デジタル大辞泉
「警策」の意味・読み・例文・類語
きょう‐さく〔キヤウ‐〕【▽警策】
[名・形動ナリ]
1 禅宗で、座禅中の僧の眠けや心のゆるみ、姿勢の乱れなどを戒めるため、肩などを打つ木製の棒。長さ1メートルほどで、先は扁平な板状。けいさく。
2 《「きょうざく」とも》
㋐人が驚くほど詩文にすぐれていること。また、そのさま。こうざく。
「文ども―に、舞、楽、物の音ども、ととのほりて」〈源・花宴〉
㋑人柄・容姿・物事などがすぐれてりっぱなこと。また、そのさま。こうざく。
「御心ばへもいと―に、御かたちもいとうるはしく」〈増鏡・三神山〉
けい‐さく【警策】
1 馬を走らせるために打つむち。また、馬をむち打つこと。
2 注意・自覚を呼びおこすこと。
「母親の言ったのが、ぐっと―になって寝像頗るおとなしく」〈紅葉・二人女房〉
3 文章中で、その文全体を引き立たせるような働きをする語句。きょうさく。
4 ⇒きょうさく(警策)1
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けい‐さく【警策】
- 〘 名詞 〙 ( 「策」はむちうつの意 )
- ① ( ━する ) 馬を駆けさせるために打つ鞭(むち)。また、馬をむち打つこと。
- [初出の実例]「上月下旬警策程、王春芳節始相迎」(出典:本朝無題詩(1162‐64頃)四・早春言志〈藤原周光〉)
- [その他の文献]〔曹植‐応詔詩〕
- ② 詩文中にあって、文全体を活かす働きをする主要な短句。転じて、佳編、佳句をもいう。
- [初出の実例]「兼摭唐人贈答、稍挙警策雑此帙中。編成十巻」(出典:性霊集‐序(835頃))
- [その他の文献]〔陸機‐文賦〕
- ③ ( ━する ) 人の注意、自覚などをよびおこすこと。また、そのことば。厳しい戒め、忠告。
- [初出の実例]「昨日少年今白首 故人警策語分明」(出典:真愚稿(1422頃か)和兌童立秋韻)
- ④ 仏語。禅宗の僧堂内で用いる僧の眠気をさますための細長い板状のもの。長さ四尺二寸(一・三メートル)ほどで、上幅は少し広くつくられている。また、誦経や問答の際など、師家が用いる。きょうさく。
- [初出の実例]「其晩暮六(くれむつ)より四過迄衆僧取廻して警策(ケイサク)を打」(出典:随筆・驢鞍橋(1660)上)
警策の補助注記
( 1 )「源氏物語」など仮名文献に「きゃうさく」あるいは「かうざく」という語形が見られ、意味のひろがりもある。→きょうさく・こうざく。
( 2 )漢字で書かれたものの読みははっきりしないが、便宜上この項に収めた。
きょう‐さくキャウ‥【警策】
- 〘 名詞 〙
- ① ( 形動 ) 人を驚かせるほど詩文にすぐれていること。また、そのさま。こうざく。
- [初出の実例]「ふみどもきゃうさくに、舞・楽・物のねどもととのほりて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)花宴)
- ② ( 形動 ) 人がらや容姿などが立派なこと。物事にすぐれていること。また、そのさま。こうざく。
- [初出の実例]「きゃうさくに心にくくて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)蔵開中)
- ③ =けいさく(警策)
警策の語誌
( 1 )中国では、もと、馬に鞭を当てることをいうが、転じて、漢詩文の要となって全体に光彩を与えるすぐれた字句(文選、陸機‐文賦)、及び秀作、傑作をいうようになった。日本では、さらに広く、②のようにものごとの優秀であること、人物・人柄の秀でていることなどをも意味した。
( 2 )「警策」は、漢音読みで「ケイサク」、呉音読みで「キャウシャク」であるが、漢字で書かれたものの読みについては、はっきりしないので、すべて「けいさく」の項にまとめた。→けいさく(警策)
こう‐ざくカウ‥【警策】
- 〘 名詞 〙 ( 形動 ) ( 「きょうさく(警策)」の直音表記か )
- ① 人に驚きをあたえるほどに詩文にすぐれていること。また、そのさま。きょうさく。
- [初出の実例]「梅丸が作れる詩ことにかうざく(警策)なりとて」(出典:読本・近江県物語(1808)一)
- ② 人柄や容姿などが立派であること。物事にすぐれていること。また、そのさま。きょうさく。
- [初出の実例]「かのみあるじの、いとになくかうざくなりつれば」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
- ③ =けいさく(警策)③
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
警策 (けいさく)
禅宗のことば。〈きょうさく〉ともいう。弟子をはげますこと。とくに,座禅や日常生活のうちで,修行のゆるみや,過度の緊張をほぐすため,肩や背をたたくことを,警策を与えるといい,すすんで棒そのものを警策,もしくは策子と呼ぶ。長さ約1.5m,手もとは丸くて直径5cm,先端は幅6cm,厚さ1cm程度に薄く板状にけずり,当たりが軟らかで,弾力をもつようにつくる。素材や打ち方も,冬はカシやケヤキで両肩にそれぞれ四打,夏はヒノキで両肩それぞれ二打が一般で,相互に合掌して行ずる。また唐の潙山に〈警策文〉あり,各種の《清規(しんぎ)》に,そのような行法を記す。
執筆者:柳田 聖山
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
普及版 字通
「警策」の読み・字形・画数・意味
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
警策(きょうさく)
きょうさく
「けいさく」ともいう。禅宗で坐禅(ざぜん)や法要のとき、指導者が修行者の睡魔(すいま)を払ったり、心の緩みを戒めるために用いる棒。曹洞(そうとう)宗では「きょうさく」と読んで、右肩を打ち、臨済(りんざい)宗では「けいさく」と読んで、両肩を打つ。その他の作法も曹洞と臨済ではやや異なる。一般的にはカシの木を用い、長さ90センチメートルから1メートルぐらいで、手に持つ部分を丸くし、先にいくにしたがって扁平な形とし、先端の幅は4センチメートルほどにする。また長さの短いものもあり、短策(たんさく)と称する。
[中尾良信]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
警策
きょうさく
禅堂で用いる用具。「けいさく」ともいう。木製の扁平な,長さ 1.2mほどの棒で,修行者が坐禅中に睡気に襲われたとき,また自分の精神を鼓舞させたいときに巡回中の僧にこれで打ってもらう。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の警策の言及
【警策】より
…弟子をはげますこと。とくに,座禅や日常生活のうちで,修行のゆるみや,過度の緊張をほぐすため,肩や背をたたくことを,警策を与えるといい,すすんで棒そのものを警策,もしくは策子とよぶ。長さ約1.5m,手もとは丸くて直径5cm,先端は幅6cm,厚さ1cm程度に薄く板状にけずり,当たりが軟らかで,弾力をもつようにつくる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」