腎症候性出血熱(読み)ジンショウコウセイシュッケツネツ(その他表記)Hemorrhagic fever with renal syndrome

デジタル大辞泉 「腎症候性出血熱」の意味・読み・例文・類語

じんしょうこうせい‐しゅっけつねつ〔ジンシヤウコウセイ‐〕【腎症候性出血熱】

ハンタウイルス一種感染して起こる病気。野ネズミにつくダニ媒介される。5日ほど続く高熱皮膚発赤や出血斑、たんぱく尿や乏尿などの症状を呈する。HFRS(hemorrhagic fever with renal syndrome)。

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六訂版 家庭医学大全科 「腎症候性出血熱」の解説

腎症候性出血熱
じんしょうこうせいしゅっけつねつ
Hemorrhagic fever with renal syndrome
(感染症)

どんな感染症か

 腎症候性出血熱(HFRS)は、ハンタウイルス感染による種々の程度の腎不全と血管障害に伴う症状からなる疾患です。本症には、重症型腎症候性出血熱と軽症型の流行性腎症と呼ばれるものとがあります。

 このハンタウイルスには、ハンターン(Hantaan)、ドブラバ(Dobrava)、ソウル(Seoul)、およびプーマラ(Puumala)などの亜型があり、そのなかでもハンターン型ハンタウイルスによる腎症候性出血熱が最も重症です。ドブラバ型およびソウル型ハンタウイルスによっても腎症候性出血熱が引き起こされます。流行性腎症は軽症型の腎症候性出血熱で、プーマラ型ハンタウイルスによります。

 宿主(しゅくしゅ)である齧歯類(げっしるい)(ネズミ)は終生糞尿中にウイルスを排出し、ヒトへの感染源になります。日本のネズミにもハンタウイルスが感染していることが確認されていますが、近年患者発生は確認されていません。

 アジアからヨーロッパにわたる広い地域で流行しています。ソウル型、ハンターン型ハンタウイルスによる腎症候性出血熱は韓国、中国で、ドブラバ型ハンタウイルスによる腎症候性出血熱は東欧で流行しています。そして、軽症型の流行性腎症は北ヨーロッパで主に流行しています。

 ヒトからヒトへの感染はありません。日本の感染症法では、4類感染症に指定されています。

症状の現れ方

 潜伏期間は4~42日です。突然の発熱、頭痛、出血症状、腎不全による乏尿(ぼうにょう)(尿の量が著しく減少する)およびそれに続く多尿、ショック症状が出現します。

検査と診断

 血液や採取された臓器からウイルスを検出したり、急性期と回復期のIgG抗体の有意な上昇や、IgM抗体を検出したりして診断します。

治療の方法

 安静、ショックに対する治療、輸液・循環の管理などの対症療法が基本で、特異的な治療法はありません。しかし、発症早期には、リバビリン(コペガス)が用いられます。感染予防には、ネズミと接触する機会を減らすための環境改善が重要です。

西條 政幸

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「腎症候性出血熱」の解説

じんしょうこうせいしゅっけつねつりゅうこうせいしゅっけつねつ【腎症候性出血熱(流行性出血熱) Epidemic Hemorrhagic Fever with Renal Syndrome】

[どんな病気か]
 セスジノネズミが保有するウイルスが、ダニの媒介(ばいかい)で人間に感染しておこる病気で、ロシアで出血性糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)と呼ばれている病気、旧日本軍が流行性出血熱と命名した病気、韓国で韓国型出血熱と呼ばれている病気は、いずれも同一の病気です。
 常在地は、朝鮮半島、中国の東北地方、ロシアのシベリア地方、スカンジナビア半島、東ヨーロッパの国々です。
[症状]
 2~3週間の潜伏期間の後、急に高熱が出て、4~5日続きます。そして、頭痛、嘔吐(おうと)、眼球結膜(がんきゅうけつまく)や軟口蓋(なんこうがい)の発赤(ほっせき)と出血斑(しゅっけつはん)、顔や上胸部の日焼け状の皮膚発赤や出血斑が現われます。
 発病から4日目ころ解熱しますが、その直前に血圧が低下し、ひどいショック状態になります。
 ついで乏尿(ぼうにょう)から無尿となり、幻覚けいれん肺水腫(はいすいしゅ)をおこして約5%の人が死亡します。
 この時期をもちこたえると、9~11病日から尿量が増え、回復します。
[治療]
 特効薬はありません。播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)(「播種性血管内凝固症候群(DIC)」)に対する副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬、急性腎不全(じんふぜん)に対する人工透析(じんこうとうせき)、細菌の感染予防に抗菌薬などが用いられます。
[予防]
 ノネズミの駆除(くじょ)が有効です。人から人への感染の報告はありませんが、病人の血液や尿の取り扱いに注意します。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腎症候性出血熱」の意味・わかりやすい解説

腎症候性出血熱
じんしょうこうせいしゅっけつねつ

急に高熱が出て4~6日続き、急に熱が下がったあと高度のタンパク尿と乏尿がおこり、重症の場合は全身性の出血傾向などもみられるウイルス性の伝染病であるが、通常わが国にはない。

 病原ウイルスは、1981年にLee & Choが分離したRNA型ウイルスで、直径80ナノメートル前後の球形である。保有動物はセスジノネズミApodemus agrariusで、これに寄生するダニが媒介するとされている。治療には特効薬がなく、対症的に治療が行われる。

 なお、第二次世界大戦中、当時の満州(中国東北部)に駐留中の日本陸軍軍医部によって命名された流行性出血熱や旧ソ連で出血性糸球体腎炎とよばれていた疾患、あるいは、韓国で韓国型出血熱とよばれているものなど、すべて同一疾患であり、世界保健機関(WHO)では1984年、これらを一括して腎症候性出血熱(hemorrhagic fever with renal syndrome略称HFRS)とよぶことにした。

 おもな流行地域は朝鮮半島、中国東北地方、旧ソ連地域、スカンジナビア半島、東ヨーロッパ地方などである。わが国でも1960~66年に軽症患者が約100人、大阪で発生したことがあるほか、1975~78年に実験室感染が二、三の大学でおこっている。

[柳下徳雄]

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