資本主義国家は,その活動費用を租税として国民経済から強制的に獲得しなければならない。この強権性は資本主義が原則とする私有財産制と矛盾する。この矛盾の調整のために,納税者の代表が租税の承認を行うという財政民主主義が成立するのである。財政民主主義の原則は以下の4点にまとめられる。第1に,租税の賦課,公債の発行など国民の経済的負担となるものはすべて議会の承認を得なければならない。第2に,国の歳入・歳出は統合して予算として議会に提出し,事前にその承認を得なければならない。第3に,予算が使用された結果も決算として議会に提出し,その承認を得なければならない。第4に,議会が二院制の場合,下院に予算審議上の優先権が与えられねばならない。
以上の原則は,ブルジョア革命の過程で封建勢力に対する市民階級の長期にわたる闘いの成果として形成されてきたものである。すなわち,マグナ・カルタ(1215)に始まり,権利章典(1689),フランス人権宣言(1789)などにおいて租税承認権を獲得し,次に経費の承認権,近代的予算制度,決算制度を確立していったのである。日本においては,明治憲法でいちおう財政民主主義の諸原則が規定されていたが,議会は皇室財政にふれることができず,予算不成立の場合の前年度予算の施行などの非民主主義的規定が存在していた。ところが第2次大戦後の日本国憲法において財政民主主義が明確に規定された。すなわち,83条は〈国の財政を処理する権限は,国会の議決に基いて,これを行使しなければならない〉とし,さらに租税法律主義(84条),国費の支出,債務負担についての国会の議決(85条),予算の作成と国会の議決(86条),決算の国会提出(90条),衆議院の予算先議権(60条)を規定している。
このように現在では制度面で財政民主主義が確立しているにもかかわらず,現実には予算審議の空洞化が叫ばれ,財政民主主義は危機的状況にあると指摘されている。その原因はまず議会制民主主義そのものの形骸化にある。国民の意思を代表し,行政府を規制していくべき議会が,行政機構の肥大化のなかで,その権限が制限されてきているのである。さらに,予算制度そのものにも財政民主主義の危機をもたらす要因がある。すなわち,現代財政の変化に,財政民主主義の制度的保障である予算制度が対応しきれなくなってきていることである。現代財政は国家機能が多様化するなかで,その規模が非常に拡大し,国民経済に占める地位を高めている。また,財政構造が複雑化し,政府企業が拡大している。それにより,財務行政技術が高度化,専門化し,行政府の役割が高まってきている。
このような状況に対し,現行予算制度はいくつかの欠陥を露呈してきている。第1に,予算統制の及ばない財政領域が拡大してきていることである。日本の例でいえば,財政投融資,特別会計,公社・公団等はその財政的役割を増大させているが,いずれも予算統制は不明確である。第2に,現行の予算統制は会計責任を明確にすることを目的としており,財政活動の多様化に対して事業責任を明確にする統制方法をとりえていないことである。第3に,予算の執行過程の統制がなされていないことである。以上の欠陥に対し,国民の政府の財政活動への統制を強め,その現代化を図るために,さまざまな予算改革案,すなわちPPBS(planning-programming-budgeting system企画計画予算制度の略),中期財政計画などが提起されている。
執筆者:高橋 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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