農業金融(読み)のうぎょうきんゆう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「農業金融」の意味・わかりやすい解説

農業金融
のうぎょうきんゆう

本来的には、農業生産を対象とした資金の貸借ないし信用の授受をいうが、これは狭義の意味である。広義には、農産物の販売・流通面、農家生活面をも対象とした金融、また農家貯蓄とその運用など、農業・農家をめぐる多面的な資金貸借を含む。

 狭義の農業金融の特質は、農業生産の産業的特質、つまり、その技術的特質、商品的・市場経済的特質および経済主体的特質に依存している。農業生産は作物、家畜など動植物の生命力を利用する産業であり、有機的技術を特色とし、自然条件や季節性に支配されやすい面をもつ。このため工業に比べ生産の不安定度が高く、かつ生産期間が相対的に長く、また、生産行程の分割による生産の同時並行化が困難であるため連続生産体制をとりにくい。他方、農業生産を担う経済主体は、資本主義的経済社会では一般的に多数の農家であり、それは家族農業経営であることを特色としている。そのため、農業生産物市場は競争的構造をもち、かつ、農産物価格は一般的に伸縮性が大きいので不安定である。同時に、経営規模が零細であるため収益力が小さく、資本形成力にも乏しい。このような農業生産の特質に規制され、農業金融は一般的に次のような特質をもっている。

 農業資金の用途別種類は、農地購入資金、農地改良資金、農業機械・施設導入資金、農業経営運転資金、農産物販売資金などから構成される。これら資金を通ずる共通的性格を、まず資金需要側からみると、
(1)資本の回転が遅く長期性を帯びやすい、
(2)短期的資金については季節性をもつ、
(3)経営規模が零細かつ低収益のため低金利の要求が強い、
(4)農家経済の経営と家計の不離一体性のため農業資金といえど消費生活資金の色彩を帯びやすい、
などがあげられる。次に資金供給側からみると、
(5)資金単位が零細である、
(6)貸出資金回収の危険性が大きい、
(7)信用保証は保証人ないし土地担保が中心である、
などがあげられる。この特質のため金融技術的にみて資金供給コストは高くなりがちである。

 このような農業金融の特質は、いわゆる「小農金融」の特性といわれるものである。そして、この特性ゆえに農業金融は近代的な金融ベースにのりにくく、それ独自の金融システムを必要とすることになる。日本では第二次世界大戦前から農業金融独自の金融機関が徐々に発達し、かつ、歴史的に変遷を遂げてきているが、現在は、農家と地域住民の相互金融をたてまえとする農業協同組合(農協)系統金融と、政府の財政投融資による制度金融である日本政策金融公庫(農林水産事業。旧、農林漁業金融公庫の事業を継承)が二大支柱をなしている。前者は、全国各市町村段階に総合農協の信用事業部門、都道府県段階に信用農協連合会、全国段階に農林中央金庫を擁するピラミッド・三段階型の系統金融組織を形成し、主として短・中期資金の貸付業務を担当し、貯金業務も行い、今日、日本有数の農村金融機関となっている。後者は、全国に支店網をもつ政府系金融機関で、主として長期資金の貸付業務を担当し、かつ政策金融を推進している。

 なお、農業信用保証保険事業を行う機関として都道府県に農業信用基金協会、全国に農林漁業信用基金が設けられており、また別に、全国農協保証センターが設立され、農業金融を支援している。

 ただし2000年代以降、総合農協の合併や系統組織再編が進行し、これと併行して農協系統金融の組織形態も転換している。また、1953年(昭和28)に設立し農林水産業者等に長期・低利の資金の供給を行っていた農林漁業金融公庫が、2008年(平成20)10月その他政府金融機関と統合し設立された日本政策金融公庫に事業承継されたのは、財政投融資機関・金融公庫の改革の一環である。

[亀谷 昰]

『加藤譲著『農業金融論』(1983・明文書房)』『亀谷昰著『農業における投資・財政・金融の基本問題』(2002・養賢堂)』

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改訂新版 世界大百科事典 「農業金融」の意味・わかりやすい解説

農業金融 (のうぎょうきんゆう)

本来は農業生産に関する金融を意味するが,農業の多くが家族経営で経営と家計が分離していないため,広く農家ないし農村地域に関連した金融一般を指して農業金融と呼ばれている。日本の農業金融は,零細性,長期性,不安定性,季節的繁閑などの特質をもっている。すなわち農業は経営の規模が他産業に比較して小さいため,個々の資金需要は零細である。生産期間が長く,かつ主要な生産要素である土地の耐久年限が長いため,償還には長期を要する。生産が天候など自然条件に支配されるため収益が不安定であり,返済が困難になる場合がある。収益は収穫期にまとまって入るので,資金需要に季節的繁閑がある。また農業に対する貸付けは,土地を担保として行われることが多い。こうした特質のために,農業金融には特殊の金融機関が設けられている。農業金融機関は1897年(明治30)設立の日本勧業銀行,1898-1900年の各府県農工銀行,1900年の北海道拓殖銀行に始まるが,その後零細な資金の必要性を満たすため,1900年の産業組合法に基づいて市町村産業組合が設立された。23年には産業組合中央金庫が設立され,郡ないし県の信用組合連合会を含めて,組合系統金融組織が成立した。現在では,産業組合は農業協同組合,信用組合連合会は信用農業協同組合連合会,産業組合中央金庫は農林中央金庫となっており,市町村,都道府県,全国の3段階を結ぶ組合系統農業金融機関をなしている。

 組合系統金融(農林漁業の協同組合組織の金融)は,農家間の相互金融を原則とし,全国の農村に事務所をもって農家の貯金を吸収しまた貸付けを行っている(組合金融,系統金融とも呼ばれる)。1996年度末で総額では貯金残高約68兆円,貸出金残高約21兆円に達している。なお,漁業協同組合,森林組合も,やはり農林中央金庫のもとにあって,組合系統金融組織の一部をなしている。組合系統金融は,農業協同組合の他の事業,とくに購買・販売事業と深い関連をもっている。たとえば,農家がその生産物を農業協同組合を通じて出荷した場合,その販売代金は直接農協の貯金となるので,系統金融組織の資金吸収力は強い。

 農業金融には,組合系統金融を中心とする民間金融のほかに,政府ないし地方自治体が関与している融資制度があり,制度金融と呼ばれている。これは農業発展に必要な長期・低利の資金を供給するために,財政資金を貸し付けたり,財政で利子補給を行ったりするものである(政策金融)。土地改良事業に対する長期・低利の融資は明治の末年から行われていたが,1953年にはそれを主務とする農林漁業金融公庫が政府系金融機関の一つとして設立された。その後同公庫は個別農業経営の投資資金をも融資するようになり,現在では農林漁業金融公庫の農業向け資金は制度金融の柱の一つになっている。制度金融にはそのほかに,農業近代化資金(農業近代化資金助成法),漁業近代化資金,農業改良資金(先駆的・モデル的農業経営の育成のために供給する無利子の資金)などがある。
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農業金融【のうぎょうきんゆう】

工業・商業金融と同じく産業金融の一つ。資金需要の零細性,季節性,地域性,経営と家計の未分離,豊凶による不安定性,融資期間の長期性,投資利回りの低位性など,金融としての独立性に欠けている。農業協同組合が窓口となり,農林中央金庫が預金・貸付の中央機関となっているが,財政資金によっててこ入れされるなど政策金融の性格が強い。農林漁業金融公庫でも行う。

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