精選版 日本国語大辞典 「知行合一」の意味・読み・例文・類語
ちこう‐ごういつチカウガフイツ【知行合一】
- 〘 名詞 〙 「ちこうごういつせつ(知行合一説)」の略。
- [初出の実例]「知行合一の哲理、プラグマティズムの理合などは」(出典:搦手から(1915)〈長谷川如是閑〉殿さまお目ざめ)
- [その他の文献]〔伝習録‐中・答顧東橋書〕
陽明(ようめい)学の命題の一つ。知ることと実行することとは本来二つには分けられない、とすること。王陽明(守仁(しゅじん))は、朱子学が真理の認識や道徳的是非の判断(知)を先にしてその実践(行)を後にする知先行後論に傾きがちであったことや、明(みん)代の俗学が実践を伴わない空論に流れたことを批判して、知行合一を主張した。そのため、知っているだけで実行しないのはまだ本当の知とはいえない、とし、実践のうえで知と行とが一致することを要請する実践重視・体験重視の立場(事上磨錬(じじょうまれん))をとっている。また王陽明のいう「行」の概念は幅が広く、人間の心の働き、たとえば好悪の情や心に兆す意欲・思念なども「行」に含まれる。「行」は当然、道徳的規範に合致していなければならず、そこでは行動として外に表れた不善だけでなく、心内の思念の不善をも克服する厳しさが求められる。これらを実現する心が、王陽明のいう「良知」である。
[杉山寛行]
中国,明代の思想家,王守仁(陽明)の主張した実践論。王陽明は,人間を“現在”と理解する。つまり,人間が真に実在するのは“今”だけである。現実に存在する,すなわち現在するとは,分割不可能な一瞬の今にしか実在しないということである。知(認識)・行(実行)というも,朱子学以来の伝統的用法にのっとって,“現在”する人間の活動形態を仮にそのように分別し限定して表現しているにすぎない。知行を実践する主体の存在自体が分割不可能な時間の“今”にしか実在しないのだから,知・行という分相を主体(心という)に返して理解するなら,知・行の両者を先後軽重に分別することはできない。このことを知行合一と表現した。朱子学の知・行先後軽重論に対する鋭い反措定でありながら〈合一〉という措辞はいかにもつたなく,そのためとくに“現在”を理解できなかった朱子学者からはおおむね誤解された。日本では実践強調論,体験主義と理解されがちであったが,まったくの誤解である。
→陽明学
執筆者:吉田 公平
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…王陽明によれば,人間の心には先天的に良知が備わっており,この良知を極め尽くすこと,すなわち〈致良知〉が聖人に至る道である。さらに知の意味を説いて,単なる見聞の知は真の知ではなく,行を通じてのみ真の知となるという〈知行合一〉の説を唱えた。その学問は主観主義的な心学の性格が強く,禅宗色が濃厚である。…
※「知行合一」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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