翻訳|rudder
船や飛行機などにおいて,進行方向を制御するために用いられる装置。船の舵も飛行機の舵も原理的にはまったく同じで,いずれも流れの中に置かれた物体に働く揚力を利用したものである。なお,日本では,古くは櫂(かい)や櫓(ろ)など船をこぐための道具を総称して〈かじ(楫,檝)〉と呼んでいた。
水上を航行する通常の船では,発生する推力の方向を変えて船に回頭力を与える特殊な推進器(フォイトシュイダープロペラ,首振り式スクリュープロペラなど)や横向きの推力を発生するサイドスラスターを除けば,一般的な方位制御手段は船尾に取り付けられた舵である。これは,舵板が鉛直軸のまわりに回転するものであるが,水中を航行する潜水船の場合には,このほかに,潜水および浮上など船の深度を制御するために水平舵horizontal rudder(舵板が水平軸のまわりに回転する)が必要である。通常の水上船での舵の効果は,スクリュープロペラが正転し船の前進速度がある程度以上のとき大きく,停止時または低速前進時にはその効果は小さい。
古代のエジプトや中国では,船尾玄側に取り付けた操船用のオールやパドル,または船尾大櫂を方位制御の目的に使っていた。現在のような船尾舵は1~2世紀の中国ですでに使われていたことが,広州の墳墓から発掘された副葬品の船の模型により知られている。中国からヨーロッパに船尾舵が伝えられたのは12世紀末から13世紀初めにかけてであろうと推定されるが,これも初期には船尾右玄に取り付けるのがふつうで,船尾中央に移されたのは13世紀の末以降とされている。船尾中央に取り付けられた船尾舵は,舵軸を回転することにより容易に大きな回頭力を発生させることができ,荒天下での操船および大船の航海を可能にし,同じく,中国からもたらされた羅針盤とあいまって,15世紀に始まる地理上の発見の推進力となった。
現在,商船などで用いられている舵の多くは,流れの中に置かれた翼状の物体が迎え角をもつとき,その物体に加わる揚力の舵板に垂直な成分を回頭力として利用するものである。したがって,大きな揚力が発生できること,迎え角を大きくしても失速しにくい(失速角が大きい)ことが舵の性能として重要であるが,さらに,迎え角を大きく変化させても揚力の着力点の位置の変化が小さいことが要求される。これは着力点の位置の変化が小さければ,揚力の着力点の直上に舵軸を取り付けることにより,舵軸の回転で舵角を変えるのに要するトルクを小さくすることができるからである。工作が容易なことから,古くは板状の舵が用いられたが,翼としての性能は悪く,現在では断面が流線形をした対称翼形の舵が主として用いられ,側面の輪郭形状も矩形かスペード形(鋤(すき)形ともいう)が多い。これら輪郭形状の相違および断面形状の細かい差異は,通常の流線形断面形状を有する舵では,その舵特性にさほど影響を与えない。揚力面としての舵の性能に直接関係するのは舵のアスペクト比(矩形舵では舵の高さを舵の幅で除した数値で定義される)で,アスペクト比が大きいほど舵の発生する単位側面積当りの揚力が大きく,揚力に相対的な抗力の大きさが小さくなる。側面積A,アスペクト比Λの舵が密度ρ,流速Uの流れの中に迎え角αで単独に置かれたとき,舵板に垂直な方向に働く垂直力FNは,f(Λ)をアスペクト比Λのみの関数として,
FN=1/2ρAU2sinα・f(Λ) ……(1)
で表される。f(Λ)はΛの増加関数で種々の経験式が実用に供されている。ただし,舵に流入する流体速度Uは船体伴流およびスクリュープロペラ後流,さらには船体の左右および旋回運動の影響,船体・スクリュープロペラ・舵の間の流体力学的相互干渉の影響を受けて,船の対水速度とは異なる。また,舵への流体流入角αも船体およびスクリュープロペラの整流効果,船体運動に基づく舵位置での流れの向きの変化の影響により,舵角指示器の示す角度(船体縦中心線と舵板中心線のなす角)と異なる。したがって,(1)式からもわかるように,舵板に作用する垂直力は流れの速度が大きいほど大きい(したがって舵の効きがよい)ので,通常,舵は船尾に装備されたスクリュープロペラの直後に置かれ,スクリュープロペラによって加速された速度の大きい流れが舵に当たるようにくふうされている。スクリュープロペラが回転していないときや逆転しているときは,舵の効きが著しく低下し,このような場合,舵は有効な方位制御手段とはなりえないのがふつうで,前述の特殊な推進器やサイドスラスターが利用される。また,船が惰力前進中,停止などのためにスクリュープロペラを逆転させると,スクリュープロペラから吐き出される流れがスクリュープロペラ前方の船尾付近に非対称な流れの場を形成し,その結果,船に回頭力が作用することが多い。一方,このような場合,舵の制御効果はほとんど期待できないので,スクリュープロペラの逆転によって誘起された回頭力による船体の旋回運動を操舵によって抑止することは困難である。
