皮膚結核(読み)ひふけっかく(その他表記)Cutaneous tuberculosis

六訂版 家庭医学大全科 「皮膚結核」の解説

皮膚結核
ひふけっかく
Cutaneous tuberculosis
(皮膚の病気)

 皮膚結核は大きく、真性(しんせい)皮膚結核(結核菌が皮膚に侵入してそこに病巣をつくる)と結核疹(けっかくしん)(体内のほかの結核病巣が原因となって皮膚に病変が起こる)に分けられます。

 真性皮膚結核には、尋常性狼瘡(じんじょうせいろうそう)皮膚腺病(ひふせんびょう)皮膚疣状結核(ひふゆうじょうけっかく)などがあり、病変部から皮膚組織をとって結核菌を培養したり、核酸増幅法(かくさんぞうふくほう)という特殊な検査で結核菌を証明します。

 一方、結核疹には、壊疽性丘疹状(えそせいきゅうしんじょう)結核疹、バザン硬結性紅斑(こうけつせいこうはん)などが含まれ、皮膚病変部には結核菌はいません。

 いずれも、体のほかの臓器の結核病巣を積極的に調べる必要があります。

尋常性狼瘡(じんじょうせいろうそう)

 結核菌に対して免疫がある人の皮膚に、結核菌が感染して起こります。非常にまれな病気ですが、真性皮膚結核のなかでは皮膚腺病とともに多い病気です。結核菌は、肺などほかの臓器の結核病巣から血液やリンパ管を介して、あるいは外部から皮膚に感染して発症します。

 顔や首によく発生します。粟粒(ぞくりゅう)大の黄赤褐色調の塊が次第に融合して赤い局面となり、辺縁に広がってゆき中心は傷跡のようになります(図54)。丸い潰瘍ができたり、初めから不規則な塊ができる場合もあります。

 診断は、発疹の特徴、皮膚からとった組織の所見、結核菌の証明などから行います。ゴム腫円板状エリテマトーデスハンセン病サルコイドーシススポロトリコーシスクロモミコーシスなどとの区別が必要です。

 治療は、抗結核薬イソニアジドリファンピシンの2剤やエタンブトールを加えた3剤を一緒に内服する併用療法を行いますが、半年から1年継続することが必要です。治っても瘢痕(はんこん)を残し、そこに有棘(ゆうきょく)細胞がんが発生すること(狼瘡がん)があります。

皮膚腺病(ひふせんびょう)

 首や(わき)の下などに、皮膚に近いリンパ節、骨、関節、筋肉、あるいは腱の結核病巣から結核菌が皮膚へ直接感染して起こる病気です。非常にまれですが、真性皮膚結核のなかで尋常性狼瘡とともに多い病気です。活動性の肺結核を伴っていることがあります。

 通常は首のリンパ節がはれることから始まり、その塊が少しずつ大きくなって皮膚と癒着して膿瘍(のうよう)となり(図55)、皮膚が自然に崩れて潰瘍ができます。膿瘍は皮膚のなかで互いにトンネル状に連なって、凹凸の目立つ瘢痕をつくります。

 検査は、病巣からうみをとって結核菌の培養を必ず行います。ツベルクリン反応は陽性となり、赤沈も亢進します。病巣部の範囲をCTやMRIで確認し、ほかの臓器に結核病変がないかを調べます。

 診断は、皮膚病変の特徴などから容易ですが、ゴム腫、悪性リンパ腫非結核性抗酸菌症(ひけっかくせいこうさんきんしょう)などとの区別が必要です。

 治療は、抗結核薬のイソニアジドとリファンピシンの2剤やエタンブトールを加えた3剤の併用で、半年から1年間の内服が必要です。

皮膚疣状結核(ひふゆうじょうけっかく)

 皮膚病変がいぼに似ている皮膚結核で、皮膚に傷を受けやすい四肢やお尻にできることが多く、慢性に経過します。結核菌が外部から皮膚の傷に感染して発症します。

 赤茶色のぶつぶつとして始まり、少しずつ広がりながら表面はいぼ状となります。中央は瘢痕(はんこん)を残して治ってきますが、辺縁は堤防状、いぼ状に盛り上がって、弧を描いたように連なってゆき、慢性に経過します。

 ツベルクリン反応は陽性になります。皮膚をとって組織の検査を行い、また、結核菌も必ず培養して診断の参考にします。尋常性狼瘡(ろうそう)、クロモミコーシスなどとの区別が必要です。

