企業、大学、国、地方公共団体などに勤める研究者や従業員が、その業務の範囲内で職務上行った発明のこと。業務範囲に入るものの、職務には関係ない発明は「業務発明」、業務にも職務にも関係ない発明は「自由発明」とよぶ。たとえば携帯端末メーカーの研究者が画期的な新型端末を開発した場合は職務発明に該当するが、携帯端末メーカーの販売部門の従業員が本来の仕事と関係なく新型端末を開発した場合は、業務発明となる。また携帯端末メーカーの従業員が、業務や職務と関係なく、画期的な調理器を開発した場合は自由発明にあたる。日本の特許法では、2016年(平成28)4月以降、事前に社内規定や契約などで定めれば、職務発明の特許は、発明者(研究者、従業員)に給与・研究費・研究設備などを供与した使用者(企業等)に帰属することになった。発明者は金銭のほか昇進・昇格、特別休暇、留学、ストックオプション(株式購入権)といった「相当の利益」を得る権利があり、内容は労使協議などで適正に決めなければならない。
日本では、もともと職務発明の特許は発明者に帰属し、使用者は「相当の対価」を発明者に払うことで特許権を得ていた。しかし「相当の対価」の基準が曖昧(あいまい)なため、2000年以降、青色発光ダイオード開発をめぐってノーベル物理学賞を受けた中村修二が在職した日亜化学工業(徳島県阿南(あなん)市)と争った(2005年に約6億0800万円の支払いで和解)ほか、光学式ピックアップ装置をめぐるオリンパス光学工業(現、オリンパス)との係争(2003年に約230万円で和解)、人工甘味料をめぐる味の素との係争(2004年に約1億5000万円で和解)、光ディスク読取技術をめぐる日立製作所との係争(2006年に約1億6300万円で和解)など発明者と企業との係争が相次いだ。このため日本経団連はイノベーションが阻害されるとして、職務発明の特許は使用者に帰属する形で特許法を見直すよう要請、第二次安倍晋三(あべしんぞう)内閣が特許法を改正した。改正法では、事前に定めれば職務発明の特許は使用者に帰属するが、定めのない場合は従来どおり発明者に帰属する。なお海外ではアメリカ、ドイツ、韓国などが職務発明の特許権は発明者に帰属すると規定しているが、イギリス、フランス、ロシア、中国などは企業に帰属するとしている。
[矢野 武 2017年8月21日]
従業者,法人の役員,国家公務員または地方公務員がなした発明で,使用者,法人,国,または地方公共団体の業務範囲に属し,かつその従業者等の現在または過去の職務に属するものを指す。その職務発明は原始的に従業者等に属するが,使用者等は無償の実施権を取得する。使用者等は勤務規則等であらかじめ定めておいた場合にのみ特許を受ける権利,特許権または専用実施権を取得することができ,その際従業者等には相当の対価が支払われなければならない(特許法35条)。この制度は,発明者の権利を確固たるものにして発明意欲を惹起せしめるとともに,使用者等にも一定の権利を与え,使用者等と従業者等の間の利益の調整を図ったものである。
かつてのように個々の天才によって発明がなされた時代は終わり,現在では組織内で大量の資金を投入し,多数の者が関与して完成される発明が,質的にみて重要なことが多いだけでなく,数のうえでも多くなった。したがって,従業者発明制度の問題は,日本の技術水準の向上という点からも重大になってきている。この組織内発明の処理を労使の力関係に任せておけば,弱者である従業者等が不利な立場となることが予想されるため,前述の特許法35条を設けて,従業者等の保護を図ることにより発明意欲を刺激するとともに,使用者等にも必要最低限の保証を与えることにより,発明への投資意欲を図っている。
執筆者:中山 信弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(桜井勉 日本産業研究所代表 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
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