舵板が1枚の板状の単板舵は,構造が簡単なことからかつてはよく用いられたが,舵の背面で流れが剝離するため舵効きが失われる失速角が小さく,また舵抵抗も大きいので,最近では小型船以外ではあまり使われない。断面形状が流線形で,断面の厚さを厚くし,舵板に働く力の着力点が広い範囲の操舵角に対して移動しないようにくふうした釣合舵(舵板に働く力の着力点の直上に舵軸を設けた舵)をシンプレックス舵という。単板舵では舵の前端(船に近いほう)を回転軸とする形式の非釣合舵が多く,このような舵では舵板を回転させるのに大きなモーメントを要するが,釣合舵では舵軸にかかるモーメントが小さく,操舵機の馬力を小さくできる利点がある。エルツ舵は,全体としては流線形であるが,前方の約1/3は固定され,後方の部分のみが可動となっており,舵に働く力の一部を固定部に受けもたせることにより,操舵機の馬力を小さくできる,大舵角まで失速を起こさないなどの利点がある。反動舵は舵板の前縁につけた翼形の鰭(ひれ)でスクリュープロペラ後流のねじれを整流して舵自身に推進力を発生させ,船の推進力を増大させるもので,同様に,スクリュープロペラ後流を整流し推進効率を高めるために,舵柱の前端に上下逆のねじれを与えた舵をコントラ舵と呼ぶ。また,ふつうの釣合舵を主舵とし,その後端に小さな副舵を設け,副舵に作用する力で主舵を回転させて操舵機の馬力を小さくする形式の舵をフレットナー舵という。以上の舵は,いずれも舵板に働く揚力を回頭力として利用するものであるが,このほかスクリュープロペラ後流の噴出方向を操作して回頭力を得る舵として,スクリュープロペラを円筒状ノズル内に収め,ノズルを鉛直軸のまわりに回転させて推進力の方向を変えるコルトノズル舵,2個の半円形の筒でスクリュープロペラを囲み,これらの筒の開閉とその方向変換で船に推進力または回頭力を与えるキッチェン舵などがある。
もっとも簡単な操舵方法は,舵軸の上部に取り付けられた舵柄を,直接人間の手で操作することであるが,ごく小型の船にしか適用できない。舵輪の回転をチェーン,ロープ,棒などで船尾に伝え,舵柄を動かす手動式のものは,いくぶん大きめの船にまで適用できるが,動力源が人力である以上,限界がある。現在,もっともよく使われているのは,舵輪の回転を電気的信号に変換して船尾の操舵機室に伝え,この信号により電動油圧式操舵機で舵柄を操作する方法である。これによれば,船橋操舵室から船尾操舵機室までは電気的信号を送る配線だけですむ利点がある。また航洋船では,船を所定の方位に向けて航行させるよう自動的に舵を操作する自動操舵装置をもつのがふつうとなっている。なお,船では,船の進む方向に向いて,船首を左に向ける舵の取り方を取舵,反対に右に向けるときを面舵と呼んでいる。
→自動操舵装置
執筆者:藤野 正隆
飛行機には姿勢や向きを変えるため,操縦によって動く舵がいくつか付いている。これらを総称して操縦翼面control surfaceあるいは舵面と呼んでいる。
操縦翼面のうちもっともたいせつなものは,飛行機に,上や下に向く,左や右に向く,横に傾くの3種の重心まわりの回転運動をさせるための主操縦翼面で,これを三舵ともいう。ふつうの飛行機には,三舵として昇降舵,方向舵,補助翼があり,これらとエンジンの出力を操作することによってひととおりの操縦ができる。こうした三舵による操縦方式は,ライト兄弟の初飛行から数年後のフランスのファルマン機あたりでほぼ完成され,以後今日まで飛行機の舵の標準として続いている。三舵は操縦席の操縦桿(かん)(または操縦輪)とペダルで操作され,低速の小・中型機ではワイヤロープなどを介して人力で,また高速機や大型機では油圧装置などを介して機力で動かすのがふつうである。これらの三舵は,いずれも飛行機の前進によって生ずる空気の流れの中に置かれたときに発生する揚力を利用するものであるから,空中で停止中の垂直離着陸機や空気のないところを飛行中の宇宙機では,機体の端から空気やガスを直角に吹き出して姿勢や向きを変える。また,ヘリコプターでは,主回転翼と尾部回転翼のピッチ(羽根の取付角)を変えて姿勢や方向を制御するのがふつうである。
