稲(いね)を収穫時に刈り取ったあと、脱穀までの間乾燥する方法の一つを架干(はさぼ)しといい、架干ししている状態または架干しのための構造物を稲架という。刈り取った稲は束ねてから乾燥するが、その方法には地干(じぼ)し、積干(つみほ)し、杭干(くいほ)し、架干しなどがある。
地干しは田面に置いて乾かすもので、平(ひら)置き、倒立置き、寄(よせ)置き(いわゆる島立(しまだ)て)などがあり、もっとも簡単な方法である。田面が乾いた所で行われるが、田の乾きぐあいで置き方を異にする。全国的にわずかずつみられる。
積干しは鳰(にお)またはコヅミなどといわれる方法で、稲束の穂のほうを内側にして円錐(えんすい)状あるいは角柱状の小山に積む。堆積(たいせき)の片面だけに穂をそろえる片積みもある。この方法は、米と藁(わら)をゆっくり乾燥させて、急乾燥による品質の劣化を防ぐもので、地干しの欠点を改良した方法である。秋に田面のよく乾燥する瀬戸内海沿岸地域をはじめ、北九州、中部地方、東北地方の一部などでみられる。
杭干しは棒掛けともいい、田の畦(あぜ)に棒杭を一定の間隔に立て並べ、各杭の地面から数十センチメートルの所に止め木を直角につけ、それを台にして、杭を中軸に稲束を穂先を外にしてかけ重ねる。掛け方には十字掛けと螺旋(らせん)掛けとがある。棒の高さは地域により異なり、1~2メートルの低い地方から2~3メートルに及ぶ高い地方もある。また地方によって1本の棒杭にかける稲束数がほぼ決まっている場合が多い。近畿地方以東北海道までの東日本、とくに東北地方に多い。次に述べる架干しより資材が少なくてすむ。
架干しはハサ、イナキなどとよばれ、横に渡した竹、棒、綱などに稲束をかける。田面が湿っている場合や湿田地帯でも稲束の乾燥ができ、全国的に雨の多い地域で広く行われる。架が1段だけの単段架はもっとも簡単な構造で、長いものは100メートルにも及び、直列のほかにジグザグ形やコの字形などもある。地域によっては2~3段のもの、さらに10~15段という高い壁状の構造につくる地方もあり、後者は北陸・山陰地方に多くみられる。多段架は田の上につくるほか、稲束を運んで住居の周りにつくる場合もある。多段架には垂直架と傾斜架とがある。傾斜架は稲をかける架面が60~70度の傾斜をもつもので、変形として両斜面の屋根形などもみられる。新潟地方ではあらかじめ畦にハンノキを一定間隔で栽植しておき、下枝を払ってその幹を支柱として多段架を組む。最近は鉄パイプやコンクリート杭も用いられている。稲架面に四角い風穴をあけて倒伏を防ぐなど、地域によって伝統的な特色のある稲架がみられる。
日本では稲が穂刈りから茎刈りに変わった奈良時代(8世紀ころ)からすでに地干しだけでなく積干しも行われ、また841年(承和8)にはもっと有効な架干しを奨励した記録が残っている。乾燥方式は米の品質に及ぼす影響が大きく、普通20~30日かけてゆっくり十分に乾燥させると品質、味覚がよい米に仕上がるといわれる。最近はコンバインが普及して、立毛のままで生(なま)脱穀するようになったので、いままで日本の秋の風物詩だった稲架は急速に姿を消しつつある。また籾(もみ)の人工火力乾燥施設が普及したことや、作業の省力化の動向から、稲架の形を簡略するようになり、伝統的な稲架が少なくなってきている。
[星川清親]
刈り取った稲束を乾燥するための木組み。手刈りまたはバインダーで刈取り・結束した稲束の乾燥法には,大別して地干し,立干し,架干し(かぼし)および棒掛けの4種類がある。このうち架干しのために用いられるのが稲架である。稲刈り直後のもみは約20%の水分を含むが,乾燥後のもみの水分は15%程度まで減少し,脱穀・調製やその後の貯蔵に好適となる。稲架には地方により種々の形式があり,その呼称も,はざ,いねかけ,いなぎ,いねぎ,かかけ,おだ,あし,だてなど多様である。2~3mごとに立てた3本足の杭に,約1.2mの高さに竹または丸太の横木を渡し,これに穂を下に向けて稲束を掛けるのが最も単純なものである。このほかに,長い杭を直立ないし斜向させて支柱で支え,2段以上多段に及ぶ横木を渡す形式もある。また,あぜに植えたハンノキなどの立木を杭の代りに利用する地方もある。最近はコンバインの普及に伴い,生脱穀・火力乾燥による方法が増加し,圃場(ほじよう)での乾燥は減少した。
執筆者:松崎 昭夫
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