憲法(62条)に保障された議院の国政調査権に実効力を与えるため制定された法律(昭和22年法律第225号)。正式には「議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律」と称し、議院から証人として出頭あるいは書類の提出を求められたすべての人に適用される。出頭した証人は宣誓したうえで真実を証言しなければならない。例外的に証言を拒絶できるのは、
(1)証人またはその近親者や後見人などが罪を負うおそれのある事実
(2)医師・弁護士などが職業上知り得た事実
(3)公務員が公務上知り得た事実
などで、これ以外の場合に、出頭せず、書類を提出せず、あるいは宣誓や証言を拒むと、偽証と同様、議院の告発によって処罰される。
本法は、運用の初期に、証人喚問した民間人が自殺したことを受けて、積極的には活用されない時期もあったが、1974年(昭和49)のオイル・ショック、1976年のロッキード事件をきっかけに、国政調査権の目的を「狭義の立法活動」に閉じ込めず、制度を主権者国民の「知る権利」(憲法21条)に仕えるものととらえるようになり、運用される機会が増した。しかし、「数の政治」を基調とする民主制のもとでは、多数党がかかわる問題に対しては、国民の期待に沿う運用がなされているとはいいがたく、本法の弱点を克服できたわけではない。
本法では、証人の人権軽視が指摘され、証言中の写真撮影やテレビ中継を禁止したものの、マスコミの強い要望を受け入れ、許可制として復活した。また、1988年には、弁護士の同席を認め、証言拒絶に助言させる制度(1条の4・昭和63年法律第89号)を創設するなど、進化し続けているものの、公務上の秘密に対する徹底しない追及態度、質問に対して「記憶にございません」と返答されると、それ以上は追及しえない調査能力、あるいは意図的に偽証させてその責を問う手法の排除など、運用上の課題も少なくない。
[佐々木髙雄]
〈議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律〉(1947公布)の略称。議院の国政調査権の手段として,〈証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる〉と定める憲法62条を受けて制定された。1976年に表面化したロッキード事件に関連して,証人の国会喚問,偽証罪による告発などが行われたことで一躍脚光を浴びた。
各議院から,議案の審査または国政に関する調査のため,証人として出頭または書類の提出を求められたときは,一定の証言拒絶事由に該当する場合のほか,何人もこれに応じなければならない。証人は宣誓のうえ証言をする。証人が証言拒絶できるのは,一定の親族等の処罰を招くおそれがあるとき,および医師等の職務上の秘密に関する場合である。公務員の職務上の秘密については,議院や委員会は当該公務所またはその監督庁の承認がなければ証言または書類の提出を求めることができない。ただし,当該公務所または監督庁はこの承認を拒むときはその理由を疎明しなければならず,議院や委員会はこれに納得できないときは,その証言または書類の提出が国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣の声明を要求できる。正当の理由なく出頭せず,または証言を拒否したり,虚偽の陳述をした者は処罰される。刑事訴訟や民事訴訟では疑いをかけられた者自身は証人にならないし,刑事被告人は自己に不利益な供述を拒否できる(刑事訴訟法146条)のに,議院証言法は疑いをかけられた者を証人として呼び出し,弁護人も付けずに,質問内容の予告なしに,偽証罪の圧力の下に口を割らせることを認めているので,刑事訴訟法や民事訴訟法とくらべて証人の人権に対する配慮が薄いことが問題となっている。
執筆者:阿部 泰隆
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…これを受けて,国会法は,議院に調査のため議員の派遣を認め,また,議院から調査のために必要な報告や記録を求められたとき内閣・官公署その他はこれに応じなければならないとしている。また,〈議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(議院証言法)〉によれば,証人としての出頭,証言または記録の提出を求められたときは,同法の定める理由のある場合を除いて,なんぴともこれに応じなければならず,また証人が虚偽を述べたり,同法の定める正当な理由なく出頭,証言,書類の提出等を拒否した場合には相当に厳しい刑罰が定められており,議院や委員会は告発を義務づけられている。
[問題点]
日本国憲法下の国政調査権については,理論と実際の両面にわたって,たとえば以下のような問題がある。…
※「議院証言法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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