(1)昇降舵elevator 飛行機の姿勢を上向きや下向きに変えて縦の操縦を行うための舵で,エレベーターとも呼ぶ。ふつうの飛行機では水平尾翼の後部に取り付けられている。操縦桿(または操縦輪)を手前に引くと昇降舵は上に動き,その結果,水平尾翼全体が下に反った形になるため,水平尾翼には下向きの揚力が生じ,この力の機体の重心まわりのモーメントによって飛行機は尾部が下がり機首が上を向く(これを上げ舵という)。逆に操縦桿を前方に押すと昇降舵は下がって飛行機は下を向く(下げ舵)。こうして飛行機の姿勢を変えることによって主翼の迎え角を変え,主翼に生ずる揚力を増減するのが昇降舵の役目で,飛行機が遅く飛ぶときは迎え角を大きくしないと揚力が出せないので上げ舵に,逆に速く飛ぶときは下げ舵にする。昇降舵とはいうがこれを上げ舵にしただけで飛行機が上昇するわけではなく,上昇にはエンジンの出力を増す必要がある。飛行機によっては昇降舵がなく,代りに水平尾翼全体を昇降舵のように操作して縦の操縦をするものもあり,このような水平尾翼を全可動尾翼またはフライングテールあるいはスタビレーターと呼ぶ。なお,前翼機(先尾翼機)では昇降舵は前翼にある。
(2)方向舵rudder 船の舵に相当するものでラダーとも呼ぶ。ふつうは垂直尾翼の後部にあり,操縦席の左のペダルを踏むと方向舵は左に動き,垂直尾翼に右向きの揚力が生じ,この力の重心まわりのモーメントによって飛行機の機首は左を向く。逆に右のペダルを踏むと機首は右を向く。船の場合は方向舵に相当する舵のみを操作すればよいが,飛行機を旋回させるには補助翼も操作して,旋回の中心に近いほうの主翼が下方,外側の主翼が上方になるように機体を傾け,主翼の揚力の水平成分と遠心力をつり合わせなければならない。
(3)補助翼aileron 飛行機を横に傾ける横の操縦を行うための舵で,エルロンともいう。ふつうは両主翼の後縁の翼端寄りにある。操縦桿を左に倒す(または操縦輪を左にまわす)と,左の補助翼が上がり同時に右の補助翼が下がり,その結果左翼の揚力が減って右翼の揚力は増すので,機体は左(正面から見れば右)に傾く。逆に操縦桿を右に倒すと飛行機は右に傾く。後記のフラップを兼ねているものはフラッペロンと呼んでいる。また飛行機によっては補助翼がなく,代りに後述のスポイラーで横の操縦を行うものもあり,スポイラーと補助翼を併用する機体もある。超音速機などでは,補助翼のほかに全可動式の水平尾翼を左右逆に動かして横の操縦をするものもある。無尾翼の三角翼機などでは,左右主翼後縁の操縦翼面をそれぞれ逆方向に動かして補助翼の役目を,左右同じ方向に動かして昇降舵の役目をさせており,この舵面をエレボンelevonと呼んでいる。
主操縦翼面以外の補助的な操縦翼面を二次操縦翼面という。どの飛行機にもあるとは限らない。二次操縦翼面は油圧,電気など機力で動かすのがふつうであるが,タブは人力で操作する機体が多い。
(1)タブtab 主操縦翼面の後部にある小さな舵のようなもので,主操縦翼面が人力操縦の場合によく見られる。操舵力を適度にするためのバランスタブと,手放しでも舵をある角度に保ち,一定の飛行姿勢を維持して操縦を楽にするためのトリムタブの2種がおもなものである。
(2)スポイラーspoiler 主翼の上面に付けられたドアのように開閉する翼面で,これを上げると主翼の揚力が減り抵抗が増す。両翼のスポイラーを同時に上げると急速に降下することができ,また片翼ずつ上げると補助翼の代りに横の操縦に使える。着陸接地後にスポイラーを上げると,主翼に残っている揚力が減って車輪ブレーキの効きがよくなり滑走距離が短くてすむ。この目的で使うスポイラーをグランドスポイラーと呼んでいる。
(3)フラップflap 離着陸,低速飛行,空戦などのとき,大きな揚力を得るために下げる翼面。主翼の後縁の補助翼のない部分にあるが,前縁にもある機体もある(高揚力装置)。
