江戸初・中期の画家。英派の祖。伊勢亀山藩石川侯の侍医の子として京都に生まれ,幼時江戸へ下る。本姓は多賀氏,名は安雄のち信香,字は君受。号は朝湖,一蝶,翠蓑翁,北窓翁など多数。俳号を暁雲,夕寥などといい,遊里での通名を和応(和央)といった。絵ははじめ幕府奥絵師の筆頭狩野安信に師事して狩野派の本格的な画法に習熟するが,やがて岩佐勝以(又兵衛),菱川師宣の風俗画風を慕って,当世江戸の都市風俗を活写し,古典的主題の戯画的表現に機知の冴えを誇る平明な作風を形成するに至る。かたわら早くから談林風の俳諧をたしなみ,芭蕉をはじめ其角,嵐雪ら蕉門の徒と親交を結んだ。彼は清新な視覚を働かせ抒情的な詩趣を盛り込むなどして,ようやく形式主義を墨守するようになってきた狩野派の水準をはるかに超える革新的な画業を展開した。将軍綱吉の生母桂昌院縁辺の大名や,譜代大名,旗本らに取り入って逸楽遊興の相手をしたことが嫌われ,1698年(元禄11)から1709年(宝永6)にかけて伊豆三宅島に配流された。江戸に戻ったとき,画名の多賀朝湖を英一蝶と改名したが,三宅島では一時牛麿と名のっている。流人生活を維持するために作画して江戸へ送ったり,周辺の島民に売り渡した三宅島時代の作品を特に〈島一蝶〉と呼ぶことがある。晩年は当代風俗の描写をあえて避けるようになり,温雅で保守的な狩野風の山水画や景物画,花鳥画に佳品を残している。代表作として,初期の《朝暾(ちようとん)曳馬図》(静嘉堂),島一蝶の《布晒舞図》(遠山記念館),《四季日待図巻》(出光美術館),後期の《雨宿り図屛風》(東京国立博物館)があげられる。実子の2代一蝶(名は信勝。?-1737)のほか,門人に一舟,一峰,一水(佐脇嵩之)がおり,さらに一水の弟子高嵩谷(こうすうこく)(1730-1804)が一蝶画を忠実に祖述して,その軽妙洒脱で気品のある風俗画風の普及に努めた。
執筆者:小林 忠
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江戸前期の画家。英派の祖。医師多賀伯庵(はくあん)の子として京都に生まれる。幼名猪三郎、諱(いみな)は信香(のぶか)、字(あざな)は君受(くんじゅ)、剃髪(ていはつ)して朝湖(ちょうこ)と称した。翠蓑翁(すいさおう)、隣樵庵(りんしょうあん)、北窓翁などと号し、俳号に暁雲(ぎょううん)、夕寥(せきりょう)があった。1659年(万治2)ごろ江戸へ下り、絵を狩野安信(かのうやすのぶ)に学んだが、いたずらに粉本制作を繰り返し創造性を失った当時の狩野派に飽き足らず、岩佐又兵衛(いわさまたべえ)や菱川師宣(ひしかわもろのぶ)によって開かれた新興の都市風俗画の世界に新生面を切り開いた。機知的な主題解釈と構図、洒脱(しゃだつ)な描写を特色とする異色の風俗画家として成功。かたわら芭蕉(ばしょう)に師事して俳諧(はいかい)もよくした。1698年(元禄11)幕府の怒りに触れ三宅(みやけ)島に流されたが、1709年(宝永6)将軍代替りの大赦により江戸へ帰り、画名を多賀朝湖から英一蝶と改名した。晩年はしだいに風俗画を離れ、狩野派風の花鳥画や山水画も描いたが、終生俳諧に培われた軽妙洒脱な機知性を失うことはなかった。代表作に、いわゆる「島(しま)一蝶」として珍重される三宅島配流時代の作品『四季日待図巻』(東京・出光(いでみつ)美術館)や『吉原風俗図巻』(東京・サントリー美術館)、『布晒舞図(ぬのざらしまいず)』(埼玉・遠山記念館)などがある。
[榊原 悟]
『小林忠著『日本美術絵画全集16 守景/一蝶』(1982・集英社)』
(小川知二)
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1652~1724.1.13
江戸中期の狩野派系の画家。伊勢国亀山城主の侍医の子。京都生れ。狩野安信(やすのぶ)の門人。はじめ多賀朝湖(ちょうこ)と称す。俳諧をたしなみ遊廓吉原に通じた才人として江戸の都市風俗を自由闊達に描き,形式化した当時の狩野派の中では抜きん出ていたが,遊興の度がすぎ1698年(元禄11)三宅島に配流された。1709年(宝永6)赦されて江戸に戻り英一蝶と改名。晩年は古典的狩野派様式に回帰。英派の祖。
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