着氷(読み)ちゃくひょう(英語表記)icing

翻訳|icing

精選版 日本国語大辞典 「着氷」の意味・読み・例文・類語

ちゃく‐ひょう【着氷】

〘名〙 大気中の物体に氷が付着すること。航空機の翼やプロペラに付着して失速の原因となったり、船舶では船体に付着し、重心を高くするため転覆の原因になったりすることがある。〔天気予報論(1946)〕

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デジタル大辞泉 「着氷」の意味・読み・例文・類語

ちゃく‐ひょう【着氷】

[名](スル)
空気中の水蒸気、または過冷却水滴が、物体の表面に凍りつくこと。また、その氷。霧氷もこの一種。氷結。アイシング。「プロペラに着氷して失速する」
フィギュアスケートで、ジャンプの後、氷面に降り着くこと。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「着氷」の意味・わかりやすい解説

着氷
ちゃくひょう
icing
ice accretion

物体の表面に大気中の水分が凍りつく現象。樹木の枝につく場合は2種類に分類されている。一つ樹霜で、これは大気中の水蒸気が冷えた枝に昇華凝結したものである。多くは風の弱い晴天夜に放射冷却したとき発達し、樹霜そのものは細かな霜の結晶の集合である。機械的強度も付着力も弱いため、日が照ると消滅してしまう。もう一つは、大気中の過冷却した水滴が枝に衝突して凍結する場合、すなわち霧氷で、樹氷粗氷雨氷の3種に小分類される。衝突した過冷却水滴が次々と凍結してできるのが樹氷である。樹氷は多くの気泡を含むため白く強度も弱い。山形・宮城両県にまたがる蔵王山(ざおうさん)の「モンスター」や「エビしっぽ」が樹氷の代表的な例である。衝突した過冷却水滴が凍りきらないうちに次の過冷却水滴が衝突するような場合、着氷体は透明な氷となり雨氷とよばれる。雨氷は枝にしっかりと凍りついた氷であるから、とれにくく強度も強い。雨氷と樹氷の中間が粗氷である。送電線、アンテナ、航空機、船体、などにつく着氷は大きな被害を及ぼすことがある。着氷防御法としては、物体に氷がつきにくい塗料や薬剤を塗ったり、ついた着氷を機械的に除去しやすくしたり、あるいは物体の表面を暖めたりなど種々の方法が実施されている。着雪は、降雪吹雪(ふぶき)のとき雪が物体につく現象である。着雪に関しても、着氷と同じような対策が考えられている。

[前野紀一]

船体着氷

船体への着氷は、外気に露出している船体、ハンドレール、ブルワーク、索具、アンテナ類などに海水の飛沫が凍り付くもので、着氷を除去しないと重心位置が上昇し、船体の復原力が低下する。そこへ強風や大波がくると突然転覆することもあり、海難原因の一つとして恐れられている。冬季、北海道など北国の気象官署では、着氷のおそれのある場合に「着氷注意報」を出して注意を喚起している。

[半澤正男]

宇宙船体への着氷

着氷に関連する問題として、宇宙船スペースシャトル打上げの際、燃料タンクに付着した氷がはがれて宇宙船体の耐熱タイルが傷つけられたり、スペースシャトルからの廃液が氷結することなどがある。これらは前述の過冷却の水滴や海水飛沫によるものとは別の原因によるものであるが、氷が対象である点は同じといえよう。

[半澤正男]

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改訂新版 世界大百科事典 「着氷」の意味・わかりやすい解説

着氷 (ちゃくひょう)
ice accretion

大気中の水蒸気が物体に昇華したり,また主として過冷却雲粒や水滴が物体に付着し凍結してできた氷,およびその現象。したがって着氷には,そのでき方によって霧氷の過程をとるものと雨氷の過程をとるものがあるが,一般には後者の場合をいうことが多い。過冷却雲中を飛行中の航空機への着氷は,揚力やプロペラの効率を減じ,最も危険視されている(航空気象)。冬季の北洋での船体着氷は船の復原力を減じ,一瞬にして転覆沈没といった遭難をひき起こす。最近は送電線に発生する電線着氷や電線着雪による被害もかなり大きくなってきているが,着雪は着氷とはその形成機構は異なっている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「着氷」の意味・わかりやすい解説

着氷
ちゃくひょう
icing

空気中の水蒸気や水滴が物体の表面に凍りつく現象。飛行中の航空機には過冷却した水滴が衝突して氷結する。プロペラ翼の前縁に着氷すると形が不整になって失速の恐れが,さらにエンジンの気化器や空気取入口に着氷するとエンジン停止の危険が生じる。また冬季の海上で,風浪により船体に海水が付着し凍ったものを海氷という。層状に重なり多量に付着するため,船の重心が上がり,転覆の危険がある。日本ではオホーツク海で,海氷による漁船の遭難が多い。送電線などに発生する電線着氷や雪の付着による電線着雪も,停電などの災害をもたらすことがある。

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百科事典マイペディア 「着氷」の意味・わかりやすい解説

着氷【ちゃくひょう】

空気中の過冷却の水滴が,物にぶつかり,その衝撃で氷となって付着する現象。航空機が積乱雲の中を飛ぶときによく起こり,冬に高緯度の海洋では波のしぶきが漁船などに凍りつき,船体着氷を起こす。ともに事故の原因となる。冬山で起こる霧氷もこの現象の一つ。

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世界大百科事典(旧版)内の着氷の言及

【航空気象】より

…安全に離着陸するためには,風,雨,雲,霧,気温などの通報や予報は欠かせない。さらに飛行中には,危険を避けるため乱気流,着氷,雷,トルネードなどに関する情報が必要であり,追風を利用し経済的に飛行するため上層の風に関する情報も必要である。このような要求に応じるため,各国の気象機関では,地上,上層の気象観測を行い,各種天気図を解析し予報を作り各航空会社へ通報するほか,航空用の各種気象データを放送している。…

※「着氷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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