子供などが急にみえなくなることをいう。以前農村などにはよくあったことで、これを天狗(てんぐ)にさらわれたなどといって、村中総出で鉦(かね)・太鼓(たいこ)をたたいて捜した。なかなかみつからないが2、3日してひょっこり帰ってくることがあった。話を聞いてもうろ覚えのことが多い。大人の場合には、すこし愚鈍の男というのがよく神隠しにあう。狐(きつね)にさらわれたといって稲荷(いなり)神社に願ったり、稲荷下げに頼んだりする。稲荷神に願うと狐が罰せられるので、すぐ返してくれるという。天狗は子供が好きだといって、子供を連れて空を飛んだり川を越したりする。神隠しを捜すのに枡(ます)の底をたたいて捜す。天狗はその音がたいへん嫌いだという。沖縄にも神隠しの話がよくあり、物迷いという。モノというのは一種の霊で、それに誘われてあちこちを連れて歩かされる。多く夕方から夜中にかけてのことである。モノに迷わせられると普段歩けないところも通って行く。水面や断崖(だんがい)などを飛ぶとき、屁(へ)をひると落とされるので危険である。モノにさらわれると赤豆飯(あずきめし)を食べさせられるが、それは赤土である。家に戻ってきた後の便をみると、赤土が混じっているという。東北地方などによく大人が急にみえなくなった話がある。女の場合が比較的多く、山男に連れ去られその女房になったという。そういう者は一度だけ村に姿をみせることがあるが、ふたたび姿を隠して行方が知れなくなってしまうという。
[大藤時彦]
人が突然行方不明になったとき,神に隠されたと解釈することをいう。子どものことが多いが,成人の場合には妊娠中の女性や病弱あるいは異常心理状態の男女にみられる。さまざまな神霊が神隠しを行うとされるが,天狗にさらわれたとするところが多い。神隠しにあったときは,村中の者が鉦(かね)や太鼓をたたき,隠された者の名を呼び,〈かえせ,もどせ〉と叫んでさがしまわるのが一般的なならわしであった。行方不明の理由は,実際には,家出,誘拐,精神異常,事故死などさまざまであったと考えられる。多くは戻らなかったが,たまに2,3日して戻ってくることがあった。人々の神隠しについての観念は,戻ってきた者の体験談を中心にして形成されている。彼らの記憶はあいまいで,天狗とともに空を飛んだとか,山奥の美しい花畑を歩いてまわったとかいった話をする。この場合は,一時的な意識障害によって夢遊病のような状態になり,村の外を歩きまわったものと思われる。ここには,民俗社会の他界観が表出しており,神隠しは一種の他界訪問といえる。
執筆者:小松 和彦
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…今日では,外出中道に迷ったり,親にはぐれたりなどした子どもをいうが,古くは,原因不明の幼児の失踪を指す〈神隠し〉と同義であった。明治時代の中ごろまで,ときにはそれ以後も,農山村や都市で,とくに農村では麦の刈入れに忙しい春の一時期,時間的には夕刻の薄明のころに,突然子どもが原因不明の失踪をすることが少なくなかった。…
※「神隠し」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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