結晶内における光の伝わる状態,あるいは結晶の表面からの反射光の状態などを研究する光学の一部門。
1669年,デンマークの物理学者バルトリヌスE.Bartholinus(1625-98)は,細い1本の光線を氷晶石の結晶に入れると,屈折光線が二つに分かれること(複屈折)を見いだした。次いでオランダのC.ホイヘンスは,二つに分かれたこれらの光の振動方向が,かたよっていること(偏光)を見いだした。1813年には,イギリスのブリュースターD.Brewster(1781-1868)によって,結晶には1軸性と2軸性のものがあることが発見された。フランスのA.J.フレネルは結晶内の光学を,彼の波動説によって説明した。しかしこのことは,1873年にいたって,イギリスのJ.C.マクスウェルにより,彼の電磁理論の立場から説明されるようになった。
結晶は,立方晶系に属するものをのぞき,その方向によって示す性質が異なる光学的異方体であり,複屈折,偏光,多色(たしき)性などさまざまな性質を示す。
光学的等方体から異方体に光が入射する場合,一般に,一定方向の入射角に対して,異なった方向の二つの屈折光がえられる。この現象を複屈折という。これは,一つの方向に進む光波が,速度の異なる2個の平面波に分かれて進み,二つの平面波が結晶内で進む速度は,方向により異なるためである。また,光学的異方体の内部では,光は互いに直交する振動方向をもつ二つの直線偏光(偏光)に分かれ,それぞれ結晶中を異なる速さで進む。
しかし,光学的異方体でも,特定の方向から光が入射すると複屈折現象は現れない。この方向を光軸と呼び,光軸を一つしかもたないものを1軸性結晶,二つもつものを2軸性結晶と呼ぶ。前者には正方晶系,六方晶系,三方晶系,後者には斜方晶系,単斜晶系,三斜晶系が属する。
媒質内で種々の方向における屈折率を与える曲面を屈折率曲面という。これは,等方体では一つの球面であるが,異方体では,速度の異なる二つの光波に分けられるため,一つの方向に屈折率が二つ考えられる(屈折率は媒質中の速度に反比例する)ので,2葉の曲面となる。図のa,bは1軸性結晶のそれで,屈折率に二つの主値ω,εがあり,ωは方向によって変わらないもの,εは方向によって変わる屈折率の最大あるいは最小値である。aでは,ε>ωで,回転楕円面の中に球面が接しており,このような結晶を正号結晶と呼ぶ。bでは球面の中に回転楕円面が接しており,このような結晶を負号結晶と呼ぶ。二つの屈折率が等しくなる方向が光軸である。なお,εとωの差を複屈折量と呼ぶ。cは2軸性結晶のそれで,主軸X,Y,Z,主屈折率α,β,γ(γ>β>α)に関して2葉の曲面(図では1/8だけ示してある)となり,両曲面はCおよびそれと対称的な4点においてのみ接している。 は光軸である。
光学的異方体では,一般に光の吸収定数は,光の波長および振動方向によって異なる。したがって,この現象の著しい結晶では,その薄片あるいは結晶板に白色光を投射して観察するとき,結晶中における二つの振動(直線偏光)のうち一方の振動だけを取り出して観察した場合と,他方の振動だけを観察した場合とで,色が異なることがある。このことを多色性pleochroismという。光学的等方体では,たとえ選択吸収があって色がついていても,結晶中では偏光を生じないから多色性は認められない。また異方体でも,光軸の方向(強多色性2軸性結晶をのぞく)では多色性は認められない。
結晶が通常見られる光学性から著しくかけ離れた光学性を示すとき,これを“広義における光学異常”という。“狭義における光学異常”は,結晶系と光学性との不一致をいう。例えば,立方晶系であるリューサイト,方沸石,ザクロ石は光学的等方体であるべきだが,しばしば複屈折のため,偏光顕微鏡の直交ニコル下で低い干渉色を示すことがある。また,六方晶系に属する水晶,電気石,ベスビアナイトなどが2軸性を示すことがある。“広義の異常”の中には,例えば,ブルッカイトが非常に著しい交叉光軸分散を示すため,異常干渉像を呈したり,魚眼石が複屈折量の分散が異常に著しいために,異常干渉色を示すなどのことも含まれる。
執筆者:正田 篤五郎
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