県主(読み)アガタヌシ

デジタル大辞泉 「県主」の意味・読み・例文・類語

あがた‐ぬし【県主】

大化の改新以前、県を統治した首長。朝廷直轄地の長とも、国造くにのみやつこ支配下ともいう。祭祀もつかさどった。のちにかばねの一つとなった。

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精選版 日本国語大辞典 「県主」の意味・読み・例文・類語

あがた‐ぬし【県主】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 大化前代、県(あがた)と呼ばれた地方行政単位の首長。国造(くにのみやつこ)配下にあったとも大和政権直轄領長官であったともいわれる。
    1. [初出の実例]「国々の堺と大県小県の県主を定め賜ひき」(出典:古事記(712)中)
    2. 「弟磯城、名は黒速を、磯城の県主と為」(出典:日本書紀(720)神武二年二月)
  3. ( から転じて ) 大化改新後は氏の地位を示す姓(かばね)の一つ。
    1. [初出の実例]「大和国添下郡人左大舎人大初位下県主石前賜姓添県主」(出典続日本紀‐天平神護元年(765)二月甲子)

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改訂新版 世界大百科事典 「県主」の意味・わかりやすい解説

県主 (あがたぬし)

倭(やまと)王権の地方組織であったの長。県の性格そのものが,王室の直領地,国造が管する国の下級組織,あるいは評(こおり),郡の直接前身をなす行政区画と解されるなど一定せず,県主の理解もなお定まっていない。しかし高市県主許梅(こめ)が壬申の乱中に神託を下し,また県主神社,県神社が祭られたなど,県主に司祭者的色彩がつよい。《延喜式》祝詞にみえる大和の六御県(むつのみあがた)が供御料地とされ,山背の葛野県主が殿部(とのもり),水部(もいとり)となって奉仕したとあるように,王室への従属性は明らかである。一方,県には王室領としての〈あがた〉と行政組織としての〈こおり〉があって,それぞれ県主と稲置いなぎ)が管掌したとする見解がある。県の古訓に〈あがた〉と〈こおり〉の二つがあり,《日本書紀》大化元年8月条に〈県稲置(こおりのいなぎ)〉がみえるのが主たる論拠。県主はおそくとも7世紀には官職的地位を失って氏姓化したが,県主の同族集団は702年(大宝2)の御野国加毛郡半布里戸籍から県造-県主-県主族の構造で復元できる。
国造(くにのみやつこ)
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「県主」の意味・わかりやすい解説

県主
あがたぬし

古代、大和(やまと)王権の地方制度県(あがた)を支配した首長で、のちに姓(かばね)となる。大和王権の直轄領となった県から、その特産物を朝廷に納め、また県の神社を管理した。山城(やましろ)(京都府)の鴨(かも)県主は、賀茂(かも)神社(現在の上賀茂神社、下鴨神社の前身)を祀(まつ)り、その地域の農耕を管理していた。そのかたわら、宮廷神事にも携わり、天皇即位の大嘗祭(だいじょうさい)には、灯を掲げて夜間祭事の案内役を勤めた。このことがもとになって、鴨県主が祀る八咫烏(やたがらす)が、神武(じんむ)天皇の道案内役を勤めたという、『古事記』『日本書紀』の話が生まれたといわれる。このように、県主のなかには宮中の神事と関係の深い例も少なくない。

[原島礼二]

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百科事典マイペディア 「県主」の意味・わかりやすい解説

県主【あがたぬし】

大和朝廷地方官。はじめ小地域の司祭者であり王であったが,国家統一後,県の首長とされた。県は国の下部組織とも,国に先行する行政区画ともいう。地位は世襲されたため,県主は(かばね)の一種ともなった。
→関連項目氏姓制度

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「県主」の解説

県主
あがたぬし

大和政権の地方組織である県(あがた)の長。畿内の県主は大和国の六御県(むつのみあがた)の県主のように,朝廷の直轄領を管理し,蔬菜・薪炭・氷などの日常物資を貢納した。のちに主殿(とのも)寮の伴部(ともべ)となる葛野(かどの)県主(賀茂(かも)県主)はその典型である。一方,畿外の県主については,国造制成立以前におかれた大和政権の古い地方組織の長(政教一致)とみなす説,「隋書」倭国伝の記載によって,国造―県主(稲置(いなぎ))という2段階の地方統治組織が7世紀にあったと考える説などがだされている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「県主」の意味・わかりやすい解説

県主
あがたぬし

大化以前のの支配者。のち (かばね) の一つとなった。「記紀」や「風土記」の伝承によれば,皇室直轄地の首長,また国造 (くにのみやつこ) が支配する国の下部組織の長ともいわれる。神の霊をとどめ,託宣を聞くなど宗教的な性格を帯び,祭祀に関する機能を果したといわれる。

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旺文社日本史事典 三訂版 「県主」の解説

県主
あがたぬし

大化以前の県の首長
多くは大和政権に服属した地方豪族が任じられた。のち姓 (かばね) の一種となった。

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防府市歴史用語集 「県主」の解説

県主

 古墳時代の朝廷[ちょうてい]が直接支配していた土地(県[あがた])を、管理していた責任者のことです。

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世界大百科事典(旧版)内の県主の言及

【首】より

…古くは統率者をあらわす称呼であったものが姓となる。主として地方の県主(あがたぬし)・稲置(いなぎ),および部民(べみん)の統率者,または屯倉(みやけ)の管理者に与えられた。県主の例として志紀県主の志紀首,稲置の例として伊賀の稲置代首,部民の統率者の例として赤染部の統率氏族の赤染部首,そして屯倉の管理者の例として新家屯倉の新家首にみられる。…

【国造】より

…伴造が職能集団の宰領者であるのに対し,国造は(くに)と呼ばれる地域の支配者で,古い形の地方長官ともいえる。多くは各地域の小君長の後であり,中には4世紀から5世紀にかけて盛行した大和朝廷の地方制度である県主(あがたぬし)が国造になったものもある。彼らは,ほとんどが自分の勢力圏となっている地域の地名を氏とし,臣(おみ)・連(むらじ)・君・公(きみ)・直(あたい)・造などの姓(かばね)を称した。…

【氏姓制度】より

…国造は,代表的な地方豪族をさし,一面では朝廷の地方官に組みこまれ,また在地の部民をひきいる地方的伴造の地位にあるものもあった。県主(あがたぬし)は,これより古く,かつ小範囲の族長をさすものと思われる。いずれも地名を氏の名とし,国造には,君,直の姓(かばね)が多く,中には臣を称するものもあった。…

※「県主」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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