網元(読み)アミモト

デジタル大辞泉 「網元」の意味・読み・例文・類語

あみ‐もと【網元】

漁網・漁船などを所有し、網子あみこ漁師)を雇って漁業を営む者。網主あみぬし
[類語]漁師漁民漁夫海人海女鵜匠

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精選版 日本国語大辞典 「網元」の意味・読み・例文・類語

あみ‐もと【網元・網本】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 漁網の所有者、または漁労の経営者。船を使う網漁では船元(ふなもと)を兼ねることがあり、網子を使って漁業を行なう。網主。⇔網子
  3. 漁網の中心部。また、その近辺。
    1. [初出の実例]「七艘に取乗、大海へ出て網をかけ、両方三艘づつ、引分て大綱を引、一艘はことり船と名付網本に有て左右の綱の差引する」(出典:慶長見聞集(1614)一)

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改訂新版 世界大百科事典 「網元」の意味・わかりやすい解説

網元 (あみもと)

雇用労働力を必要とする網漁業の個人経営者で網主ともいい,江戸時代以降広く存在した。漁業生産の特徴は江戸時代においても,初めから商品生産として発展したことと,家族労働力では操業できない多人数協業を必要とする漁具漁法,とくに網漁業が行われたということである。大型地引網漁業,大型定置網漁業など数十人あるいはそれ以上の協業を必要とするものが少なくなかった。これら網漁業の経営は網元による個人経営か,網組(総百姓共同のものが多かったとみられる)による共同経営かのいずれかによって行われていた。総百姓共有漁場の広範に成立した先進地域,一般地域においては,総百姓共同の網組による経営も少なくなかったが,それらの漁場を借り受けて行う網元経営もかなり存在していた。後進地域においては何人かの個人による共同経営もありえたが,大部分は網元経営であったとみられる。

 網元経営のやや具体的な理解のために九十九里浜の地引網経営を少しみよう。1780年(安永9)の佐藤信季の《漁村維持法》によれば,九十九里浜の地引網は総数200帖と称し,その盛大ぶりに驚いている。1882年の調査によれば5郡60村にわたる九十九里浜の地引網は,すでに衰退過程に入りかけていたときながら,174帖であった。この地引網は有力な網元の経営で,その漁場も網元がもっていた。この地引網には大・中・小の区別があり,大網は長さ300間,中網200間,小網100間ほどであった。82年海上郡の一報告によると,地引網一式(漁船を含む)代が大地引網で6000円,中地引網で4600円,小地引網で2600円ほどであった。網元となるには,ほかに水夫(網子)前貸金として約1000円ぐらい必要であったという。だから網元は普通石高所持も大きく,また名主や酒造家などの有力者であった。大地引網の経営には水夫60人以上が必要で,その確保が重要であったから,網元は前貸金を渡して緊縛するのが一般であった。また網元の小作人である水夫もいた。山辺郡作田村の網元作田家の例でみると,水夫は作田村の者が多いけれども,郡内および隣郡武射郡の他村の者もかなり多かった。網元の収入は,水揚高から経費を控除した残高を,網主と水夫とで分配するものであった。その分配率は時代と場所とによって一様ではなかったが,五分五分が最も多かったようである。水夫間の分配も役代を含む代分け(しろわけ)であった。

 一般的にみても網元は漁村最大の有力者で,網子は中下層漁民が主体であった。だから江戸時代の網元網子関係には,地域によって古い関係も持ち込まれえたにしても,それにはむしろ早期に展開した資本賃労働関係という性格があった。しかし,それが明治以降,昭和戦前期にかけて,沿岸漁業のなかにやや停滞的に残っていく過程においては,半封建的な古い諸関係を色濃く残す経営形態となっていった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「網元」の意味・わかりやすい解説

網元
あみもと

網の所有者であり、通例漁業の経営者でもある。網主と同じで「どうもと」ともいい、地方により呼称は異なる。網元に労力を提供し、実際の仕事をするのが網子(あみこ)であり、網元と網子が封建的な身分関係にある場合が多い。日本における規模の大きい網漁業とその組織の発生はさほど古くなく、中世後期以降に求められる。日本の漁村はほとんどが沿岸漁村とよばれるものであり、半農半漁の生活を基礎としており、網の所有については本百姓と小作層の間には、格差があったが本百姓同士の間では比較的平等な権利があり、百姓網や村持網(むらもちあみ)とよばれていた。漁獲物の分配も百姓株に基づき平等に配分されていた。しかし、江戸時代後期の貨幣経済の浸透とそれによる疲弊化、また漁業技術の進歩と網の大型化によって平等に維持されてきた百姓網は衰え、在村ブルジョアジーというべき網元を中心とした漁業へと変化していった。網元と網子は、親方・子方の関係にある場合が多いが、網元は網子に住居、食物、耕作地なども与えて世話をする一方、網子は網元に隷属する。そしてその関係が何代も世襲的に継続するという所もある。また逆に双方の契約が比較的自由で1年ごとにそれを更新する所もあり、2月の船祝いや小正月とか盆とかその土地に定まった特別の儀礼の日に網元が網子を招いて酒宴を開き、そこに列席したことによって1年間の雇用関係が決定したりする。

 網元と網子の漁獲高の配分は、通常「しろわけ」とよぶ所が多く、網子同士の配分は平等が原則である。指揮者とか船頭などの特別な役割をもつものは、1人前を超えて配分されるのが普通である。網元は優秀な指揮者を求めるし、また特定の村から網子が働きにくる例も多い。網元の特権は、明治以降も漁業権制度により保護されたが、第二次世界大戦後の漁業制度の改革により、その漁業権を漁業協同組合に譲り、従来の特権的地位を失った。しかし依然として旧態を残している所もある。

[野口武徳]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「網元」の解説

網元
あみもと

網主(あみぬし)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「網元」の意味・わかりやすい解説

網元
あみもと

「網主・網子」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の網元の言及

【べんざし】より

…九州の海岸部の村で,漁労の指揮者あるいは網元などを指すことばとして伝承されている。主としてハツダ網の指揮者をこう呼んでいるが,熊本県御所浦島では地曳網の頭もベンザシと呼んでいる。…

※「網元」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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