西廂記(読み)セイソウキ

デジタル大辞泉 「西廂記」の意味・読み・例文・類語

せいそうき〔セイサウキ〕【西廂記】

中国、元代の戯曲。全21幕。王実甫おうじっぽ著。鶯鶯と張君瑞(張生)の恋物語。唐の元稹げんしん伝奇小説「会真記(鶯鶯伝)」の悲恋を、歌唱を伴う語り物諸宮調)とした金の董解元とうかいげんの「董西廂とうせいそう(西廂記諸宮調)」によって脚色したもの。14世紀初めの成立。元曲の最高傑作とされる。

せいしょうき〔セイシヤウキ〕【西廂記】

せいそうき

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精選版 日本国語大辞典 「西廂記」の意味・読み・例文・類語

せいそうきセイサウキ【西廂記】

  1. [ 一 ] 中国の詞曲書。八巻。金の董(とう)解元撰。[ 二 ]のもとになった語り物。唐代の小説、元稹(げんしん)作の「鶯鶯(おうおう)伝(会真記)」の改作。元曲が傑作として流行したため区別して「董西廂」、弦楽器伴奏でうたい語られたので「弦索西廂」、また、現存唯一の完本が諸宮調という語り方のものなので「諸宮調西廂記」「西廂記諸宮調」などと呼ばれる。
  2. [ 二 ] 中国の詞曲書。元曲の編名。全二一幕(五本二一折)。前一七折は王実甫(おうじっぽ)撰、残りは関漢卿補撰という。書生の張君瑞と死んだ宰相の娘崔鶯鶯の波乱にみちた恋物語。[ 一 ]を劇化したもの。元曲(北曲)の代表作。せいしょうき。

せいしょうきセイシャウキ【西廂記】

  1. せいそうき(西廂記)[ 二 ]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「西廂記」の意味・わかりやすい解説

西廂記(せいそうき)
せいそうき

中国、元(げん)の雑劇(ざつげき)作品。「せいしょうき」ともいう。王実甫(おうじっぽ)作。13世紀後半、雑劇が大都(だいと)(北京(ペキン))を中心として最初の隆盛期を迎えた時期の作品。遊学の途中の書生張珙(ちょうきょう)と崔相国(さいしょうこく)の娘鶯鶯(おうおう)が、蒲州(ほしゅう)(山西省東郊の普救寺を舞台に繰り広げる物語は、もとは元稹(げんしん)の小説『鶯鶯伝(会真記)』から出ている。唐の伝奇小説では、女が家柄の差をあきらめて身を引いて他に嫁して終わるが、宋(そう)代以降の民間演芸に語り継がれるなかで、文学土壌の変化を写して、あえて、封建道徳の教えにあらがい、父母の決めた婚約者を押しのけて恋を成就するものに変わっていく。侍女紅娘(こうじょう)の助けを借りて、2人がついに相国未亡人に結婚を認めさせ、張珙の状元(じょうげん)及第任官を待って団円するというストーリーは、すでに諸宮調(しょきゅうちょう)『董解元(とうかいげん)西廂記』に語られているところだが、王実甫はそれを改めて5本21折の長編雑劇に脚色した。純粋で誠実な張珙、ためらいつつも大胆な鶯鶯、聡明で溌剌(はつらつ)とした紅娘、頑迷固陋(ころう)の相国未亡人と、登場人物の性格がすっきりと描き分けられ、場面構成もより多彩になって、諸宮調を超える高い文学的完成をみせている。優美な雅文調に口語の生気を調和させた曲詞もまた元曲の代表的な達成の一つにあげられ、後続の戯曲に多大の影響を与えた。通例の雑劇を5本重ねて、主要人物がみな歌う場面をもつという、雑劇としては破格の構成であったことも幸いして、明(みん)代に入って流行の中心が長編構成の南曲伝奇に移ったのちも、北曲脚本としては例外的に、南方の地方調の演劇に移されて上演が続けられた。伝奇『琵琶記(びわき)』と並んで数多くの評注校刊本が出版されたが、清(しん)代に入って金聖嘆(きんせいたん)の、末尾4折を削って張珙の旅立ちを結末とした悲劇仕立ての『第六才子書西廂記』が出てからは、もっぱらそれが読まれた。明・清2代の伝奇、雑劇には、李日華(りじっか)、陸采(りくさい)の両『南(曲)西廂記』をはじめ多数の改編本、続編本がつくられている。

[傳田 章]

『田中謙二訳「元曲西廂記」(『中国古典文学大系 52 戯曲集 上』所収・1960・平凡社)』


西廂記(せいしょうき)
せいしょうき

西廂記

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改訂新版 世界大百科事典 「西廂記」の意味・わかりやすい解説

