機関訴訟(読み)きかんそしょう

精選版 日本国語大辞典 「機関訴訟」の意味・読み・例文・類語

きかん‐そしょうキクヮン‥【機関訴訟】

  1. 〘 名詞 〙 国または公共団体の機関相互間における権限存否またはその行使に関する紛争についての訴訟行政事件訴訟法六条に規定され、同法の適用を受ける。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「機関訴訟」の意味・わかりやすい解説

機関訴訟 (きかんそしょう)

現行行政事件訴訟法の認める客観訴訟の一類型であって,国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟をいう(行政事件訴訟法6条)。もともと,国や地方公共団体の機関相互の間の権限存否をめぐる紛争あるいは地方公共団体の議会と長との間の紛争(いわゆる機関争議)は,国民の具体的な権利義務に関する紛争ではないから,一般には〈法律上の争訟〉の性格を有しない。したがって,このような機関争議の解決は必ずしも裁判所の裁判にゆだねられる必然性はなく,むしろ行政的ないし政治的な解決方法にゆだねられることが多い。とくに行政機関については明確な指揮命令系統による組織上の統一性が与えられるのが通例であり,下級機関相互の紛争は上級機関によって裁定される。内閣法7条が,〈主任の大臣の間における権限についての疑義は,内閣総理大臣が,閣議にかけて,これを裁定する〉と定めているのは,その例である。

 このように機関争議は,通常,行政の内部で解決されるが,特別の場合,たとえば機関争議を解決すべき適切な機関がない場合や法律問題について公正な第三者の判断を必要とする場合などには,機関争議の解決が裁判所にゆだねられることがある。それが機関訴訟といわれるものである。機関訴訟はとくに法律で認められたときにかぎり提起することができるが(行政事件訴訟法42条),機関訴訟の典型例としては,(1)地方自治法151条の2の定める職務執行命令訴訟,(2)地方自治法176条7項の定める議会と長の間の訴訟がある。前者の訴訟は,国の行政事務の処理を委任された地方公共団体の機関(長または委員会)とその事務について指揮監督権を有する大臣等の国の機関との間の紛争を,裁判所の公正な判断にゆだねようとするものであり,後者の訴訟も,議会の議決または選挙適法・違法をめぐって対立する長と議会の間の紛争を,裁判所の法律判断にゆだねることによって適正に解決しようとするものである。
行政訴訟
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「機関訴訟」の意味・わかりやすい解説

機関訴訟
きかんそしょう

国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟をいう(行政事件訴訟法6条)。訴訟は一般に権利主体間の権利をめぐる紛争を解決する制度であって、権利主体の内部における機関相互の権限紛争は、本来、司法権の手を借りず、行政的ないし政治的に解決されるべきものである。しかし立法者は、機関相互の争いでも、法律の適用によって解決しうるものであって、公正中立な裁判所の判断を仰ぐのが適当と考えられるものについて、例外的に訴訟による解決を認めた。したがって、機関訴訟は憲法上の要請ではなく、立法政策により導入されるものである。その結果、機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り提起することができる(同法42条)。現行法上の例としては、地方公共団体の長と議会の争いをめぐる訴訟(地方自治法176条)、地方公共団体に対する国または地方公共団体の関与に関する訴訟(同法251条の5、252条)、法定受託事務の代執行を求める訴訟(同法245条の8)などがあるとされるが、後二者は独立の団体の間の争いであるから、機関訴訟ではなく、権利主体相互間の争いと言うべきである。判例では杉並区が東京都を被告に提起した住基ネット訴訟(住基ネット参加希望者だけのデータを受信せよと都に求めた訴訟)を機関訴訟として、法律の明文の規定がないから不適法として却下するものがある(東京高裁2007年11月29日判決)が、これも権利主体の間の争いであるから、機関訴訟ではなく、司法権の範囲内の訴訟と見るべきであろう。

[阿部泰隆]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「機関訴訟」の意味・わかりやすい解説

機関訴訟
きかんそしょう

国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟。抗告訴訟当事者訴訟民衆訴訟と並び,行政事件訴訟法が定める行政事件訴訟の一つ(2条)で,民衆訴訟と同じく行政法規の適用に対し客観的適正の確保を目的とする客観的訴訟の一種。行政機関相互間の紛争は本来,その行政機関内部で自主的に解決するべき,あるいはその上級行政機関の指揮・監督権により解決するべきものであるため,機関訴訟は民衆訴訟と同様,法律で特に認められる場合において,法律で認められた者にかぎり提起することができる(行政事件訴訟法 42)。機関訴訟の例として,地方公共団体の長による地方公共団体の議会の違法な議決または選挙に関する訴訟(地方自治法 176条7項),地方公共団体の長その他の執行機関などによる違法な国の関与の取消しを求める訴訟(地方自治法 251条の5),市町村境界に関する都道府県知事の裁定への関係市町村による不服申し立て(地方自治法 9条8項)がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「機関訴訟」の意味・わかりやすい解説

機関訴訟【きかんそしょう】

行政訴訟の一種。国または公共団体の機関相互間で,権限の存否や行使に関してなされる訴訟。地方公共団体の長と議会の間での訴訟や職務執行命令訴訟などはその例である。これは,法主体間の争いではなく,法律が特に認める場合に限って提起が許される。
→関連項目行政事件訴訟法職務執行命令訴訟

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の機関訴訟の言及

【行政訴訟】より

…これに加えて,現行の行政訴訟制度の下では,国民の権利保護を目的とする主観訴訟を中心にして行政訴訟が構成されている。したがって,次に述べる各種の行政訴訟のうち中核を占める抗告訴訟については原告適格の要件が定められるとともに(9,36,37条),客観的な法秩序の維持を目的とするところの客観訴訟たる機関訴訟および民衆訴訟はあくまでも例外的なものとされている(42条)。
[行政事件訴訟の種類]
 行政事件訴訟法は,行政訴訟の種類として,次の四つの訴訟を定めている。…

※「機関訴訟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

大臣政務官

各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...

大臣政務官の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android