記憶術(読み)きおくじゅつ(英語表記)mnemonics

精選版 日本国語大辞典 「記憶術」の意味・読み・例文・類語

きおく‐じゅつ【記憶術】

〘名〙 物事記憶する方法技術。記憶法。
※新編教育学(1894)〈湯本武比古一一「此の記憶は、類似及び反対法則に従ひ、人為方法を以て、互に関係なき観念をして、互に関係あらしむるものにして、是れより所謂記憶術は成立するものなり」

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デジタル大辞泉 「記憶術」の意味・読み・例文・類語

きおく‐じゅつ【記憶術】

早く正確に記憶する方法。5の平方根「2.2360679」を「富士山麓さんろくオウム鳴く」のように語調のよい言葉にして覚えるような類。

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最新 心理学事典 「記憶術」の解説

きおくじゅつ
記憶術
mnemonics

記憶術は,記銘材料の体制(構造)化,イメージ化,精緻化,連想などによって,記憶の量や正確さを増強する一群の記憶方略memory strategyである。記憶術は,意識的努力と熟達化によって,符号化-保持-検索の効率を高めるように内的方略internal strategyを組み合わせたもので,メモを取るなどの外部記憶を用いる外的方略external strategyには頼らない。

 主な記憶術には,古代ギリシア時代以来の弁論術の伝統の中で発達した場所法method of lociがある。これは熟知した場所の移動順序に従って,無関連な記銘項目と場所の結びつきをイメージ化して覚える方略である。たとえば,項目A,B,Cなどを,家を用いて覚えるには,玄関-A,廊下-B,居間-Cなどというように,記銘する。検索時は,家に入る順序を心の中でたどりながら思い出す。ペグワード法peg word method(掛けくぎ法)は,場所法と単語のイメージ化法や押韻法rhymingを組み合わせた方法である。無関連な記銘項目を結びつけるための体制化されたペグをあらかじめ記銘しておくことが重要である。ペグとしては,体制化された場所(例:指や部位として頭,肩など),家族(例:父,母など)や,数字と音が似た(押韻した)イメージしやすい具体物(例:14はイシ,15はイチゴ)などがある。そして,記銘時には,記憶項目とペグを結びつけるようにイメージ化したり,意味づけをして覚える。たとえば,卓越した記憶能力をもつ記憶術師は,円周率などの長い数字列を,数字のペグとなる具体物を使った物語を作って覚える物語法story methodを用いることがある。物語法とは,記銘項目が時間的順序に従って登場する物語を作って覚えるものである。イメージ化法imagingは,記銘材料の鮮明なイメージや突飛なイメージを作って思い出しやすくする方法である。精緻化elaborationは,無意味あるいは無関連な記銘項目に意味づけをする方法である。たとえば,数字列や記号列にことばを割り当てて有意味化する語呂合わせがある(例:794年を覚えるための「鳴くよウグイス平安京」)。頭文字法acronym methodは,記銘項目の頭文字を並べて意味のある語にする方法である。たとえば,HOMESはアメリカの五大湖であるヒューロンHuron湖,オンタリオOntario湖,ミシガンMichigan湖,エリーErie湖,スペリオルSuperior湖を覚えるための頭文字である。

 記憶術を用いて記銘した後には,記銘内容を何度もリハーサルrehearsalすることが重要である。リハーサルには,音韻的に反復する維持リハーサルと意味づけを行ないつつ反復する精緻化リハーサルがある。また,リハーサルの時間間隔を,しだいに開けていく間隔リハーサルや,先に記銘した項目をリハーサルしつつ,新たな項目を学習する方法がある。

