豊後日出(ひじ)の儒者帆足万里が1836年(天保7)完成した西欧物理学の体系的な紹介書。8巻。J.J.L.deラランドの《天文志》,ミュッセンブルークの《窮理書》その他10余種の原書をもとに暦術,太陽系,地球,引力,生物類の広範囲にわたる学説を網羅し,かつ批判する。同じ豊後で半世紀前に〈条理学〉をとなえた三浦梅園の説が高遠にすぎるので,万里は具体的に〈物に則して理の現れる〉学を目ざした。そのモデルを洋学に見いだし,蘭書読解の苦心を経て完成したのが本書である。幕末期,新しい日本学の建設に,実用に役だつ西欧物理学の理論の導入を目ざしたのである。《帆足万里全集》《日本科学古典全書》所収。
執筆者:井上 忠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
自然科学書。理学者帆足万里(ほあしばんり)の著。全8巻。1810年(文化7)ごろ初稿を完成、しかし誤謬(ごびゅう)ありとして自ら破棄、1835年(天保6)新たに執筆に入り、翌年いちおう完成するが満足せず、1842年ごろも執筆を続けた。結局生前には公刊されず、没後、1856年(安政3)に一部公刊された。
内容は、原暦(暦法)、大界(恒星、銀河)、小界(太陽系)、地球、引力(光学、力学など)、大気(気体)、発気(気象)、諸生(動植物、生物など)からなる。オランダ語科学書の紹介にとどまらず、批判も加え独自の見解も示している。そこには近代的な科学思想、科学批判の姿勢がみられる。
[菊池俊彦]
『帆足図南次著『帆足万里』(1966・吉川弘文館)』
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