腎梗塞(読み)じんこうそく(英語表記)renal infarction

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

腎梗塞
じんこうそく
renal infarction

血栓または塞栓で腎動脈が閉塞して起る疾患。血栓は左心房,左心室に由来するものが多く,腎動脈が閉塞すると虚血が起り,腎組織が壊死し,瘢痕化する。大きい血栓の場合,腎石痛に似た激痛が起る。尿中に少量の蛋白赤血球が出現し,著しい血尿を伴うこともある。感染した場合は腎膿瘍を形成する。静脈性の腎梗塞もある。

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家庭医学館の解説

じんこうそく【腎梗塞 Renal Infarction】

◎腎動脈(じんどうみゃく)の血流障害が原因
[どんな病気か]
 腎臓に入る動脈(腎動脈)や、その枝分かれした血管に血流の障害がおこって、それらの動脈から栄養や酸素を得ていた組織が壊死(組織や細胞の死)をおこす病気です。
 通常は、動脈の塞栓(そくせん)(血管をふさぐ物質)や血栓(血液のかたまり)によって、動脈がつまっておこります。
 そのため、つまった血管に養われていた組織(ふつうはくさび形の領域)が壊死します。それが古くなると、吸収されて線維成分におきかわり、硬くひきつれたようになります。
 塞栓でもっとも多いのは、血栓の破片による血栓性塞栓症です。そのほか、脂肪塞栓症(骨折などで骨髄(こつずい)中の脂肪が血中に入る)、空気塞栓症(たとえば注射時の事故によって空気が血中に入り、そのアワが血管をふさぐ)、ガス塞栓症(潜水によっておこる潜函病(せんかんびょう)は、血中の窒素(ちっそ)が圧力の変化でアワになってふさぐ)、細胞塞栓症(たとえば、がん細胞など)などがあります。
 塞栓はその運ばれる経路から、静脈を通っていく静脈性塞栓症、動脈を通っていく動脈性塞栓症、静脈からのものが心臓や大血管の欠損部から動脈に入って流れていく奇異性(きいせい)塞栓症に分けられます。
◎おもに心臓の病気による
[原因]
 塞栓でもっとも多い(75~90%)のは、心臓の弁に異常がある心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)(とくに僧帽弁狭窄症(そうぼうべんきょうさくしょう)(「僧帽弁狭窄症」))や、心内膜炎(しんないまくえん)(「心内膜炎」)、心房細動(しんぼうさいどう)(「心房細動」)など、心臓の病気によってできるものです。
 これらの異常によって心臓内に血栓ができますが、それが心臓の内膜からはがれて血流によって運ばれ、腎動脈やその枝につまり、血管をふさぎます(動脈性塞栓)。また、心臓に心房中隔欠損(しんぼうちゅうかくけっそん)や卵円孔開存(らんえんこうかいぞん)などで、わずかでも動静脈の交通があると、静脈系からの物質が腎動脈をふさぐこともあります(奇異性塞栓)。
 動脈硬化性の病変にともなって、腎動脈やその枝に血栓ができ(腎動脈血栓症)、その部分から先の血流がとだえておこる腎梗塞もあります。
 また、大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)(「大動脈瘤とは」)や膠原病(こうげんびょう)(多発性結節性動脈炎(たはつせいけっせつせいどうみゃくえん)や全身性エリテマトーデス(「全身性エリテマトーデス(SLE/紅斑性狼瘡)」))でも腎動脈の血栓による腎梗塞がおこります。
 そのほか、大動脈や腎動脈本幹に付着した粥状(かゆじょう)のもの(アテローム斑(はん))がはがれて、腎臓の比較的細い血管(内径200μm(マイクロメートル)ほど(1μmは、1mの100万分の1))のあちこちをつまらせることもあります。
 これは、どこかに粥状の動脈硬化がある高齢者が、大動脈の手術や腎動脈の造影検査をした場合におこります。
◎腎動脈の血管造影で診断を確定
[検査と診断]
 塞栓も血栓も、これらがどの程度の大きさの腎動脈におこるか、どの程度の時間がたつと梗塞がおこるかによって、診断がちがってきます。
 突然おこるものでは、梗塞がおこった側の腹部にはげしい痛みがあり、39℃前後の発熱、吐(は)き気(け)や嘔吐(おうと)などがみられます。ときに、血尿(けつにょう)や高血圧もみられます。また、尿量が減少することもあります。
 血液検査(「血液生化学検査」)(「血液一般検査」)では、白血球(はっけっきゅう)の増加やGOT・LDH値の顕著な上昇をみます(LDHの上昇がもっとも信頼性があります)。そのほか、アルカリホスファターゼや血漿(けっしょう)レニン活性が高くなることもあります。
 その結果、数週間の一時的な高血圧も現われます。塞栓による梗塞の範囲が広い場合は、血清(けっせい)クレアチニン値や尿素窒素(にょうそちっそ)、尿酸の値も上昇します。
 尿の検査では、顕微鏡でわかる程度の血尿がみられます。静脈に造影剤を注射して腎盂(じんう)を撮影する排泄性腎盂造影(はいせつせいじんうぞうえい)では、梗塞がおこっている側の腎盂は撮影できません。
 診断を確定するには、腎動脈に造影剤を注入して撮影する血管造影で、血流がとだえていることを確認します。
 一般に症状は、感染をともなう尿管結石(にょうかんけっせき)の発作(ほっさ)に似ており、診断が遅れることも多いものです。心房細動や心内膜炎などの心臓の病気がある人や、高齢で動脈硬化症がひどい人で、前記の症状が突然現われた場合は、腎梗塞が強く疑われます。
 左右の腎臓に梗塞がおこった場合(約20%)は、尿ができないために急性腎不全(きゅうせいじんふぜん)(「急性腎不全」)になることもあります。
 また、どちらか一方の腎動脈の軽い塞栓や、徐々におこる血栓では、気づかないこともあります。
◎手術、服薬、経過観察など
[治療]
 外科的療法、内科的療法(抗血液凝固薬(こうけつえきぎょうこやく)の使用)、経過観察(加えて補助療法)などに分けられます。必要なら、高血圧の治療を行ないます。
 発病後1~2時間で診断がつき、塞栓が腎動脈の本幹にある場合は、塞栓を取り除く手術の対象になります。それ以外では、病変が落ち着いて、どの程度に腎臓が障害されているのかをみきわめて治療します。
 だいたいは、内科的に薬を使用しながら経過をみます。梗塞した部分が小さい場合は、そのまま放置しても、腎障害がおこることはあまりありません。
 いずれにしても、高齢者が多いので、手術に耐えられる体力があるかどうか(全身状態はいいか)、また血管閉塞の程度と閉塞がおこっている範囲によって、治療法が選択されます。
 一般に、片側だけの梗塞なら補助療法や抗血液凝固薬の使用が功を奏します。しかし、約4分の1の人が急性期に腎臓以外の病気をおこし死亡します。
 また、急性期を脱しても、梗塞が原因で高血圧になるようであれば、腎臓の摘出も考えます(片側だけの場合)。
[日常生活の注意]
 原因となっている病気の治療が大事です。心臓の病気や膠原病の場合は、それらの治療が先決ですし、これらの治療中に梗塞を思わせる症状が出た場合は、ただちに受診している病院や医師に連絡し、指示を仰いでください。

