天人女房譚(てんにんにょうぼうたん)ともいい、ヨーロッパでは白鳥処女伝説といわれる。天女(てんにょ)が地上の川や湖に天降(くだ)って水浴をすると、人間の男が天女の衣をひそかにとって隠し、天に帰れなくなった天女と結婚するというのが標準的な筋である。2人の間に子供が生まれる形も、生まれない形もあり、天女がその羽衣を得て天に帰る形をとることもある。その場合、夫婦が別れてしまうものも、夫が妻を天に追いかけていっていっしょになるものもあり、羽衣伝説は多くの形式に分けることができる。
[大林太良]
羽衣伝説は世界的に広く分布しているが、ことにヨーロッパ、西アジア、東アジア、東南アジアにおいて分布が濃密である。羽衣伝説が全然ないか、あるいはほとんど存在しないのは、アフリカ、オーストラリア、ポリネシアであって、中間の分布密度をもつ所はアメリカ大陸、北・中央アジア、インドである。羽衣伝説はインドに発祥したという説があるが、十分証明されているわけではない。羽衣型の伝承は、神話や伝説として語られる場合には、特定の家系、英雄の始祖伝承や、特定の神の由来説話の形をとることもあり、また昔話として語られることもある。日本では古くは『丹後国風土記(たんごのくにふどき)』逸文に出ているが、京丹後市弥栄(やさか)町の奈具(なぐ)の社に鎮座する豊受賀能売命(とようがのめのみこと)の由来伝説である。この風土記の話では、天女の羽衣をとったのは老夫婦だったので、天女はその養女となる点で、標準形からすこしずれている。ただこの天女がおいしい酒をつくって売ったので、養父母が富裕になったというのは、東南アジアやメラネシアの天女にもみられる豊穣(ほうじょう)性を示している。つまり、ジャワの羽衣伝説の天女は、一粒の米で鍋(なべ)いっぱいの御飯を炊き、ニュー・ヘブリデス諸島の天女は、畑で手を向ければその手にタロイモが握られており、しかも畑のタロイモはそのまま残っているというように、さまざまな形で奇跡的な豊穣力を現している。そのほか地域的に特色あるモチーフとしては、盗んだ羽衣を米庫の米の下に隠すモチーフが、中国、琉球(りゅうきゅう)列島、フィリピン、ジャワなどにある。また天女が鳥であるモチーフは世界的に多いが、インドネシアの東部からミクロネシアにかけては、女主人公に魚やイルカなどの水中の動物である形式が分布し、七夕(たなばた)の起源伝承の形をとるものは中国、日本に分布し、女が魔法によって鳥に化していたモチーフは、西アジアやヨーロッパにみられる。
[大林太良]
『西村真次著『神話学概論』(1927・早稲田大学出版部)』▽『福田晃他編『南島説話の伝承』(1982・三弥井書店)』
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