神坂峠(読み)みさかとうげ

日本歴史地名大系 「神坂峠」の解説

神坂峠
みさかとうげ

長野県下伊那阿智あち村との県境の標高一五九五メートルの峠。恵那山(二一八九・八メートル)と神坂山(富士見台、一六八四・二メートル)の鞍部に位置し神の御坂科野しなの坂・信濃坂とも書き、峠名は「古事記」にある倭建命の「科野の坂の神を言向けて、尾張国に還り来て」の伝承によるが異説がある。天平勝宝七歳(七五五)防人に旅立った信濃埴科はにしな郡神人部子忍男が「ちはやぶる神の御坂に幣奉ぬさまついわふ命はおも父のため」と、旅の無事を祈った歌が「万葉集」(巻二〇)に収められている。「続日本紀」大宝二年(七〇二)一二月一〇日条に「始開美濃国岐蘇山道」とある。また和銅六年(七一三)七月七日条には「美濃信濃二国之堺、径道険隘、往還艱難、仍通吉蘇路」と記載されている。


神坂峠
みさかとうげ

岐阜県中津川市神坂と阿智村の境にある木曾山脈を越える峠。標高一五九五メートル。古くは神の御坂かみのみさか、または信濃坂しなのざかともいい、「延喜式」所載の官道東山道は、美濃国府より同国坂本さかもと駅を経、神坂峠を越えて園原そのはら昼神ひるがみを過ぎ、信濃国阿知あち駅に出て、天竜川に沿って碓氷坂に通じていたものである。神坂峠はいわば信濃国の玄関口となっていた。

記紀の倭建命(日本武尊)の伝承の中で、この峠は科野しなの坂・信濃坂と記され、「古事記」では「科野の坂の神を言向けて尾張国に還り」とあり、「日本書紀」景行天皇四〇年是歳の条には、白鹿に姿を変えて現れた山の神に蒜を投げつけて殺したために道に迷い、苦しんだ話が載る。景行紀は「是より先に、信濃坂を度る者、多に神の気を得てえ臥せり。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「神坂峠」の意味・わかりやすい解説

神坂峠
みさかとうげ

長野・岐阜県境にあり、木曽山脈(きそさんみゃく)南部を越える峠。標高1576メートル。古代の官道である東山道(とうさんどう)が美濃(みの)(岐阜県)から信濃(しなの)に入る峠で、信濃では碓氷(うすい)峠とともにもっとも険しい峠であった。峠には鏡や滑石の玉などが多量に発掘された祭祀遺跡(さいしいせき)がある。旅人が旅の安全を祈って神に捧(ささ)げたもので、山麓(さんろく)の神坂神社(阿智(あち)村)には防人(さきもり)が詠んだ「ちはやふる神のみ坂に幣奉(ぬさまつ)り斎(いは)ふ命は母父(おもちち)がため」(『万葉集』巻20)の歌碑が立つ。峠からは伊那(いな)盆地や南アルプス、中津川方面が一望でき、富士山も見える。峠へは車道が通じ、中央自動車道恵那(えな)山トンネルが峠直下を通っている。

[小林寛義]

『市川健夫著『信州の峠』(1972・第一法規出版)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「神坂峠」の意味・わかりやすい解説

神坂峠
みさかとうげ

岐阜県南東部,中津川市と長野県阿智村の境にある峠。標高 1595m。古くは『延喜式』の官道に利用されたが,現在はあまり整備されていない。中央自動車道は峠の北方下を恵那山トンネルで通過している。

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世界大百科事典(旧版)内の神坂峠の言及

【阿智[村]】より

…工場誘致も進められ,工業生産も増加傾向にある。岐阜県との境にある神坂峠はかつて東山道最大の難所として知られ,頂上には古代祭祀遺跡(史),近くには箒木の伝説の残る園原がある。また駒場は武田信玄の終焉(しゆうえん)の地といわれる。…

【木曾山脈】より

… 木曾山脈は古くから木曾谷と伊那谷の東西交通の障壁となってきた。古代の峠道として利用された神坂(みさか)峠(1595m)付近の地下を,恵那山トンネル(中央自動車道)が通過し,また清内路峠(1192m)を国道256号線が通過して便利になったところもあるが,大平峠(木曾峠,1358m)や上伊那郡の牛首峠(1072m)などの交通路は不完全である。木曾谷におけるかつての中山道や現在の中央本線(西線),国道19号線,伊那谷におけるかつての三州街道や現在の飯田線,国道153号線などは,いずれも木曾山脈の一般走向に並走している。…

※「神坂峠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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