翻訳|study
演奏技術の向上を目的とした楽曲,あるいは特殊な高度の技術を表現手法とした作品。エチュードétudeともいう。とくに16,17世紀に器楽曲が隆盛になるにつれて,作曲されるようになり,J.ダウランドの息子ロバートRobert Dowland(1591ころ-1641)のリュート教則本《リュート・レッスンのさまざま》(1610)や,J.プレーフォードの出版したビオル教則本は初期の最も重要な練習曲に数えられる。18世紀に入るととくに鍵盤楽器を中心に多くの練習曲および教則本がつくられるが,なかでもF.クープランの《クラブサン奏法》(1716),エマヌエル・バッハの《正しいクラビーア奏法の試論》2部(1753,62)は,運指法や装飾法の手引きとしてだけではなく,作曲家の個人様式や特定の時代様式に即した練習の手引きとしても意味をもつ。また,J.S.バッハの《インベンション》は息子や弟子の教育目的に作曲された練習曲であり,彼の《イタリア協奏曲》や《ゴルトベルク変奏曲》などは《クラビーア練習曲集》として出版された。
18世紀の末になり,音楽愛好家が増大し,ピアノなどの楽器が量産され,音楽出版活動が盛んになると,練習曲のもつ意味も変化してくる。C.チェルニーは初歩から上級までの段階的なピアノの練習曲を作り,さらにM.クレメンティは《グラドゥス・アド・パルナッスム》を作曲したが,これらは今日でも重要な練習曲の一つである。自ら演奏する音楽愛好家の増大に伴い,より高度の演奏技巧の表現が求められるようになり,演奏会目的の練習曲が作曲されるようになる。とくに,ショパンの作品10,作品25の《12の練習曲》(1832,36),リストの《超絶技巧練習曲》(1841)はその代表的なものであり,ドビュッシーも手がけている。これらは特定の技巧による表現を究極まで推し進めたもので,芸術性の高い一種のキャラクター・ピースである。また,シューマンは《交響的練習曲》(1837)を作曲しているが,これは高度な技術を駆使した変奏曲であり,いわゆる教則本ではない。
20世紀に入ると,一方では音楽の初等教育を重視する立場から,各楽器の特性に即したさまざまな練習曲が作られたが,そのなかでも特筆に値するのが,バルトークの作曲したピアノのための6集の《ミクロコスモス》である。ここにおいては単に指の練習のみならず,民族的な語法を駆使した新しい表現が求められている。練習曲の表題をもつ作品としてはほかに,ストラビンスキーのオーケストラのための《四つの練習曲》(1928)などの作品もある。
執筆者:西原 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
音楽用語。フランス語のエチュードétudeの訳語。文字どおりには、器楽または声楽の演奏技術向上のためにつくられた楽曲のことをさすが、この意味では教則本など楽器や声の訓練のために書かれたあらゆるものが含まれる。しかしなかには、単に技術の習得だけを目ざすことを超え、音楽作品として充実した内容をもつものもある。こういった楽曲はどんな楽器を対象としてもありうるが、近代に入って楽器のより高度な演奏技術が要求されるようになったり、新しい楽器が出現することによって、練習曲はことさら重要な意味をもつことがあった。19世紀に入って書かれたピアノのためのそれは、まさにそうした代表的な例である。18世紀後半に普及が浸透していった新種の楽器ピアノは、初めのうちは旧来の鍵盤楽器との奏法上の違いがそれほど意識されなかったが、楽器自体の変革とともに、奏法が容易には習得しがたいものとなって、おびただしい練習曲が書かれるようになる。こうして生まれたのが、クレメンティ、ヨハン・B・クラーマー、チェルニー、モシェレスらのピアノ練習曲で、これらは今日なお、ピアノ学習者にとって最高の演奏技術を獲得するための習練の一つに数え上げられている。こうした過程を経て、ショパンの27曲の練習曲、リストの『超絶技巧練習曲』や『パガニーニによる超絶技巧練習曲』、さらにスクリャービンやドビュッシーの練習曲など、演奏会で取り上げられる作品も生まれるに至り、練習曲はピアノ音楽の一つのジャンルともなった。
[大崎滋生]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
「エチュード」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…即興性と速写生を特質とする,簡単な素材による素描の総称であり,ルネサンス(16世紀)においては芸術的発想の第一段階としてもっとも重要視された。(2)習作study フランス語でエチュードétudeまたはエスキスesquisseという。スケッチと対照的に,ある対象を入念に観察し,研究するための素描をさす。…
※「練習曲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新