 なお,場所法やペグワード法は,無関連な記銘項目を覚える時には有効である。しかし,記憶術に習熟していない人が実行するには,符号化段階で,記銘項目を体制化するコストが大きい。したがって,一般の日本の学生・生徒が,試験のための記憶に用いる方略は,習熟や努力をさほど必要としない方略が多い。具体的には,記銘項目を繰り返し書くあるいは声に出して読むなど,符号化段階における運動や視覚・聴覚のフィードバックを伴う反復練習,また保持段階のリハーサルである。次によく利用されているのは,語呂合わせや頭文字法である。こうした,年号,英単語,化学記号などを覚えるための記憶術は,授業受験参考書でも紹介されている。 →記憶 →日常記憶 →符号化 →メタ認知
〔楠見 孝〕

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改訂新版 世界大百科事典 「記憶術」の意味・わかりやすい解説

記憶術 (きおくじゅつ)
mnemonics

記憶の構成行程を分析解明することによって,その特徴を明らかにし,これを活用して想起作用をより迅速かつ容易に行わせようとするくふう。視聴覚とくに視覚を援用する場合が多い。すでにギリシアのソフィスト時代にヒッピアスHippiasやシモニデスSimōnidēsが教えていたという。《ギリシア人の弁論術》は古典的記述として有名である。あらかじめ若干の知悉した場所(トポス)を脳中に設定し,記憶すべきものをそこに配置しておけば,想起に際して,それらの場所との関連性を手がかりとして,容易に想起作用をすすめることができる,というのがその原理で,場所的記憶術ともいわれる。この著作は,長らくキケロの著作と考えられ,たんに古代記憶術の代表作としてのみならず,記憶術の典拠として権威を保ちつづけた。とくに14世紀から16世紀にかけてヨーロッパでは記憶術が流行し,さまざまの記憶術書が著された。ルルスやラウェンナトゥスRavennatusはその代表である。これらの記憶術探究は,根底において認識論や論理学と不可欠に結びついており,たとえば観念連合や百科全書や普遍数学mathesis universalisの考え方に多くの影響を与えた。しかしその効用についてはしばしば疑念が提出され,印刷術の普及とともに,近代では急速に衰退した。最近の科学技術の発達,とくに大脳生理学や情報科学の驚嘆すべき革新は,記憶術についても新たな再検討を迫っている。
レトリック
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「記憶術」の意味・わかりやすい解説

記憶術
きおくじゅつ
mnemonics

速やかに覚え、長く忘れないでいるための技術を意味する。この技術をもっぱらくふうすることを職業としている者は、古来から記憶術師といわれる。

 記憶の心理学からみて、記銘後、記銘項目の復唱の機会をたびたびもつこと、また無意味な記銘項目を有意味な項目に連合したり、無関連な無構造の項目を関連のある構造的な単位に組み替えたりすることが把持(保持)にとって有効である。したがって記憶術では、このことを基本にして具体的技法が考案されている。たとえば、249106817591のような数字列を、1957,1860,1942のように順序を逆にし、西暦年号として覚えるとか、4588とか4526とかの番号を、「よい母」とか「よい風呂(ふろ)」と読んで、有意味化して覚える。また、相互には関連のない語(人名、地名、物名など)をアイウエオ順、アルファベット順、イロハ順などに配列したり、数え歌のように韻を踏んだ詩文に入れて覚えたりする。新しく記銘する項目を永続的に記憶している項目、なかでも連想価の高い項目に関連させて覚えることは有意味化、構造化のよい事例である。なお、特殊な技法としては場所法method of lociがある。既知の光景のイメージに、それ自身なんら関係のない項目を対応させて覚える方法で、たとえば、住み慣れた部屋のなかの物に記銘項目をいちいち対応させ、部屋のイメージを思い出しながらこれらを想起するのである。

[小川 隆]

『南博著『記憶術』(1961・光文社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「記憶術」の意味・わかりやすい解説

記憶術
きおくじゅつ
mnemonics

音や数字の配列などそれ自体無意味な素材や,かなりの数の相互に関連の少い語や文などを正確に記憶する方法。覚えるべき素材の全体または一部を,有意味な言葉,視覚的イメージ,習慣的な配列といった熟知したものと結びつけて記銘し,想起の際にそれらを手掛りとして再生する。

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