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内科学 第10版の解説

腎梗塞(腎と血管障害)

定義・概念
 心臓や大動脈に存在する血栓の遊離による塞栓または腎内での血栓形成に基づく腎組織の壊死であるが,前者が大半である.
原因・病態
 心房細動に伴う左心耳や左心房からの塞栓が最も多く,心筋梗塞における左心室壁在血栓や大動脈の粥状動脈硬化プラーク病変からの塞栓も少なくない.感染性心内膜炎の疣贅からの塞栓,まれには卵円孔開存下での腫瘍や脂肪の奇異性塞栓も認められる.
病理
 楔状の壊死巣を形成し,その周辺では虚血に対する反応としてマクロファージの浸潤や血管新生が認められる.古くなると瘢痕化する.
臨床症状・検査成績
 特異的症状に乏しく診断できる例は50%未満である.大きい腎梗塞では側腹痛のため尿路結石と間違われることがある.白血球増加,血清LDHの著明な上昇,蛋白尿や肉眼的または顕微鏡的血尿が鑑別上,重要である.レニン分泌亢進により一過性の血圧上昇を示すことが多い.
診断
 造影CTやラジオアイソトープを用いた腎シンチグラムで楔形の造影欠損を認めれば確定する.
治療
 保存的に観察することが多いが,早期であれば再灌流療法の適応となる.長時間の虚血や,側副血行路の存在,腎の萎縮があれば適応外である.[木村玄次郎]

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六訂版 家庭医学大全科の解説

腎梗塞
じんこうそく
Renal infarction
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 心臓病などにより作られた血栓が、血流にのって腎臓に運ばれて動脈が閉塞し、そこから先の腎組織が壊死(えし)に陥る病態(梗塞)をいいます。

 腎動脈の本幹などの太い血管が急性に閉塞し、突然強い症状が出現することもあれば、小さな血管が閉塞する腎梗塞や多発性腎梗塞など、無症状なものもあります。

原因は何か

 腎梗塞の原因の大部分は、心房細動(しんぼうさいどう)などの不整脈、心臓弁膜症、心内膜炎、心臓手術などにより生じた血栓が腎動脈に詰まる塞栓症が占めています。

 そのほか、大動脈の壁に亀裂が入る大動脈解離大動脈瘤、外傷など、突然腎血流が途絶えることで起こることもあります。

 また、血管内カテーテル検査などにより、動脈硬化の血管壁からはがれたコレステロール結晶が塞栓症の原因となる場合もあります。

症状の現れ方

 大きな梗塞の場合は、突然の側腹部痛とともに悪寒、嘔吐、発熱などが出現し、また血尿や尿量の低下など激しい症状を認めます。しかし、小さな梗塞では無症状であることも少なくありません。また発作により腎から昇圧ホルモンが分泌され、一過性に血圧が上昇することもあります。

検査と診断

 CT、MRIや血管造影などの画像検査が確定診断に有用です。梗塞の大きさを反映し、血液検査では腎機能の低下(血清尿素窒素・クレアチニン上昇)や白血球、AST、LDHなどの上昇を認めます。尿検査では血尿や蛋白尿などが出現します。

治療の方法

 診断がつき次第、入院治療が必要です。安静として、早期から血栓溶解薬や抗凝固薬を用います。発症から数時間であれば、カテーテルによる局所の血栓溶解やステントなどによる血管形成術、血栓吸引などの治療が有効です。腎不全を呈している場合は、血液透析(とうせき)療法を行う必要性があります。

病気に気づいたらどうする

 塞栓症の場合は、発症から診断までの時間が短いほど予後が良好なため、前述の症状を認める場合は、検査や治療を行うことが可能な医療機関を早急に受診することが重要です。

武田 之彦

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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