広義では,陸上運送人,海上運送人および航空運送人を含むが,商法典は,その第3編〈商行為〉第8章〈運送営業〉で,陸上運送のみを運送営業として規整しており,そこでは運送人とは,陸上または湖川港湾において物品または旅客の運送をなすことを業とする商人であるとしている(商法569条,4条1項,502条4号)。以下,後者に限定して論ずる。陸上運送には地下鉄運送も含まれる。鉄道運送については鉄道営業法・鉄道運輸規程,軌道運送については軌道法・軌道運輸規程,また自動車運送については道路運送法・同施行法等に多少の私法規定があり,これらは商法の規定に優先して適用される。
物品運送契約において,運送人は,荷送人から運送品を受け取って,それを目的地まで運送して荷受人に引き渡さなければならない。また,運送人は荷送人の請求があれば貨物引換証を作成して交付しなければならない(商法571条1項)。運送人は,物品の受取後その引渡時まで,これを保管する義務を負い,また荷送人または貨物引換証の所持人が運送の中止,運送品の返還その他の処分を命じたときは,その指図に従わなければならない(582条1項)。運送品の処分権者は,貨物引換証が発行されていないときは荷送人であるが,それが発行されているときはその証券の所持人である。ただ,荷送人の処分権は,運送品が到達地に着いた後,荷受人が運送品の引渡しを請求しているときは消滅する(582条2項)。運送人は,到達地において運送品を引き渡すことによって,その運送契約上の義務の履行を完了する。貨物引換証が発行されていない場合には,到達地への運送品の到着とともに荷受人が運送品引渡請求権を取得し(583条1項),それが発行されている場合には,貨物引換証の所持人が取得する。運送人としても貨物引換証と引換えでなければ運送品を引き渡さなくてもよい(584条)。
運送人は,自己もしくは運送取扱人またはその使用人その他運送のために使用した者が,運送品の受取り・引渡し・保管および運送に関して注意を怠らなかったことを証明しないかぎり,運送品の滅失・毀損または延着による損害を賠償しなければならない(577条)。この責任は,荷送人および荷受人に対するものであるが,貨物引換証が発行されているときは,証券の所持人に対して負うことになる。この責任は,沿革的には,ローマ法以来海陸の運送人や旅館の主人が負わされていたレセプツム責任(不可抗力の証明のないかぎり責任を免れないこと)に対する緩和としての意味をもっていたが,今日では民法の債務不履行についても同様に解されているので,商法のこの責任規定は,単なる注意規定と解されている。また,大量の商品を頻繁に運送する業務に従事する運送人の保護と法律関係の画一的処理のために,賠償額は定型化されており(580条),貨幣・有価証券その他の高価品については,荷送人が運送を委託するに当たりその種類および価額を明告しなければ,運送人は損害賠償の責任を負わない(578条)。旅客運送の運送人も,自己またはその使用人が注意を怠らなかったことを証明しないかぎり,旅客に生じた損害を賠償する責任を負う(590条)。
→運送契約 →海商法 →航空運送事業
執筆者:石田 満
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