 治療は、尋常性狼瘡に準じて抗結核薬を内服します。

壊疽性丘疹状結核疹(えそせいきゅうしんじょうけっかくしん)

 主に四肢の前側に、暗赤色のぶつぶつが多数できて、その中心部はかさぶたとなって取れ、小さい潰瘍となります。自然に治癒しますが、次々と新しいものができ、古いものと新しいものが混在します。比較的若い女性に多く発症します。

 結核菌、あるいはその代謝産物に対するアレルギーにより、皮膚の浅い部分の血管に炎症が起き、皮膚が小さく壊死(えし)して病変ができると考えられています。皮膚病変部には結核菌は見つかりません。

 抗結核薬などが使用されますが、治療に抵抗することが多く、皮膚病変は出たり消えたりします。

⑤バザン硬結性紅斑(こうけつせいこうはん)

 主に女性の両方のすねに生じます。初めはエンドウマメ大くらいのしこりを触れる赤紫がかった斑点で、次第に大きくなり、古くなると表面が崩れて潰瘍になることがあります(図56)。痛みはひどくありません。

 結核菌に免疫がある人の皮膚に、結核菌あるいはその毒素などが到達して起こるとされていますが、ほかの臓器に活動性の結核の合併が少ないこと、結核菌が見つけられないことなどから、結核との関連を否定する考え方もあります。

 よく似た病気には、結節性紅斑(こうはん)血栓性静脈炎ベーチェット病などがあり、区別するためには皮膚組織を取って調べる検査が必要です。

 治療は、下肢の安静が最も重要です。抗結核薬や非ステロイド性消炎薬も用いられます。

多田 讓治


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「皮膚結核」の意味・わかりやすい解説

皮膚結核
ひふけっかく

結核菌によっておこる皮膚の病変をいい、真正皮膚結核と結核疹(しん)の2種類がある。真正皮膚結核は、結核菌が他の臓器の結核(たとえば肺結核、腎(じん)結核など)から血行性に皮膚に運ばれたり、リンパ節、骨、内臓の結核から連続性に皮膚を冒したり、外傷から皮膚に感染したりしておこるもので、結核菌そのものによっておこる病変をいう。結核疹は微量の結核菌や菌の成分(毒素)に対するアレルギーとしておこるもので、体質的因子が関与し、普通は病変部に結核菌が証明されない。

 真正皮膚結核の代表的なものに尋常性狼瘡(ろうそう)、皮膚疣状(ゆうじょう)結核、皮膚腺病(せんびょう)、結核疹の代表的なものにバザン硬結性紅斑(こうはん)、丘疹状壊疽(えそ)性結核疹、顔面播種(はしゅ)状粟粒(ぞくりゅう)性狼瘡がある。(1)尋常性狼瘡 おもに顔、ときに体の他の部位にも生じ、赤みを帯びた黄色い丘疹(狼瘡結節)が集まって広がり、境界の明瞭(めいりょう)な、わずかに盛り上がりやや硬く触れる赤みがかった病変となり、潰瘍(かいよう)や瘢痕(はんこん)をつくる。ときにかゆみがあるが、自覚症状はほとんどない。(2)皮膚疣状結核 手足や臀部(でんぶ)などの外傷を受けやすい部位に生じ、境界明瞭な、盛り上がって表面がざらざらした病変をつくる。自覚症状はほとんどない。(3)皮膚腺病 頸部(けいぶ)リンパ節結核から連続性に生ずることが多く、リンパ節とその上の皮膚が赤みを帯びて腫(は)れ、面内に潰瘍や瘻孔(ろうこう)をつくる。(4)バザン硬結性紅斑 おもに下腿(かたい)に生じ、皮膚の深部に指先くらいの大きさのしこりが散在性にばらばらと生じ、その上の皮膚は赤く腫れて圧痛がある。(5)丘疹状壊疽性結核疹 おもに胸、背、肘(ひじ)、膝(ひざ)に生じ、周囲は赤みが強く中央に膿(うみ)をもったアズキ大の丘疹が散在し、自覚症状は軽い。(6)顔面播種状粟粒性狼瘡 顔の目の周囲、眉間(みけん)、ほお、おとがいなどに、アワ粒大からケシ粒大の赤い丘疹が多発し、ときに中央に膿をもつ。軽いかゆみや熱感を伴うことが多い。

