家庭医学館 「絨毛がん」の解説
じゅうもうがん【絨毛がん Choriocarcinoma】
[どんな病気か]
[症状]
[検査と診断]
◎治療後の経過もたいせつ
[治療]
[予防]
[どんな病気か]
絨毛がんは妊娠性(妊娠にともなっておこる)のものと、非妊娠性(妊娠に関係なくおこる)のものの2種類に分けられますが、ほとんどは妊娠性です。
妊娠すると、胎盤(たいばん)を形成する絨毛細胞という細胞ができます。それらの絨毛細胞が、妊娠が終わった後にもからだの中に残っていて、悪性に変化したものが絨毛がんです(ごくまれには、妊娠中に胎盤の一部の絨毛細胞が、がん化することもあります)。
したがって、妊娠性のものは妊娠したことのある女性にしか発生しませんが、あらゆる妊娠(自然流産、人工妊娠中絶、早産、正常分娩(ぶんべん)、子宮外妊娠)の後に発生する可能性があります。
また、妊娠性の絨毛がんが発生した場合、その原因となった妊娠を先行妊娠といいます。
なかでも、胞状奇胎(「胞状奇胎」)を先行妊娠とした場合は、とくに発生頻度が高くなります(胞状奇胎の1~2%)。
絨毛がんは、妊娠可能な女性であれば年齢に関係なく発生しますが、ときには胞状奇胎の10年後に発生することもあり、閉経(へいけい)した女性でもその可能性はあります。妊娠全体の数が圧倒的に若い女性に多いので、絨毛がんの発生数も若い女性に多くなりますが、年齢別の妊娠数に対する発生比率は、高年齢者ほど高くなります。
なお、理由はわかっていませんが、胞状奇胎の発生頻度が日本を含むアジア地域に高いので、妊娠性絨毛がんの発生頻度もアジアが高くなっています(欧米と比較して一般的に3~4倍)。
非妊娠性の絨毛がんは、胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)の1つの型として発生するもの(卵巣(らんそう)絨毛がん、睾丸(こうがん)絨毛がんなど)と、他のがん(胃がん(「胃がん」)、肺がん(「肺がん」)など)の分化異常によるものがあります。これらは性別や年齢に関係なく、また、妊娠経験の有無にかかわらず発生します。非妊娠性のものは妊娠性のものより予後が悪いとされています。
非妊娠性の絨毛がんは妊娠性のものに比べ頻度が低いので、ここではおもに妊娠性絨毛がんについて解説します。
[症状]
絨毛がんのもっとも多い、そして重要な症状は、子宮からの不正性器出血、つまり妊娠が終わった後の長引く出血、あるいは月経以外の出血などです。
また、絨毛がんはほかの臓器に転移(てんい)しやすく、転移した部位で出血をおこし腫瘤(しゅりゅう)(しこり)を形成するので、それによる症状が出ることもあります。
とくに多い肺転移の場合は、胸痛、呼吸困難、血(けっ)たん、せきなどの症状が出たり、脳転移では頭痛、まひ、意識障害、けいれん、腎臓(じんぞう)転移では血尿などをおこし、腟(ちつ)転移では暗赤色の腫瘤ができます。
したがって、必ずしも最初に産婦人科を訪れるとはかぎらず、その転移部位の症状によって、内科、脳神経外科、泌尿器科(ひにょうきか)などを訪れて発見されることがあります。
基礎体温をつけている場合は、妊娠していないのに高温相が続いたり、不規則になってきます。
多くのがんの原因がまだわからないように、絨毛がんの発生原因もいまだ不明です。
[検査と診断]
絨毛細胞は、絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を産生・分泌(ぶんぴつ)することが特徴です。
絨毛細胞ががん化した絨毛がんも、同じようにhCGを産生・分泌します(非妊娠性絨毛がんも同じ)。hCGの値は、絨毛がん細胞の数と相関関係にあります(値が高いほど絨毛がん細胞の数が多い)。したがって、「絨毛がん」があり、新しい妊娠をしていないのにhCGが検出されれば、絨毛がんを疑って検査を進めていきます。
最終的な診断は、手術で摘出(てきしゅつ)したものを顕微鏡で見る組織検査によって確定されますが、手術前あるいは手術をしない場合は、絨毛がん診断スコアを用いて診断します(スコアが5点以上のとき90%以上の確率で絨毛がん)。
また、超音波断層法、CT、MRI、胸部X線撮影、骨盤動脈(こつばんどうみゃく)撮影などを行ない、どこに病巣があるのか、転移していないか、腫瘍の大きさはどれくらいなのかなどを検査します。
[治療]
手術で病巣(子宮、肺の一部、脳の一部など)を摘出する方法、抗がん剤(メトトレキサート、アクチノマイシンD、エトポシドなど)を用いた化学療法、あるいはそれら両者を組み合わせた方法が治療の基本です。脳に転移がある場合には、放射線療法が行なわれることもあります。
どの方法を用いるかは、病巣の広がり(転移の部位)や腫瘍の大きさ、そして、その後の妊娠を希望しているかどうか(妊孕性(にんようせい))などにより総合的に判断されます。しかし、生命に危険をおよぼすがんなので、子宮に病巣がある場合は、特別な症例をのぞいて、妊孕性の温存は二のつぎで、子宮の摘出(子宮単純全摘出術)を行ないます。
そして、必ず抗がん剤による化学療法を行ない、それをどのくらい続けるか、あるいはいつ打ち切るかはhCGの値を参考にして決めます。
絨毛がんの寛解率(かんかいりつ)(治療終了の時点で一応治ったと判断される率)は、転移がないものでは90%以上ですが、転移性(脳、肝臓)のものでは50%以下、再発したものでは40~75%とされています。他のがんと同じように、再発に注意し、治療後も慎重に経過を観察し続けることがたいせつです。基礎体温(卵巣が残っている場合)を測定し、少なくとも5年以上(もっと後になっての再発も報告されています)は、定期的に医師の診察を受けるようにしましょう。
[予防]
絨毛がんの発生を予防する手段はありませんが、その約50%は胞状奇胎を先行妊娠として発生しているので、胞状奇胎を分娩したあとの管理(経過を観察し続ける)がたいせつです。管理することによって、早期に絨毛がんを発見、治療を開始することができるからです。
胞状奇胎後の絨毛がん発生率は、ふつう1~2%とされていますが、管理された場合は0.3%、管理されない場合は4.5%という報告があります。
しかし、最近は管理方法が確立してきたので、胞状奇胎後の絨毛がん発生率は減少してきており、管理することのできない正常分娩や、流産後の発生頻度のほうが相対的に高くなってきています。ですから、どんな妊娠の後でも、前記のような症状があったら、注意することがたいせつです。