食中毒病原菌の一つ。日本における夏季の細菌性食中毒の原因菌の主体をなす。細胞の形がコンマ状をした好塩性のグラム陰性杆菌で,長軸の端に1本の鞭毛(べんもう)を有する。培養すると,この極単毛のほかに,数本の側毛ももつ。10℃以下では増殖しないが,25℃を超えると盛んに増殖する。最適培養条件下では,およそ8分ごとに分裂増殖する。夏季の6~9月に腸炎ビブリオによる食中毒が集中するのは,この盛んな増殖能力のためである。本菌は,海産魚介類の消化管,体表面などに付着しており,これらの魚介類の生食,あるいは,生魚を調理した〈まないた〉などを介して二次汚染されたその他の食品を摂取することによって発病する。本菌が付着,増殖した食品を摂取すると,数時間から半日程度の潜伏期の後に,まず腹痛が起こり,次いで吐き気,嘔吐,下痢,発熱などが現れる。まれに死亡例が出るが,概して軽症で,通常は5,6日で回復する。下痢や嘔吐による脱水症状が激しいときには輸液を行うほか,抗生物質による治療も行われる。
執筆者:川口 啓明
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