主尊。総体は聖観音で,千手,十一面,如意輪,准胝 (じゅんてい) ,馬頭,不空羂索の六観音のほか,『観音経』には,三十三身を示現することを説く。したがって観音の霊場は 33ヵ所あることになっている。その像容は,化仏のついた宝冠をかぶり,天衣 (てんね) ,裙 (くん) を着け,瓔珞 (ようらく) ,鐶釧 (かんせん) で身を飾り,蓮華を手にして蓮華座の上に立像または坐像の姿で表現される。日本では7世紀前半以後江戸時代まで盛んに造られた。著名な遺品として法隆寺『百済観音』『夢違観音』,薬師寺『聖観音菩薩像』,唐招提寺金堂『千手観音菩薩像』などがある。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「観世音菩薩」の解説

観世音菩薩 かんぜおんぼさつ

人々の訴えを観じ,ただちにすくうという菩薩。
観音経(かんのんぎょう)ではさまざまに姿をかえる三十三応化身(おうげしん)が説かれ,六観音,三十三観音などの変化観音や三十三所信仰のもととなる。浄土教経典では勢至菩薩とともに阿弥陀如来の脇侍(きょうじ)。日本には飛鳥(あすか)時代につたわり,那智(なち)山(和歌山県)を聖地とする西国三十三所などの霊場が生まれた。略して観音という。別名に光世音,観自在など。

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改訂新版 世界大百科事典 「観世音菩薩」の意味・わかりやすい解説

観世音菩薩 (かんぜおんぼさつ)

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百科事典マイペディア 「観世音菩薩」の意味・わかりやすい解説

観世音菩薩【かんぜおんぼさつ】

観音(かんのん)

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世界大百科事典(旧版)内の観世音菩薩の言及

【観音】より

…インド一般ではイーシャの代りにこれと同じ意味をもつイーシュバラĪśvaraの呼称も用いられ,これを中国仏教では〈自在〉と訳す。オエショの像のある貨幣の重要さからみて,当時この神の信仰は非常に盛んであったことがわかり,この信仰が大乗仏教に観世音菩薩を生み出す契機をもたらしたと思われる。仏教ではイーシュバラにその属性を示す修飾語〈見守るものavalokikā〉をつけてアバローキテーシュバラAvalokiteśvaraとしたものと思われる。…

※「観世音菩薩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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