竹工芸(読み)ちっこうげい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「竹工芸」の意味・わかりやすい解説

竹工芸(ちっこうげい)
ちっこうげい

竹を素材にした工芸品。中国、朝鮮、日本、東南アジアなどで産する竹は、強靭(きょうじん)で弾力性に富み、さまざまな大きさに裂いて編める特性と、素朴で清らかな色感が好まれて、わが国では古くからいろいろな方法で加工され、日常の用具として生活のなかに取り入れられてきた。すでに縄文時代から竹で器物をつくっていたといわれるが、竹工技術も竹の特色に従って発達し、丸竹(まるたけ)物、編組(へんそ)物の2種に大別される。編組には四つ目、六つ目、八つ目、網代(あじろ)、ござ目、縄目、菊などの技術があり、縁巻きや止め飾りなどにも多くの技法がある。仕上げも、素地(きじ)を生かしたもの、染めたもの、漆塗りのものなどと変化に富む。

 竹工品のわが国最古の例は、縄文晩期とされる青森県是川(これかわ)遺跡などから出土した籃胎(らんたい)漆器である。弥生(やよい)時代になるとさらに発展がみられ、奈良県唐古(からこ)遺跡や静岡県登呂(とろ)遺跡からは、籠(かご)やざるとみられるものが出土している。古墳時代の遺品は少なく、伝世品としての竹工芸がみられるのは、仏教寺院で仏具として工芸品がつくられるようになった奈良時代に入ってからである。正倉院には中国から移入したもの、あるいはわが国でつくられたと考えられるものがあり、仏具では「花筥(けこ)」と称して、供養のために散華(さんげ)するとき用いる華籠(けこ)がある。「木画双六局(もくがすごろくのきょく)」を納める箱は、木地に竹網代編みを貼(は)り付けたもので、その細く割った竹の網を蘇芳(すおう)染め、藍(あい)染めにするなど精巧な技法を施している。

 東京国立博物館の法隆寺献納宝物館にある「竹厨子(ずし)」は、竹幹をそのまま素材として生かした経巻を入れる厨子で、今日の本箱にあたり、竹の特性を生かし、デザインも優れていて現代人の感覚にも適合する。また経巻の装飾、保存のために帙(ちつ)が用いられたが、竹を細く割り、糸や布で飾った竹帙が盛んにつくられた。正倉院の「最勝王経帙」や、平安末の神護寺(じんごじ)経の経帙200点余が現存するが、これらは竹工芸の優品というべきものである。このほかに平安時代の「竹製綾張(あやばり)華籠」(大阪・藤田美術館)、室町時代の「竹製華籠」(愛知県・性海寺)があるが、平安から室町時代にかけては遺品は非常に少ない。桃山、江戸時代になると茶道が盛んになり、花入れをはじめとして竹工芸品が焼物と並んで珍重された。とくに江戸中期になって売茶翁(ばいさおう)が出て煎茶(せんちゃ)が普及してくると、抹茶(まっちゃ)に比べより広く竹工品が取り入れられる。とくに竹筒の花入れよりも籠類が好まれるようになり、中国渡来の細(こま)編みの唐物(からもの)に人気があった。江戸から明治にかけて煎茶の興隆期を迎えるが、その中心地である堺(さかい)では唐物を模した籠花入れや茶道具がつくられ、多くの籠師が腕を競った。なかでも初代早川尚古斎(しょうこさい)(1815―1897)は、唐物の模倣に飽き足らず、優れた技術に加えて意匠に創意を生かすことに努め、竹工芸の近代化にその橋渡しをした籠師の一人である。

 その後は、依然として唐物を追う風潮が続き、技巧のみに走って独自の個性の発揮はみられなかった。しかし、昭和に入って、伝統的な技術を生かし、個性的な表現を遂げ、独自の様式を確立する作家が現れるようになった。代表的作家に、飯塚琅玕斎(ろうかんさい)(1890―1958)、生野祥雲斎(しょうのしょううんさい)(1904―1974)、2代田辺竹雲斎(ちくうんさい)(一竹斎(いっちくさい)。1910―2000)、琅玕斎の子、飯塚小玕斎(しょうかんさい)(1919―2004)らがある。さらに、1967年(昭和42)重要無形文化財「竹芸(ちくげい)」の保持者として生野祥雲斎が指定されたのに始まり、1982年には「竹工芸」の保持者として飯塚小玕斎、1995年(平成7)に2代前田竹房斎(ちくぼうさい)(1917―2003)、2003年に5代早川尚古斎(1932―2011)が指定された。

[永井信一]

『東京国立近代美術館編・刊『竹の工芸――近代における展開』(1985)』



竹工芸(たけこうげい)
たけこうげい

竹工芸

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