日本大百科全書(ニッポニカ) 「キメラ」の意味・わかりやすい解説
キメラ
きめら
chimera
生物学で、同一個体のなかに遺伝子型の異なる組織が互いに接触して存在する現象をいう。とくに植物について用い、動物の場合はモザイクということが多い。キメラの語源はギリシア神話に登場する合成怪物キマイラChimairaによる。
植物でキメラをつくらせるには、異種の植物間で接木(つぎき)を行ってから、接木の部分でこれを切断し、そこから幼芽を出させる。そうすると芽の中に、接穂(ほ)(接ぐほうの芽や枝など)に由来する組織と台木(だいぎ)(接がれる根のほう)に由来する組織が混在するキメラが生ずる。混在の仕方はさまざまで、一方の組織が軸の中心部までくさび状に入り込んでいる区分キメラ、軸を取り巻く周辺組織にだけ一方の組織が存在する周縁キメラ、あるいはその両方が組み合わさった周縁区分キメラなどがある。実験的には、トマトとイヌホオズキの間でつくられた種々のキメラがある。
遺伝子型の質的違いによるキメラのほか、染色体数の相違によるキメラがあり、染色体キメラあるいは混数性などとよばれる。染色体キメラはコルヒチン(アルカロイドの一種)処理によって人工的につくることができる。
広義には、斑(ふ)入りや枝がわり(芽条突然変異)もキメラの一種で、実用価値の高い品種が得られる。
[吉田精一]