行・往・逝(読み)ゆく

精選版 日本国語大辞典 「行・往・逝」の意味・読み・例文・類語

ゆ・く【行・往・逝】

〘自カ五(四)〙
[一]
① 今いる所から向こうの方へ進み動く。
(イ) ある場所から離れるように進み動く。
書紀(720)斉明四年一〇月・歌謡水門(みなと)の 潮のくだり 海(うな)くだり 後も暗(くれ)に 置きてか庾舸(ユカ)む」
※宇治拾遺(1221頃)二「希有の人かなと思て、十余町ばかり、具してゆく」
(ロ) 目的の場所に向かって進む。赴く。
※古事記(712)中・歌謡「蒜摘みに 我が由久(ユク)道の」
※伊勢物語(10C前)九「あづまの方に住むべき国もとめにとてゆきけり」
(ハ) 先方に到達する。また、訪問する。
万葉(8C後)五・七九五「家に由伎(ユキ)ていかにか吾(あ)がせむ枕づく妻屋さぶしく思ほゆべしも」
※大和(947‐957頃)一四一「山崎に、もろともにゆきてなむ、舟にのせなどしける」
② あるところを通過して進む。
(イ) 通り過ぎる。通行する。
※古事記(712)中・歌謡「海処(うみが)由気(ユケ)ば 腰泥(なづ)む 大河原の 殖(うゑ)草 海処は いさよふ」
古今(905‐914)春上・二二「春日野の若菜つみにやしろたへの袖ふりはへて人のゆくらん〈紀貫之〉」
(ロ) 水が流れ去る。また、風が吹き通る。
※書紀(720)清寧二年・歌謡「稲むしろ 川そひやなぎ 水愈凱(ユケ)ば 靡き起き立ち その根は失せず」
方丈記(1212)「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」
(ハ) 年月が過ぎ去る。また、年をとる。ある年齢に達する。
※万葉(8C後)一〇・二二四三「秋山に霜降り覆ひ木の葉散り年は行(ゆく)とも我れ忘れめや」
※湯葉(1960)〈芝木好子〉「歌のほうは歳がゆくにつれて忘れっぽくなった」
③ 道などが通じる。
※万葉(8C後)二・二三四「三笠山野辺ゆ遊久(ユク)道こきだくも荒れにけるかも久にあらなくに」
④ (逝) 死ぬ。逝去する。
※大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)九「已に遊(ユケ)る魂上帝に招かれ」
※母の死と新しい母(1912)〈志賀直哉〉三「汐の干くと一緒に逝くものだと話して居た」
⑤ (嫁、婿、養子などになって)他家へ移る。
※大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)九「姉一人有り。羸州の張民に適(ユケ)り」
渋江抽斎(1916)〈森鴎外〉一〇七「五百(いほ)は潔く此家を去って渋江氏に適(ユ)き」
⑥ (「心がゆく」の形で) 愉快になる。満足する。→ここちゆくこころゆく
※万葉(8C後)三・四六六「吾が屋前(やど)に 花そ咲きたる そを見れど 情(こころ)も行(ゆか)ず」
物事が進行する。行なわれる。→ことゆく
愚管抄(1220)三「万機の沙汰ゆかぬやうになるとき」
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉三「二進(にっち)も三進(さっち)も、ゆかなくなった時には」
⑧ (損、得、満足、納得など)ある結果や状態が生じる。
咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)上「色々案じても合点ゆかず」
※明日への楽園(1969)〈丸山健二〉四「そうはゆきません」
性交の快感が絶頂に達する。
[二] 補助動詞として用いる。動詞の連用形、または、それに助詞「て(で)」を添えた形に付いて、動作・状態の継続、進行を表わす。
※万葉(8C後)一七・四〇〇三「万代に 言ひ継ぎ由可(ユカ)む 川し絶えずは」
※伊勢物語(10C前)六「やうやう夜もあけゆくに」
[語誌](1)同義語に「いく」があるが、使用頻度は、室町期を過ぎる頃まで「ゆく」が優勢であった。「ゆく」は和歌のほか文字言語、ことに訓点資料に多く用いられた。音便形の「ゆいて」も、おおむね訓点資料や抄物に見られる。
(2)慣用句は、より古い時代に出来たこともあって、古雅な「ゆく」の形をとることが多い。なお、上代に見られた「いゆく」の「い」は動詞に付く接頭語である。→「いく(行)」の語誌

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android