腟カンジダ症
ちつカンジダしょう
Vaginal candidiasis
(女性の病気と妊娠・出産)
生殖年齢にある女性では卵巣機能が活発で、エストロゲン(女性ホルモン)の作用により、多量のグリコーゲンを含んだ腟上皮細胞が増殖分化します。
腟内にはデーデルライン腟桿菌(腟乳酸菌桿菌)という菌が常在していて、このグリコーゲンを乳酸に分解して腟内を酸性に保ち、ほかの細菌の侵入を阻止しています(自浄作用)。しかし、何らかの原因により、この自浄作用が破綻した場合に、いろいろな腟炎、外陰炎が発症します。
腟カンジダ症は、やはり腟に常在しているカンジダという真菌が異常増殖して発症する病気です。その誘因としては、エストロゲン分泌亢進による、腟内㏗の低下に伴う細菌叢の変動、糖尿病、抗生剤投与による菌交代現象、妊娠、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の大量投与などがあげられます。
感染経路は、性交、便や尿、手指やタオルなどが考えられます。
腟カンジダ症は、外陰腟真菌症の90%程度を占めます。75%ほどの女性は生涯に1回は、また45%ほどの女性は2回以上、外陰腟カンジダ症を経験するといわれています。
外陰部に瘙痒感(かゆみ)、灼熱感が強く現れます。粥状、酒粕状の帯下(おりもの)が増加します。外陰部の発赤、はれがみられ、周辺に紅斑や小膿疱を伴うこともあります。
カンジダに感染していても症状のないこともあり、通常は症状がある場合に治療を行います。
前記の症状と、帯下の所見、菌の検出により診断します。菌の検出には直接、帯下を顕微鏡で観察し、菌体を検出する方法(鏡検)と、帯下を培養する方法があります。培養法のほうが鏡検より検出率はよくなります。
抗真菌薬配合の腟錠を使用し、同時に軟膏やクリームを外陰部に塗ります。ステロイド軟膏の使用は禁忌です。薬剤は一般的に、イミダゾール系(アデスタンG300、オキナゾールV600など)を1週間程度使用し、効果が不十分な場合は、さらに1週間使用します。
難治性の場合は、原因の検索を行い、経口薬の投与も行うことがあります。ただし妊婦の場合、経口薬は使用しません。
前記の症状が現れたら、産婦人科を受診してください。また、妊娠中は子宮内感染や産道感染の予防のため、妊娠13週以降から治療を行います。
藤原 敏博
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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家庭医学館
「腟カンジダ症」の解説
ちつかんじだしょうかんじだちつえん【腟カンジダ症(カンジダ腟炎) Vaginal Candidiasis】
[どんな病気か]
真菌類(しんきんるい)(カンジダアルビカンスが大半)の感染によっておこる腟炎で、かゆみが強く、おりもの(帯下(たいげ))の異常を感じて病院を受診することの多い病気です。妊娠、糖尿病(「糖尿病」)、ステロイド薬服用者や、エイズなどで免疫力の低下している人に多くみられます。
そのほか、抗生物質使用後に、菌交代現象(腟内を酸性に保っているデーデルライン桿菌(かんきん)が死滅し、別の菌にとって変わる)によって発症することもあります。また、性行為により感染する場合もあるので、性感染症の1つにあげられています。
[症状]
外陰部(がいいんぶ)のかゆみ(掻痒感(そうようかん))と、白色のヨーグルト状のおりものが増えるのがおもな症状です。したがって、酒粕(さけかす)状のおりものが下着に付着し、外陰部から肛門(こうもん)の周囲まで強いかゆみがあり、発赤(ほっせき)(皮膚が赤くなる)や灼熱感(しゃくねつかん)がみられることが多いのです。
[検査と診断]
婦人科受診時に、腟内の分泌物(ぶんぴつぶつ)を採取して苛性(かせい)カリ添加生理食塩水に混ぜ合わせ、顕微鏡で原因菌を検出することは比較的簡単な方法ですが、分泌物を培養(ばいよう)すれば、より確実な診断が得られます。
そのほか、子宮がん検診の際の細胞診で見つかることもあります。
[治療]
抗真菌薬の腟錠(ちつじょう)の腟内への挿入が、一般的な治療方法です。できるかぎり毎日挿入する腟錠と、5~7日に1度挿入する腟錠の2種類の薬剤があります。そのほか、外陰の炎症には、抗真菌薬の入った軟膏(なんこう)の塗布などを行ないます。抗真菌薬には、クロトリマゾール、イソコナゾール、ミコナゾールなどがあります。
また、治療が困難であったり、炎症をくり返すときには、抗真菌薬の内服なども考えられますが、糖尿病のコントロールを再検討することも重要です。
場合によっては、セックスパートナーの治療も必要となります。
出典 小学館家庭医学館について 情報
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腟カンジダ症 (ちつカンジダしょう)
vaginal candidiasis
カンジダ腟炎ともいう。真菌(カビ)の一種であるカンジダの感染によっておこる腟炎であり,通常は外陰炎を併発している。白色の泥状,チーズ状の帯下を伴う激しい搔痒(そうよう)感,灼熱感,痛みが特徴的な症状である。性交,手,タオル,衣類などによって伝播するといわれているが,元来カンジダは生体内に広く常在するものであり,妊娠,糖尿病罹患,長期抗生物質投与,ピル内服などにより腟内環境がカンジダの増殖に好都合なものに変化すると,腟内に生着,発育,増殖して発症するにいたる。治療には抗真菌剤の腟内投与(座薬)と外陰塗布(軟膏,クリーム)を行う。
→カンジダ症
執筆者:泉 陸一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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腟カンジダ症
ちつかんじだしょう
カンジダ腟炎ともいい、真菌(カビ)の一種であるカンジダによる腟炎で、産婦人科領域における真菌症の一つ。しばしば外陰症状を伴い、外陰腟真菌症(外陰腟カンジダ症)の病態を示すことが多い。慢性化すると腟の症状が軽くなり、外陰の症状が主となってくる。性行為感染症の一つとしてみられるほか、真菌の菌交代症、あるいは日和見(ひよりみ)感染によるものがある。
症状としては、外陰掻痒(そうよう)感が強く、帯下(たいげ)感を欠くこともある。帯下(おりもの)は酒粕(さけかす)様、チーズ様で、腟トリコモナス症のように液状となることはない。妊娠、糖尿病、長期間の抗生物質剤の投与、経口避妊薬の使用などにより腟内環境がカンジダの増殖に適した状態になると発症するので、これは診断の参考になる。治療には抗真菌剤を用いる。
[新井正夫]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の腟カンジダ症の言及
【カンジダ症】より
…日常よくみられるのは口腔,腟などの粘膜や皮膚の病変で,口腔カンジダ症は[鵞口瘡](がこうそう)ともいわれ,おもに新生児の口腔粘膜や舌にミルクかす状の偽膜をつくる。腟カンジダ症は,既婚女性に多く,外陰や腟の搔痒(そうよう)感と帯下がみられる。皮膚カンジダ症には次のようなものがある。…
【白帯下】より
… 病的な白帯下は,腟炎,頸管炎時などにみられる。とくに腟トリコモナス症のときには乳白色,微細泡沫状であり,また腟カンジダ症の帯下はチーズ様である。これらの感染症の治療には抗トリコモナス剤,抗真菌剤を用いる。…
※「腟カンジダ症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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