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自己言及性 じこげんきゅうせい

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大辞林 第三版の解説

じこげんきゅうせい【自己言及性】

自己自身を指示・言及すること。パラドックスを導くものとして数学・論理学の領域で注目され、社会システム理論でも問題とされる。

出典|三省堂
(C) Sanseido Co.,Ltd. 編者:松村明 編 発行者:株式会社 三省堂 ※ 書籍版『大辞林第三版』の図表・付録は収録させておりません。 ※ それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

自己言及性
じこげんきゅうせい
self-reference

発話主体、あるいは記号が、自己自身を指示対象としてもつこと。「自己指示」「自己参照」とも呼ばれる。発話内容によってはしばしばパラドックスにおちいるため、古来より哲学者、論理学者などの強い関心をひいてきた。最も有名なパラドックスは、クレタ人エピメニデスEpimenides(前6世紀ころ)が「クレタ人は嘘つきだ」といったという「クレタ人のパラドックス」だろう。エピメニデスもクレタ人であるため、彼の言明も虚偽であると考えると、「クレタ人は嘘つきではない」という結論が導かれてしまう。しかしこれはエピメニデスが嘘をついているという仮定と矛盾する。一方エピメニデスが嘘をついていないと仮定すると、この言明は真実となり、エピメニデスがクレタ人であるという事実と矛盾する。そのためこの言明の真偽は確定できない。同様に1901年にバートランド・ラッセルが発見した「ラッセルのパラドックス」も自己言及性に基づく。もともとこれは、数学を論理学に還元しようという試み(論理主義)のさなかにみつけられたものである。「ラッセルのパラドックス」とは、自分自身をその要素として含まない集合の集合は、自分自身を含むとも含まないともいえない、というものだが、ラッセルは集合とその要素というタイプ(階型)の異なるものを混同してはならないという「タイプ理論」を提唱してこれを解決した。だがクルトゲーデルの「不完全性定理」も、形式的体系内で、体系の無矛盾性を証明することはできない、というものであることを考えれば、自己言及性がいかに現代数学の展開に大きな役割を果たしたかがわかる。というのも、「不完全性定理」はラッセルが排除した自己言及性を再導入することで、論理主義の破綻を告げるものだったからである。
 一方20世紀以降の芸術は、芸術とは何かを自己言及的に問うことを特権的な主題としている。ある作品が自分自身を叙述の対象とするといった事態は、ミゲル・デ・セルバンテスの『ドン・キホーテ』、ロレンス・スターン『トリストラム・シャンディの生涯と意見』などにすでに見られたが、20世紀後半、ウラジミール・ナボコフやホルヘ・ルイス・ボルヘスといった作家たちが小説についての小説を書き出すにいたって、それらは「メタフィクション」と総称されることになった。ただし20世紀文学に巨大な影響を与えたという意味で最も重要な「メタフィクション」は、ジェームズ・ジョイスによる『ユリシーズ』だろう。絵画では、キャンバスに描かれたパイプの下に「これはパイプではない」という文字の配されたルネ・マグリット『イメージの裏切り』(1929)が自己言及性の例として有名だが、マルセル・デュシャンからコンセプチュアル・アートにいたるまで、自己言及性のテーマは多くみられる。しかし文学、絵画に限らず、ジャンルの自律性と純粋さを追求したモダニズム自体が自己言及性を内包していたともいえる。映画ではヌーベル・バーグから出発したジャン・リュック・ゴダールが、『ゴダールの映画史』(1989)など過去の映画からの引用に満ちた多数のメタ映画作品を製作している。
 しかしジャンルや行為の種類を問わず、人が自らについて語る存在である限り、自己言及性は人間の基本的な条件である。人は、自己に言及し、自己を解釈していくなかで世界を認識していくほかないからである。1970年代以降、生命、人格、社会組織など多様な領域が、再帰的に構造を選択し、要素を産出していく自己維持的システムとみなされるようになると、自己言及性は、あらためて自己組織化の問題ととともに考えられつつある。[倉数 茂]
『ダグラス・R・ホフスタッター著、野崎昭弘・はやしはじめ・柳瀬尚紀訳『ゲーデル、エッシャー、バッハ――あるいは不思議の環』(1985・白揚社)』

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