陸海軍大臣の補任資格を現役の軍人に限定した制度。1871年(明治4)7月の兵部省職員令は、兵部卿(きょう)の補任資格を「本官少将以上」とし武官専任制を規定していたが、その後は、官制上、補任資格を武官に限定しない時期も存在していた。しかし、政党勢力の伸張に伴い、軍政へのその浸透を防止するため、1900年(明治33)5月、山県有朋(やまがたありとも)内閣は、陸海軍省官制を改正して陸海軍大臣を現役の大将もしくは中将に限ることとし、ここに軍部大臣現役武官制が確立した。13年(大正2)6月には山本権兵衛(ごんべえ)内閣のもとで、大正政変にみられるような軍閥批判の高まりに押されて、補任資格は予備役、後備役の将官にまで拡大されたが、現実には現役以外の将官が陸海軍大臣となった事実はない。その後、36年(昭和11)の二・二六事件を契機とした軍部の政治的進出のなかで、同年5月、広田弘毅(こうき)内閣のときに、陸海軍省官制が改正され、陸海軍大臣は現役の将官に限ることとされて、軍部大臣現役武官制が復活し、第二次世界大戦の敗北まで存続する。
欧米諸国においては、文官が陸海軍大臣に就任する場合も少なくなく、政治の軍事に対する優位を原則化したシビリアン・コントロール(文民統制)の理念が確立していたが、日本においては、軍部が自らの政治的要求を実現するためにこの制度を利用し、軍部大臣現役武官制は、軍部の政治的進出の強力なてことなった。たとえば、1912年2個師団増設実現のため上原勇作陸相が単独辞表を提出し、陸相の後任難により西園寺公望(さいおんじきんもち)内閣が総辞職に追い込まれた事例、37年陸軍の強い反対にあって宇垣一成(かずしげ)が陸相候補を得られず組閣を断念した事例、さらには、40年畑俊六(はたしゅんろく)陸相の単独辞職により米内光政(よないみつまさ)内閣が総辞職した事例などがよく知られている。
[吉田 裕]
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陸海軍大臣の補任資格を現役大将・中将とする制度。1886年(明治19)2月26日制定の陸軍省・海軍省官制によって資格を武官に限定し,幾度かの改正後,第2次山県内閣の1900年5月19日公布の陸軍省職員表・海軍省定員表によって現役の大将・中将に限定した。13年(大正2)第1次山本内閣が現役規定を削除し,たんに大将・中将であればよいとしたが,予備役軍人が大臣に就任した例はなく,36年(昭和11)5月18日広田内閣のとき,2・26事件後の大異動を処理するため大臣の人事権を確立する必要から現役規定を復活した。この規定により組閣を断念したり瓦解した内閣がある。
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…しかし海軍では89年3月の海軍参謀本部条例により,再び一元主義にもどり,これ以後は93年5月の海軍大臣と海軍軍令部長間の権限行使手続により一元主義は続けられたが,1933年9月の軍令部令によって,海軍軍令部条例は廃止され,再び分裂する(軍令部)。 明治以後の軍制のなかで,もう一つの重要テーマは軍部大臣現役武官制である。陸軍・海軍省発足当時,両省とも卿(大臣)が欠員であったが,陸軍大輔山県有朋,海軍大輔勝安房はいずれも文官であった。…
…武官制だけでなく,さらに現役であることを要件とする現役武官制を確立したのである。この軍部大臣現役武官制は,1912年第2次西園寺公望内閣のときに早速効果を発揮した。2個師団増設を要求した上原勇作陸相は単独辞職して内閣を倒し,大正政変の原因をつくったのである。…
…陸軍省の外局に当たる官衙は1945年当時で,陸軍兵器行政本部,陸軍技術研究所,陸軍造兵廠,陸軍兵器補給廠,陸軍機甲本部,陸軍航空本部,陸軍気象部,陸軍築城部,陸軍運輸部などであった。 陸軍省設置当時,卿欠員のもとで陸軍大輔山県有朋は文官であったが,武官職である近衛都督を兼ねたとき陸軍中将に任じ,山県が陸軍卿となったときも武官の身分のままであり,以後文官職である陸軍卿・陸軍大臣に武官身分が就任する慣行が生じ,1900年第2次山県有朋内閣は軍部大臣の任用資格を現役大・中将に限るという軍部大臣現役武官制を制定した。内閣官制で軍部大臣は軍機軍令に関しては内閣総理大臣を経由せずに直接に天皇に上奏する権限(帷幄(いあく)上奏権)が与えられていたので,12年上原勇作陸軍大臣はこの権限を利用して天皇に直接辞表を提出し,後任の陸軍大臣を得られなかった第2次西園寺公望内閣を倒した。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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