 現在、真正皮膚結核は他の結核と同様に非常に減少したが、結核疹は現在でもしばしばみられる。皮膚結核に似た病気は多いので、かならず皮膚科専門医による検査、とくに組織検査がたいせつである。真正皮膚結核には、パス、イソニアジド、ストレプトマイシンカナマイシン、エタンブトール、リファンピシンなどの抗結核剤が非常に有効で、副作用耐性菌を考慮してこれらの二者あるいは三者をうまく組み合わせて治療する。結核疹は抗結核剤のみでは治りにくく、再発を繰り返すことも多いので、抗アレルギー剤などを併用し、長期にわたる治療が必要である。

[野波英一郎]


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改訂新版 世界大百科事典 「皮膚結核」の意味・わかりやすい解説

皮膚結核 (ひふけっかく)
tuberculosis cutis

結核菌による皮膚の慢性炎症。BCG接種部位に生じるものは直接局所に菌が入ったために起こるものだが,それ以外はいったん肺など体内に入った結核菌が血液を通して皮膚に達して病変を生じたものである。病理学的には,結核性肉芽をつくり,乾酪壊死(組織が壊死してチーズ状になった状態)をかこんで類上皮細胞,ラングハンス巨細胞などが集合するのが特徴である。大きく真正皮膚結核と結核疹とに分けられる。前者は結核菌が皮膚組織内に侵入して生じた病変で,尋常性狼瘡(ろうそう),皮膚腺病,疣状(ゆうじよう)結核などがあり,限局した病変をつくって,そこからはしばしば結核菌がみつかる。後者は一種の結核アレルギーによる病変で,菌存在の証明が困難である。壊痕性丘疹状結核疹,陰茎結核疹,バザン硬結性紅斑,腺病性苔癬(たいせん)などを含む。顔面播種状粟粒(ぞくりゆう)性狼瘡は,以前は結核疹として扱われていたが,近年ツベルクリン反応が弱いなどの理由から結核疹からはずされる傾向にある。治療は抗結核剤の化学療法による。
結核
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百科事典マイペディア 「皮膚結核」の意味・わかりやすい解説

皮膚結核【ひふけっかく】

結核菌または結核菌の産生する毒素により生じた皮膚病の総称。尋常性狼瘡(ろうそう)のほか,角質増殖の著しい疣贅(ゆうぜい)様皮膚結核症,皮下リンパ腺・骨などの結核から病変が皮膚に及ぶ皮膚腺病などがある。結核疹は,結核菌に対する過敏状態にある皮膚に,結核菌毒素や少数の結核菌が血行性に達して発疹(はっしん)を生じるもの。治療は抗結核薬投与。
→関連項目結核太陽灯丸山千里

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家庭医学館 「皮膚結核」の解説

ひふけっかく【皮膚結核】

 皮膚結核は結核菌による皮膚病変で、病変部に結核菌の存在が証明できる真性皮膚結核(しんせいひふけっかく)と、証明できない結核疹(けっかくしん)(結核アレルギーといわれます)とに分けられます。現在では、高齢者を除き、その発病はまれ(結核疹はさらにまれ)になっています。
 真性皮膚結核の症状は、顔面に紅褐色で形の不ぞろいなぶつぶつ(尋常性狼瘡(じんじょうせいろうそう))ができたり、四肢(しし)(手足)にいぼ状の皮疹(ひしん)(皮膚疣状結核(ひふゆうじょうけっかく))ができたり、関節やリンパ節の周囲に潰瘍(かいよう)や瘻孔(ろうこう)(皮膚腺病(ひふせんびょう))ができたりします。
 治療は抗結核療法を行ないます。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「皮膚結核」の意味・わかりやすい解説

皮膚結核
ひふけっかく
skin tuberculosis

結核菌感染によって生じた皮膚病変の総称で,次の3群に大別される。 (1) 真性皮膚結核 病巣が限局しており,病巣部に結核菌が陽性に出るもの。 (2) 皮膚粟粒結核 粟粒結核症の病巣から菌が血行性に散布されて皮膚病変を生じたもの。 (3) 結核疹 結核に過敏な個体に菌ないし菌体成分が血行性散布され,抗原抗体反応の結果,皮膚病変を生じたもの。バザン硬結性紅斑,壊疽性丘疹状結核疹,陰茎結核疹,腺病性苔癬,顔面播種状粟粒性狼瘡などが含まれる。しばしばみられる顔面播種状粟粒性狼瘡の症状としては,まぶたや鼻のまわりににきびのような発疹が現われる。

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