新井白石(あらいはくせき)の著書。1708年(宝永5)に屋久島(鹿児島県)に潜入したローマの使節、イタリア人宣教師ジョバンニ・バッティスタ・シドッチを取り調べた際、聴取したヨーロッパをはじめ海外事情とキリスト教関係事項とを書き記したもの。世界地理の記述では『采覧異言(さいらんいげん)』のほうが詳しく体系化もされているが、国文で平易に書き、キリスト教教義をも詳細に書いている(3巻のうちの下巻)点が本書の特色。もちろん儒教道徳と合理主義の立場から、キリスト教には厳しい批判を加えている。また同じ事項を、江戸にやってきたオランダ商館長らに尋ねたことから、偏見を免れたところも少なくない。スペイン継承戦争(1701~14)や北方戦争(1700~21)の記事などでも、オランダ人から聞いて不足を補っている。『采覧異言』と同じく最晩年まで増訂の筆が加えられたことが、みごとな筆跡をもつ現存自筆本によって知られる。本書は新井家に極秘のうちに伝えられたため知る人も少なく、1793年(寛政5)幕府の命令で献上されてから、やっと知識人の間でわりあい知られるようになった。キリシタン批判書であり「和魂洋才(わこんようさい)」的考え方(器械など物質面では西洋が優れ、道徳など精神面では東洋、日本が優れているとする)をしている点で、鎖国制下における本書の思想史的役割は大きく、明治以前すでにアメリカ人宣教師によって英訳もされた。自筆本は国立公文書館蔵。『新井白石全集 第4巻』、『新訂西洋紀聞』(平凡社・東洋文庫)、『日本思想大系 35 新井白石』、岩波文庫などに所収。
[宮崎道生]
新井白石著。3巻。1708年(宝永5)日本にキリスト教を復活させようと屋久島に潜入して捕らえられたイタリア人宣教師シドッチを,白石が幕命により翌年江戸小石川切支丹屋敷において訊問し,聴取した内容にオランダ人への質疑を加えてまとめた記述。上巻はシドッチの潜入,取調べの様子から獄死に至る経過,中巻は五大州諸国の事情・地理など,下巻は渡来の目的とキリスト教についてのシドッチの解説と白石の解釈・批判を記す。成立は上巻末の日付によれば1715年(正徳5)であるが,白石のごく晩年かとの説もある。本書は新井家に秘蔵され,93年(寛政5)白石の玄孫成美が幕府に献上し,1882年大槻文彦がはじめて刊行した。白石はシドッチの訊問を通じ,キリスト教布教について領土的野心をいだくものではないと認めるに至った。また西洋の学術は形而下の物質的な面にはすぐれるが,思想や道徳の面では無稽であるとの認識をもったが,これはその後の多くの日本知識人の西洋文明観の先駆といいうる。
執筆者:辻 達也
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西洋事情書。3巻。新井白石著。上巻末の識語によると1715年(正徳5)成立。白石の晩年とする説もある。1708年(宝永5)屋久島に潜入したイタリア人宣教師シドッティの訊問時に得た知識をもとに,江戸参府のオランダ人からの聴取内容を加味してまとめあげた。上巻はシドッティ渡来の事情と訊問から獄死に至る経緯を記す。中巻はシドッティが語った五大州の地理・歴史・風俗・物産および国内事情,下巻はキリスト教の教義と布教についてのシドッティの解説とそれへの白石の批判を記す。鎖国下の日本の海外知識受容の基本書。「岩波文庫」「新井白石全集」「日本思想大系」所収。
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…屋久島に単身上陸したが直ちに捕らえられ,長崎を経て江戸へ送られ,小石川切支丹屋敷に幽閉され5年後に没した。その間,新井白石はシドッチを尋問し,彼から得た世界情勢,天文,地理などの情報をもとに《西洋紀聞》《采覧異言(さいらんいげん)》などを執筆した。これらは鎖国下の世界知識の源となり,洋学の基となった。…
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