家庭医学館 「薬物乱用による心の病気」の解説
やくぶつらんようによるこころのびょうきやくぶついぞん【薬物乱用による心の病気(薬物依存) Drug Dependence】
薬物をくり返し乱用してやめられなくなる場合を薬物依存(やくぶついぞん)といいます。薬物依存は、依存する薬物の種類により、異なるタイプに分けられます。
■有機溶剤依存(ゆうきようざいいぞん)
シンナー、ボンドなどの揮発性(きはつせい)の物質を吸入し、乱用する依存症で、依存者の多くは少年です。悪い先輩や仲間に誘われて吸入を始める場合が多いようです。
吸入がくり返されるとシンナー中毒「シンナー中毒(トルエン中毒/キシレン中毒)」をおこし、記憶障害(きおくしょうがい)や幻覚(げんかく)が現われ、ひどいと人柄が変化して元にもどらなくなります。
吸入をやめさせ、悪い仲間との接触をやめるためには、学校・病院・児童相談所・保健所や、場合によっては警察などと連携して本人を指導する必要があります。
■麻薬(まやく)や覚醒剤(かくせいざい)などに対する依存
これらの薬物は依存性が強く、乱用をやめて年月がたった後にも、なんらかのきっかけで幻覚、妄想(もうそう)などの症状が再燃する場合があります。これをフラッシュバック現象と呼びます。麻薬や覚醒剤は、精神病や人格崩壊を招くので、特殊な場合を除けば、使うことも所持することも禁止されています。
日本では麻薬よりも覚醒剤を乱用する場合が多く、近年は外国人が売人として摘発される場合が増加しつつあります。また、依存者の低年齢化も問題となっています。
有機溶剤依存者が後に、これらの不法な薬物に手を染める場合も少なくないといわれます。また、海外へ頻繁(ひんぱん)にでかけて、現地で薬物を乱用する人もいます。
また、大量に使用すると、けいれん、昏睡(こんすい)などの覚醒剤急性中毒(かくせいざいきゅうせいちゅうどく)(「覚醒剤急性中毒」)をおこすことがあります。
薬物乱用をやめさせ、抗精神病薬の使用を中心とする薬物療法と、生活態度全般についての指導が必要です。しかし、家族や医師による指導だけでは立ち直れない場合が多く、自助組織や、場合によっては法務省などによる保護や援助も必要となります。
■治療薬依存(ちりょうやくいぞん)
治療薬であっても、常用量をはるかに超える量を長期間連用すると依存におちいる場合があります。依存をおこす薬物に、鎮痛薬(ちんつうやく)、鎮咳薬(ちんがいやく)、睡眠薬、精神安定剤などがあります。これらの薬物を複数の医療機関から処方されたり、複数の薬店で購入したりするうちに、使用量が増えてやめられなくなるようです。
「睡眠薬や精神安定剤は、少しでも飲むと頭がおかしくなったり、くせになったりして、将来はぼけてしまう」などという人がいますが、決められた用量の範囲内であれば、そういうことは一切ありません(「向精神薬のいろいろ」)。
しかし、一度に大量に服用すると、催眠(さいみん)・鎮静薬中毒(ちんせいやくちゅうどく)(「催眠・鎮静薬中毒」)、解熱(げねつ)・鎮痛薬中毒(ちんつうやくちゅうどく)(「解熱・鎮痛薬中毒」)、抗(こう)うつ薬中毒(やくちゅうどく)(「抗うつ薬中毒」)をおこすことがあります。
治療薬依存を防ぐためにも、受診する医療機関を限定し、一般科(内科や外科ほか)と精神科が共同で診療し、治療薬の使用をいきなりやめるのではなく、不快な症状をある程度がまんしながら、徐々に減量してもらう必要があります。
[治療]
薬物依存は、いずれのタイプでも、依存者本人や家族の努力だけでは問題の改善は得られません。アルコール依存の治療と同様に医療機関、自助組織、地域社会などとの連携が必要となります。本人の治療だけでなく家族への指導、助言も重要です。
医療機関を受診する際には、精神科もしくは神経科を受診し、薬物依存歴を包み隠したり、嘘(うそ)をついたりせず、真摯(しんし)な態度で治療を受けるようにしましょう。医師や家族は、折に触れて本人を指導していく必要もあります。
薬物依存者の自助組織としては、DARC(ダルク)(薬物依存症リハビリテーションセンター)などがあります。薬物依存の経験者たちと会合しながら、回復を目ざしていきます。