西廂記 (せいしょうき)
Xī xiāng jì

中国,元代の戯曲。作者は王実甫。元の雑劇としては破格の,5編分より成る長編作,21幕(折)。唐の元稹(げんしん)《会真記(鶯鶯伝)》にもとづく金代の語り物《董西廂》を歌劇に改編したもので,山西省隅の名刹を舞台に展開される,旅の書生と亡き宰相の令嬢の波乱にみちた恋愛をつづる。作者は語り物が設定した封建礼教に対する自由結婚の抗争というテーマに添いつつ,登場人物たちの性格を的確に強調し,礼教の権化たる宰相未亡人と人間性を代弁する小間使いを両極に配しつつ,その間に恋の当事者を介在させ,彼ら相異なる四つの性格の対比が生む多様な波乱を,雅俗語を巧みに使い分ける洗練された筆致で描く。とくに,それ自身の礼教性をなかなかにぬぐいえぬヒロインの心理の推移や,恋のアドバイザーとしての小間使いのはつらつたる言動が印象的である。南戯盛行の明・清期にも出版が重ねられ,インテリ子女の血を沸かせた元曲の傑作として知られる。
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百科事典マイペディア 「西廂記」の意味・わかりやすい解説

西廂記【せいしょうき】

〈せいそうき〉とも。中国,元代の戯曲。王実甫の作。元の雑劇(元曲)5編分の体裁をもち,全21幕。唐の元【しん】(げんしん)の小説《会真記》,金代の語り物《董西廂》に基づき,山西省の名寺を舞台に,遊学の書生と宰相の遺児の美しい恋愛を描く。封建礼教と自由恋愛の抗争を主題とし,元曲中最高の傑作といわれる。
→関連項目金聖嘆元【しん】四大奇書諸宮調董西廂

西廂記【せいそうき】

西廂記(せいしょうき)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「西廂記」の意味・わかりやすい解説

西廂記
せいそうき
Xi-xiang-ji

中国,元代の戯曲。全 21幕。王実甫作。山西省のある名寺院でめぐり合った旅の書生張きょう (ちょうきょう) と宰相の遺児崔鶯鶯 (さいおうおう) が,鶯鶯の侍女紅娘のはからいで幾多の曲折ののち結ばれる物語。この恋愛物語の原型は唐代の伝奇小説『鶯鶯伝』 (『会真記』) にあり,その後民間の語り物として変形成長し,金代に董解元 (とうかいげん) の『諸宮調西廂記』,いわゆる『董西廂』として結晶した。王実甫は,筋をほぼ忠実にこの『董西廂』にとりつつ,文語と口語のみごとな調和を完成,1本4幕を原則とする元の戯曲としては異例の長編にまとめた。明の李卓吾,清の金聖嘆などにより人間性の真実を伝える文学として激賞され,中国戯曲史上最高傑作の一つとなった。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「西廂記」の解説

『西廂記』(せいしょうき)

元代の長編戯曲。作者は王実甫(おうじっぽ)。唐の元稹(げんしん)の『会真記』に取材し,金代の語り物『董西廂』(とうせいしょう)を歌劇に改編,張君瑞(ちょうくんずい)と崔鶯鶯(さいおうおう)との恋愛を描く。登場人物の性格と心理を的確に描写したことで定評があり,明清代にも版が重ねられた。元代社会史の史料としても有用。

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旺文社世界史事典 三訂版 「西廂記」の解説

西廂記
せいそうき

元の王実甫 (おうじつぽ) の戯曲。元曲(北曲)の代表作
唐の元稹 (げんしん) の小説『鶯鶯伝 (おうおうでん) 』によって金の董解元 (とうかいげん) が作った『西廂記諸宮調』にもとづいている。張君瑞 (ちようくんずい) と崔 (さい) 鶯鶯の恋物語で,5本20折からなる異例の長編。

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世界大百科事典(旧版)内の西廂記の言及

【金聖嘆】より

…幼時から俊才ぶりを現し,しかも好んで反俗・反常識の見解を発揮した。その本領を最も奔放に示したのは,《荘子》《楚辞》《史記》《杜詩》《水滸伝》《西廂記》を古今第一等の〈奇文〉として〈六才子書〉と名づけ,それぞれに警抜な批評を加えたことであった。特に《水滸伝》のような通俗小説や《西廂記》のような戯曲を一級の文学として評価したのは,唐順之や李贄(りし)が端緒を発した見識をさらに推し進めて,新しい価値観を定立したものであった。…

【諸宮調】より

…特にその組曲形式と四声を通押するそれまでにない押韻法は,元代の雑劇や散曲,すなわち元曲と共通しており,元曲を生みだす有力な母胎となったと考えられる。ただし明代以降は急速にすたれ,現存する作品も少なく,完全に残っているのは,金の章宗の時の人といわれる董解元の作《西廂記諸宮調》,別名《董解元西廂記》(略して《董西廂》)だけである。この作品は唐の元稹の伝奇小説《鶯鶯伝(おうおうでん)》を題材としており,元の王実甫の雑劇《西廂記》に大きな影響をあたえた。…

【中国文学】より

…戯曲作家として傑出したのは関漢卿(かんかんけい)と王実甫の2人で,ともに14世紀初めに死んだ。関漢卿は多数の作品を公にし,舞台の経験のあった人と思われ,王実甫の名は《西廂記(せいしようき)》によって不朽である。これは元曲中の最長編であり唐代の恋愛物語の演劇化であった。…

※「西廂記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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