素襖落(読み)スオウオトシ

デジタル大辞泉 「素襖落」の意味・読み・例文・類語

すおうおとし〔すアヲおとし〕【素襖落】

(「素袍落」と書く)狂言伊勢参宮の餞別に素襖をもらい、一杯機嫌で戻った太郎冠者は、主に見つからないように隠すが、はしゃぎすぎて落としてしまい、見つかってからかわれる。
歌舞伎舞踊長唄義太夫本名題襖落那須語すおうおとしなすものがたり」。福地桜痴作詞、3世杵屋正次郎・鶴沢安太郎作曲。明治25年(1892)東京歌舞伎座初演舞踊化。新歌舞伎十八番の一。

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精選版 日本国語大辞典 「素襖落」の意味・読み・例文・類語

すおうおとしすアヲおとし【素襖落】

  1. [ 一 ] ( 素袍(ハウ)落 ) 狂言。各流。主の伯父もとに伊勢参宮の誘いにつかわされた太郎冠者は、振舞い酒に酔って戻る途中、伯父からもらった素襖を落とし、様子を見に来た主人に拾われる。
  2. [ 二 ]すおうおとしなすものがたり(襖落那須語)」の通称

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改訂新版 世界大百科事典 「素襖落」の意味・わかりやすい解説

素袍(襖)落 (すおうおとし)

(1)狂言の曲名。《素袍落》と書く。太郎冠者狂言。大蔵,和泉両流にある。急に伊勢参宮を思い立った主人は,かねて同行を約束していた伯父を社交辞令までに誘おうと,太郎冠者口上につかわす。伯父は急のこととて辞退するが,太郎冠者が主人の供をするであろうと察して門出の酒をふるまう。酩酊(めいてい)した冠者は伯父をほめそやし,主人の愚痴を言い気炎をあげたうえに,祝儀に素袍までもらい,上機嫌で帰途につく。太郎冠者の帰りが遅いので途中まで迎えに出た主人が伯父の返事を問いただしても,要領を得ない。主人は腹を立てるが,そのうち,ふらふらしながら冠者が素袍を落としたので,主人はそれをそっと拾い,冠者をからかう。あわてた冠者は素袍を奪い返して逃げて行く(和泉流では,素袍を持ち去る主人を冠者が追い込む)。登場人物は主人,太郎冠者,伯父の3人で太郎冠者がシテ。単純で人がよく酒好きな太郎冠者の性格が活写され,中世から盛んになった伊勢参りの習俗を素材にして,めでたさと楽しさの横溢(おういつ)した狂言。
執筆者:(2)歌舞伎舞踊。《素襖落》と書く。長唄,義太夫。1892年10月東京歌舞伎座初演。狂言の《素袍落》に拠った松羽目物。作詞福地桜痴,作曲3世杵屋(きねや)正次郎,鶴沢安太郎,振付2世藤間勘右衛門。初演は太郎冠者を9世市川団十郎ほか。新歌舞伎十八番の一つ。狂言では主人,太郎冠者,伯父の3人であるが,舞踊では伯父の代りに姫御寮を出して色気をそえ,ほかにも登場人物を増やし,それぞれに振りをつけて舞台を派手にしている。とくに本来は能《八島》の替アイである〈那須之語〉をここに挿入し,酔態とともに太郎冠者の見せ場としているので,初演の外題は《襖落那須語(すおうおとしなすものがたり)》といった。団十郎好みの品のよい明るい舞踊で,演者の芸と味が要求される。
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百科事典マイペディア 「素襖落」の意味・わかりやすい解説

素袍落【すおうおとし】

狂言の曲目。古くは素襖落とも書いた。シテは太郎冠者。伊勢参宮に立つ主人のいいつけでその伯父のところに報告に行った太郎冠者は,酒をふるまわれ,餞別(せんべつ)に素袍をもらって上機嫌で帰る。途中で使いの遅さに苦りきった主人に会い,隠していた素袍を落として主人に拾われる。酒好きが酔いつぶれてゆくさまをみせる狂言の代表的なもの。歌舞伎舞踊(長唄・義太夫節掛合)の題材として取り入れられ,新歌舞伎十八番の一つになっている。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「素襖落」の解説

素襖落
(通称)
すおうおとし

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
襖落那須語
初演
明治25.10(東京・歌舞伎座)

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世界大百科事典(旧版)内の素襖落の言及

【松羽目物】より

…歌舞伎舞踊の一系統。能舞台を模して,正面に大きく根付の老松,左右の袖に竹を描いた羽目板,下手に五色の揚幕,上手に切戸口(臆病口)のある舞台装置で演ずるものをいう(ちなみに能舞台では正面の羽目板を〈鏡板(かがみいた)〉といい,松羽目とはいわない)。題材はほとんど能,狂言から採り,衣装,演出も能,狂言に準ずる。歌舞伎はその発生期から先行芸能である能,狂言から芸態,演目を摂取していた。しかし歌舞伎舞踊に大きな地位を占める〈石橋物(しやつきようもの)〉(石橋)や〈道成寺物〉など能取りの所作事も,能を直訳的に歌舞伎に移すのではなく,単に題名や詞章の一部を借りるのみで,自由な発想ともどきの趣向によって換骨奪胎し,みごとに歌舞伎化していた。…

※「素襖落」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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