出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報
記憶の構成行程を分析解明することによって,その特徴を明らかにし,これを活用して想起作用をより迅速かつ容易に行わせようとするくふう。視聴覚とくに視覚を援用する場合が多い。すでにギリシアのソフィスト時代にヒッピアスHippiasやシモニデスSimōnidēsが教えていたという。《ギリシア人の弁論術》は古典的記述として有名である。あらかじめ若干の知悉した場所(トポス)を脳中に設定し,記憶すべきものをそこに配置しておけば,想起に際して,それらの場所との関連性を手がかりとして,容易に想起作用をすすめることができる,というのがその原理で,場所的記憶術ともいわれる。この著作は,長らくキケロの著作と考えられ,たんに古代記憶術の代表作としてのみならず,記憶術の典拠として権威を保ちつづけた。とくに14世紀から16世紀にかけてヨーロッパでは記憶術が流行し,さまざまの記憶術書が著された。ルルスやラウェンナトゥスRavennatusはその代表である。これらの記憶術探究は,根底において認識論や論理学と不可欠に結びついており,たとえば観念連合や百科全書や普遍数学mathesis universalisの考え方に多くの影響を与えた。しかしその効用についてはしばしば疑念が提出され,印刷術の普及とともに,近代では急速に衰退した。最近の科学技術の発達,とくに大脳生理学や情報科学の驚嘆すべき革新は,記憶術についても新たな再検討を迫っている。
→レトリック
執筆者:清水 純一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
速やかに覚え、長く忘れないでいるための技術を意味する。この技術をもっぱらくふうすることを職業としている者は、古来から記憶術師といわれる。
記憶の心理学からみて、記銘後、記銘項目の復唱の機会をたびたびもつこと、また無意味な記銘項目を有意味な項目に連合したり、無関連な無構造の項目を関連のある構造的な単位に組み替えたりすることが把持(保持)にとって有効である。したがって記憶術では、このことを基本にして具体的技法が考案されている。たとえば、249106817591のような数字列を、1957,1860,1942のように順序を逆にし、西暦年号として覚えるとか、4588とか4526とかの番号を、「よい母」とか「よい風呂(ふろ)」と読んで、有意味化して覚える。また、相互には関連のない語(人名、地名、物名など)をアイウエオ順、アルファベット順、イロハ順などに配列したり、数え歌のように韻を踏んだ詩文に入れて覚えたりする。新しく記銘する項目を永続的に記憶している項目、なかでも連想価の高い項目に関連させて覚えることは有意味化、構造化のよい事例である。なお、特殊な技法としては場所法method of lociがある。既知の光景のイメージに、それ自身なんら関係のない項目を対応させて覚える方法で、たとえば、住み慣れた部屋のなかの物に記銘項目をいちいち対応させ、部屋のイメージを思い出しながらこれらを想起するのである。
[小川 隆]
『南博著『記憶術』(1961・光文社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…1924年にロンドン大学を卒業,44年からは同大学付属のワールブルク研究所員となり,新プラトン主義の宇宙観を手掛りにルネサンス精神史の新しい解明を試みた。《ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス学の系譜》(1964)によりルネサンス期魔術(ヘルメス学)の哲学的役割を再検討した後,記憶術と宇宙観の結合をシェークスピアの常打ち劇場だった〈地球座〉の構造にまで探りあてた名著《記憶術》(1966)を刊行,また《薔薇十字啓蒙運動》(1975)では17世紀の科学革命に及ぼした魔術的ユートピズムの影響を明確にした。従来偏狭な枠でしか扱われなかった諸思想を,正統的なヨーロッパ思想史の中に位置づけた意義は大きい。…
※「記憶術」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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