中国浄土宗の祖師の一人。山西省汶水(ぶんすい)県に生まれ、姓は衛(えい)氏。南北朝の北斉(ほくせい)・隋(ずい)・唐初にあって涅槃(ねはん)宗の学匠として知られた。48歳のときに交城県石壁(せきへき)山玄中寺に住し、寺内にあった曇鸞(どんらん)の行跡を刻した碑を読んでたちまちにして『涅槃経』を捨て、以後念仏行者としての生涯が始まる。当時の中国仏教界では、「正法五百年像法千年」が過ぎてまさに末法の世に入ると信ぜられていた。この時機に相応した仏教は称名念仏(しょうみょうねんぶつ)だけであるとの信念にたった道綽は日々7万遍の念仏に明け暮れ、しかも老若男女に念仏を勧めた。とくに「小豆(あずき)念仏」といって、子供にもよくわかる、念仏一遍ごとに小豆一粒で数をとる数量念仏の普及に努めた。その主著は『安楽集(あんらくしゅう)』で、道綽より22歳後輩の信行(しんぎょう)の提唱した三階(さんがい)教とともに、隋・唐初の仏教界に大きな影響を及ぼした。弟子善導(ぜんどう)に至って、その浄土宗義は大成され、山西から陝西(せんせい)へ、中国の中央部に念仏宗は広まった。
[牧田諦亮 2017年3月21日]
中国,隋・唐時代の僧。俗姓は衛氏。幷州(山西省太原市)の人。14歳で出家したが,まもなく北周の武帝が北斉治下の幷州を占領,ついで廃仏を断行したため,亡国と還俗を余儀なくされた。隋の文帝による仏教復興政策により再出家した道綽は,熱心に《涅槃(ねはん)経》を講説していたが,609年(大業5),石壁玄中寺に参って曇鸞(どんらん)の行跡を記した碑文に感激し,浄土教に回心した。ときに48歳,以後没するまで玄中寺を中心として浄土教義の宣布につとめた。曇鸞にしたがい,〈浄土三部経〉(《無量寿経》《観無量寿経》《阿弥陀経》)を所依の経典とした。しかし,曇鸞の浄土教が《無量寿経》を重視する傾向が強かったのに対し,廃仏による還俗を強制され末法の時代が到来したと実感した道綽は,王舎城の悲劇に始まるという劇的構成をもち在家者の浄土往生の具体的方法を順序だてて提示する《観無量寿経》を重視して説法教化した。主著《安楽集》は《観無量寿経》の解説書である。彼の教義は門下の善導に受け継がれ大成される。
執筆者:礪波 護
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…北魏の曇鸞(どんらん)が,浄土教へ回心して,晩年にこの寺に住した。のちに涅槃経を修めていた道綽(どうしやく)が,609年(隋の大業5)48歳のときにこの寺にきて曇鸞の碑文をよみ,浄土教に帰したとされる。さらに善導が,この寺に道綽を訪ねて教えを請うた。…
…聖道門は知恵をみがき,煩悩を断じて聖者(しようじや)となり,この世で悟りを開こうとするもので,浄土門に対し,自力門・難行道とされる。この聖浄二門の教判は,はじめ唐の道綽(どうしやく)が《安楽集》で説いたもので,浄土教では聖道門を難証難行の教えとして退ける。道綽は,五濁悪世の末法の今日では,釈迦の時代を去ることはるかにして,その直接的な教化を受けることは不可能であり,教理は深遠で凡夫では十分理解しがたいため,聖道門は〈今のとき証し難し〉と説示し,浄土門によるべきことを勧める。…
…ただし,慧遠を中心とする結社は高僧隠士の求道の集まりで,主として《般舟三昧経》に依拠して見仏を期し,各人が三昧の境地を体得しようと志すものであって,ひろく大衆を対象とする信仰運動ではなかった。日本の法然,親鸞らを導いた純浄土教義と信仰は,北魏末の曇鸞(どんらん)に始まり,道綽(どうしやく)を経て善導によって大成される。はじめ竜樹系の空思想に親しんでいた曇鸞は,洛陽でインド僧の菩提流支に会い,新訳の世親撰《無量寿経論》を示されて浄土教に回心し,のち山西の玄中寺でこれを注解した《往生論註》を撰述し,仏道修行の道として仏の本願力に乗ずる易行道につくことを宣布するとともに,いわゆる〈浄土三部経〉を浄土往生の信仰の中心とする浄土教義をうちたてた。…
…仏教を分類するしかた(教判)の一つで,聖道門(しようどうもん)に対比される。唐の道綽(どうしやく)の創説にかかる。浄土門は阿弥陀仏の本願を信じ,それにすがって極楽浄土に生まれ,悟りをえようとするもので,他力門・易行(いぎよう)道とされる。…
… 仏教復興政策のとられた隋代になると,北周の武帝による亡国と廃仏を同時に体験した旧北斉領内の仏教徒たちを中心にして,末法仏教運動が急速に展開する。この濁悪末世の時代にふさわしい教法として提唱されたのが,太行山脈の東側の河北省の地におこった信行の三階教と,太行山脈の西側の山西省におこった道綽(どうしやく)の浄土教であった。信行や道綽は,《大集月蔵経》の説く末法時を現今と読みとることによって,末法仏教つまり今の我々を救う仏教を提唱した。…
※「道綽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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