造寺司(読み)ゾウジシ

デジタル大辞泉 「造寺司」の意味・読み・例文・類語

ぞうじ‐し〔ザウジ‐〕【造寺司】

古代寺院造営造仏の際、臨時に置いた職。造東大寺司など。

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改訂新版 世界大百科事典 「造寺司」の意味・わかりやすい解説

造寺司 (ぞうじし)

奈良平安時代律令制のもとで寺院の造営・営繕,造仏・写経などのために臨時に置かれた役所。同様の役目をもつ木工寮(もくりよう)が正規の役所であるのに対し,令外官(りようげのかん)とされる。596年(推古4)竣工の法興寺造営で蘇我馬子の子善徳を寺司としたのが早い例で,8世紀に入ると役所として整備され,701年(大宝1)造薬師寺司,造大安寺司,748年(天平20)造東大寺司が置かれた。造東大寺司は木工寮をこえる大組織をもち,工事が終われば廃止されるべきものでありながら,760年(天平宝字4)の法華寺金堂やその後の香山薬師寺石山寺,阿弥陀浄土院などの造営も担当し,永続的な組織のようになっている。しかし造寺司の専任者は組織の大きさに比べて意外に少なく,事務系役人には各省官司から現任のまま動員された者が多い。技術系役人も木工寮の長上工猪部百世(いなべのももよ)が現職のまま加わるなど,やはり兼任が多い。令外官ではあるが,技術系の上層技官は木工寮と役所のわくをこえて交流し,一体化している。組織は木工寮と同様にカミ(長官),スケ(次官),ジョウ(判官),サカン(主典)の4等官制をとり,主典の下に史生舎人,その下に大工,長上,番上,さらにその下に雑工--土工,木工,石工,陶工など土木工と,鋳工,鉄工,金工,押金薄工など技芸工--と夫--仕丁,雇夫--が属した。造寺司の財源封戸(ふこ)を中心においていたが,8世紀末,国家財政が余力を失うとともに造寺工事が減少し,782年(延暦1)造法華寺司が廃止され,789年造東大寺司が中絶するなど,しだいに整理廃合が行われ,9世紀初めにはその役目を終えた。10世紀に一時復活をみるが,名目のみとなっている。律令制が形骸化する10世紀には,造営はしだいに藤原氏など個人の力をもとにして行われるようになる。造寺司は律令制盛時の,木工寮など正規の役所に権力が集中するのを避ける有効かつ柔軟な組織であった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「造寺司」の意味・わかりやすい解説

造寺司
ぞうじし

官寺の造営にあたる臨時の官庁で、その寺院ごとに置かれた。673年(天武天皇2)の造高市大寺司(ぞうたけちだいじし)をはじめ、造大安寺司、造薬師寺司、造興福寺仏殿司、造東大寺司、造法華(ほっけ)寺司、造西大(さいだい)寺司、造東寺司、造西寺司などがある。規模は律令(りつりょう)制の「寮」に準じたが、造東大寺司は「省」にも劣らなかった。組織は、長官(かみ)・次官(すけ)・判官(じょう)・主典(さかん)のほか、技術責任者たる大工(だいく)の下に、木工・土工・石工・鋳工・鉄工・仏工・画工などの技官、仕丁(しちょう)・雇夫(こふ)など雑役人が属し、また造仏所・造瓦(ぞうが)所・写経所などの支所をもつこともある。平安時代に入ると、国家財政の緊縮から、多くは廃止か縮小され、造東大寺司と造興福寺司が名目のみとなった。

[中井真孝]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「造寺司」の意味・わかりやすい解説

造寺司
ぞうじし

奈良,平安時代,寺院の造営,造仏などのため,臨時におかれた役所。四等官の下に,史生,舎人大工,番上などをおいた。8世紀に多数の造寺司がおかれた。造東大寺司は規模の最大なもので,その支所の一つに,造石山院所があった。造東大寺司は一時廃止されたが,10世紀に復活して,常置官となった。

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世界大百科事典(旧版)内の造寺司の言及

【奈良時代美術】より

…683年には僧正,僧都,律師が任ぜられる。これら国家による仏教の統制は,造寺司の設立と,そこに働く工人の立法的な組織化に至る。
【彫刻】
 この時代の彫刻は,丈六像などの大・中像のほか,小金銅仏が法隆寺や東京国立博物館(法隆寺献納宝物,四十八体仏)をはじめ諸所にかなり遺存し,主要作品では求め得ない様式の欠を補うことができる。…

※「造寺司」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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