芸亭(読み)うんてい

改訂新版 世界大百科事典 「芸亭」の意味・わかりやすい解説

芸亭 (うんてい)

奈良時代末に有名な文人の大納言石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)が設け書庫。日本最初の公開図書館とされる。芸亭院ともいう。《続日本紀》天応1年(781)6月条の宅嗣の伝などによれば,彼は自宅を改造して阿閦寺(あしゆくじ)を建立し,寺の南東隅に外典(げてん)の書庫を中心とする一区域を設けて芸亭と名付け好学者に自由に閲覧させたという。阿閦寺は,平城京の左京2条,奈良市法華寺の南東にあったらしい。芸亭の〈芸〉は〈芸〉とは別字で,一種の香草をいい,虫害を防ぐために書巻の中に入れたことから書籍の意にも用いられる。平安初期の学者であった賀陽豊年(かやのとよとし)も,宅嗣に好遇されて数年間芸亭で諸書を閲覧したという。しかし,828年(天長5)に空海が作った綜芸種智院式(しゆげいしゆちいんしき)によれば,そのころにはすでに芸亭はほろびていたようである。
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図書館情報学用語辞典 第5版 「芸亭」の解説

芸亭

「うんてい」と読む.奈良時代末期設立年は不詳),文人石上宅嗣が,奈良の旧宅を阿寺とし,その一隅に置いた図書館.奈良時代後半,藤原氏が政権を掌握する過程や,仏教が政治と結び付いて腐敗する状況を見ていた宅嗣が,晩年になって仏教と儒教統一による新たな思想模索を目指し,読書思索,論議の場として芸亭を開設した.同じ志を持つ人々が集い,学び,論議したと考えられている.日本最初の公開図書館といわれるが,宅嗣が属する物部氏一族のための閉鎖的な組織ではなかったものの,その性格からすれば会員制の図書館と呼ぶ方が適切か.宅嗣の死後いつしか失われた.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「芸亭」の意味・わかりやすい解説

芸亭
うんてい

奈良時代の末期、石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)が開いた、わが国最古の公開図書館。『続日本紀(しょくにほんぎ)』によると、宅嗣がその旧宅を阿閦寺(あしゅくじ)として、寺内の一隅に外典(げてん)(仏教関係以外の書)を収蔵する書庫を設け、芸亭と名づけ、閲覧を希望する好学の士があれば、自由にこれを許したとある。芸亭の「芸」は香草のことで、虫を防ぐため書籍に挟んだのが書籍の別名になったからとか、阿閦如来(にょらい)を示す梵字(ぼんじ)の「ウン」と同音の漢字からとったとの説がある。その場所は奈良の法華寺(ほっけじ)の南東の地で、近年この地の発掘調査が行われた。

[大塚徳郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「芸亭」の意味・わかりやすい解説

芸亭
うんてい

芸亭院ともいう。日本最古の公開図書館。奈良時代末期,淡海三船 (おうみのみふね) とともに文名の高かった石上宅嗣 (いそのかみのやかつぐ) が,自宅を阿 閦寺 (あしゅくじ) とし,寺内の東南隅に建てたもの。特に外典 (げてん。仏教経典以外の書) を集め,好学の徒に,閲覧させた。宅嗣の記した条式に,芸亭の設立は,儒仏一体の思想によることが述べられている。賀陽豊年 (かやのとよとし) をここに招いて,数年間諸書を研究させたこともある。9世紀初め頃まで存続したらしい。

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百科事典マイペディア 「芸亭」の意味・わかりやすい解説

芸亭【うんてい】

日本最初の公開図書館。奈良時代末,石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)の設立で,彼は旧宅を寺とし,その一隅に漢籍を収めた書庫を設け,自由に閲覧させたという。芸亭院とも。
→関連項目図書館

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旺文社日本史事典 三訂版 「芸亭」の解説

芸亭
うんてい

奈良末期,石上宅嗣 (いそのかみのやかつぐ) がつくったわが国最初の公開図書館
宅嗣が私邸を阿閦 (あしゆく) 寺とし,その一隅に図書を集め,好学の士に閲読させた。

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世界大百科事典(旧版)内の芸亭の言及

【阿閦】より

…日本における《阿閦仏国経》の最古の記録は,736年(天平8)の正倉院文書(《写経請本帳》)である。また,石上宅嗣(いそのかみやかつぐ)が建てた芸亭(うんてい)は,自宅を改造した阿閦寺の境内にあった。この寺名は,阿閦仏が本尊として安置されていた可能性を示唆している。…

【石上宅嗣】より

…彼の信条は儒教,仏教の調和にあり,仏教にも帰依して自宅を阿閦寺(あしゆくじ)という寺にしている。この寺の南東に建てられた芸亭(うんてい)は,儒教の典籍を収蔵し,好学の徒に開放したもので,日本最初の公開図書館として名高い。平安初期に文人として名を成した賀陽豊年(かやのとよとし)は,ここで学んだ。…

【図書館】より

…このような気運のもとで,多くの図書を集め多くの人の閲覧に供するという狭義での図書館も誕生することになった。聖徳太子の夢殿,大宝令の規定に見える中務(なかつかさ)省の図書(ずしよ)寮,東大寺など大寺に付設された経蔵,さらには吉備真備(きびのまきび)や玄昉(げんぼう)など知識人の私的な文庫も広義の図書館と考えることができるが,一般には石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)が奈良の地において,私邸に阿閦(あしゆく)寺を建立し,その境内に芸亭(うんてい)と称する書斎を設け公開したものが日本における公開図書館の発祥とされる(8世紀後半)。また,菅原道真はその書斎文庫の紅梅殿(こうばいどの)を他人にも公開したといわれる。…

【文庫】より


[日本における歴史]
 大宝律令には図書寮のほか文殿,校書殿などの名が見られ,寺社では経を収納する経蔵を有していた。上代の個人文庫の始まりは,奈良時代末期に石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)が邸内に設けた芸亭(うんてい)で,奈良県天理市に顕彰碑があるほか,遺構とみられるものが発見されている。ほかに菅原道真の紅梅殿,大江匡房の千種(ちぐさ)文庫,日野資業の法界寺文庫などがあったが,火災などで今日に伝わっていない。…

※「芸亭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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