(4)エアブレーキair brake 減速や降下をしたいときに空気抵抗を増すためのもの。胴体や主翼など機体の一部を開いて気流中に出す形式のものである。スポイラーをこの目的で使う機体も多い。
執筆者:久世 紳二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
船を操縦する要具。楫、梶、柁とも書く。
古くは船尾付近の舷側(げんそく)で操作するいわゆる操舵櫂(そうだかい)で、これは櫂と同様に約5000年前のエジプトの船の絵に明瞭(めいりょう)に描かれており、その後のギリシア、ローマをはじめとするヨーロッパの船の標準的装備となって13世紀まで主用された。中国では約2000年前までは同様の操舵櫂を使用していたが、1世紀の後漢(ごかん)の時代になると、船体中心線上の船尾に配置する画期的な船尾舵の方式が出現した。これが今日の舵の源流となるが、ヨーロッパでは13世紀になってようやくこの方式が使われるようになった。日本では、縄文時代は舵の使用は確認されていないが、弥生(やよい)時代の銅鐸(どうたく)や土器に描かれた船には操舵櫂が装備されており、発掘船や船型埴輪(はにわ)などでみる限り、古墳時代も操舵櫂が主用されている。中国の先進的な船尾舵の採用の時期はかなり遅れている。『万葉集』には「カヂ」が頻出するが、そのほとんどは推進用のオールである。また舵の存在を思わせることばに「カヂツカ」があるが、舵柄(かじつか)は操舵櫂でも使うことがあり、船尾舵の使用は確定づけられないので、その導入は7世紀以後の中国系ジャンク技術による遣唐使船建造のときまで下るとも考えられる。平安時代になると、『延喜式(えんぎしき)』に船尾舵採用を示唆する条項があり、鎌倉時代には十分普及して、絵巻などに描かれた大型船はすべて船尾舵を装備している。その形状や装備方式は近世の和船のそれに近く、すでに中世に日本式の舵の原型が確立していたことを示している。
近世の日本式の舵は、商船、軍船とも同じ形式で、入港の際は舵をに引き上げるという、水深の浅い港の多い日本の港湾事情を考慮したものであった。しかしこの舵の装着法は堅固でなかったため、荒天時の激浪で破壊されることも多かった。また船体に比して不つり合いな大舵面は、頻繁に港へ出入りする内航船にとっては必要な操縦性を確保し、かつ横風や逆風の際の帆走性能向上に欠かせないものであったが、これもまた荒天時に破壊される一因となっていた。つまりその長所が短所でもあったわけで、効果的な対策が行われないまま明治時代に入り、蒸気船の主用によって今日のような舵が標準化される一方、和船の衰退もあって特徴的な日本式の舵は姿を消した。
[石井謙治]
舵を形状によって分類すると、不釣合(ふつりあい)舵、釣合舵および半釣合舵の3種がある。不釣合舵は、水圧を受ける舵板が舵の回転軸の後方だけにあるが、釣合舵は、舵の面が回転軸の前後にある。帆船時代から長い間不釣合舵が広く用いられてきたが、船が大型・高速化するにつれて、不釣合舵より回転力が少なくてすむ釣合舵が大半を占めるようになった。半釣合舵はこれらの中間的なものである。また構造上から分類すると、舵板が1枚の厚い鋼板でできている単板舵と、骨組の両側に鋼板を張った複板舵とがある。複板舵は、断面が流線形で舵効きがよく、水の抵抗も少ないため、現在はほとんどの船で使用されている。単板舵は、構造が簡単であるが舵効きが悪いので、低速小型船で使用されるにすぎない。舵の上部には鋳物でできた舵頭材があって上方へ伸び、歯車またはチラーとよぶ腕木式の装置によって船内の操舵機へ連結されており、これらによって回転力が舵へ伝達される。
[森田知治]
『石井謙治著『図説和船史話』(1983・至誠堂)』
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…前4000年ころの絵ですでに帆らしいものが認められるが,後世のものはりっぱな横帆をもっている。舵の進化もよくわかる。 エジプトに続いて古代世界に登場する船はクレタ人の船である。…
※「舵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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