自愛とは文字どおり自己を愛することであるが、とくに他の何物にも増して自己を愛し、自己の幸福を願うのが自愛である。自愛は一般に利己主義の源泉として道徳的に悪とされるが、しかし自愛が人間の本性に基づく以上、その根絶は不可能で、それをむしろよい方向に転化すべきだという見方もある。
ルソーは、自愛は人間の自然的な根本感情であり、それはもともと他人への愛を排除するものではなく、かえってそれを誘発するものだと説き、否定されなければならないのは自愛ではなくて自尊であり、高慢や虚栄や憎悪は無限の自己満足を求める自尊から生ずるとする。またバトラーは、自我の部分的、一時的快楽ではなく、その全体的、永続的幸福を求めるのが理性的自愛であるとし、それを良心とともに人間の道徳的原理とする。なおカントは、自愛が実践理性によって道徳法則との一致という条件の下に制限されるとき、それを理性的自愛とよんだ。
[宇都宮芳明]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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