郷司(読み)ごうし

精選版 日本国語大辞典 「郷司」の意味・読み・例文・類語

ごう‐しガウ‥【郷司】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「ごうじ」とも ) 平安時代中期以降に置かれた国衙領の管理責任者。郷は、平安期には令制と異なり、郡と並列的な行政単位となる。この再編された郷の行政責任者をいう。
    1. [初出の実例]「郡司・郷司等集て」(出典:今昔物語集(1120頃か)一一)

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改訂新版 世界大百科事典 「郷司」の意味・わかりやすい解説

郷司 (ごうじ)

平安中・後期以降中世にみられる地方官律令制下の郷(もと里)には郷長(もと里長)がおかれていたが,律令制の弛緩にともなってその地位はしだいに低下し,10世紀にはほとんど消滅した。これにかわって登場してくるのが郷司であるといっても大過はないが,当時と呼ばれたものの実態はさまざまなので,その系譜規模を考慮し,郷司もさしあたり三つの類型に分けてみる必要がある。

 第1は,1005年(寛弘2)の筑前国糟屋西郷司,14年(長和3)の筑前国嘉麻南郷司のように,郡を東西あるいは南北に分割したものをたまたま郷と称したために,その官人を郷司と呼んでいるケースである。このような郷司がもっとも早くみられるが,郡が方位によって分割され,小規模化しているだけで,かかる郷司の職務郡司となんら変わるところはない。第2はもともと郷長がおかれていた郷(古代以来の郷で,《和名抄》郷ともいう)に郷司が出現するケースである。22年(治安2)および25年(万寿2)の豊後国大分郡の荏隈郷司が早い例かと思われるが,57年(天喜5)の丹波国何鹿郡の高津郷司や66年(治暦2)の安芸国高田郡の三田郷司に代表されるように,11世紀中葉以降に多くみられる。この郷司の実態をよく示しているのは安芸国高田郡の例であって,在地の豪族藤原氏は11世紀末に三田,風早,麻原,甲立,粟屋,船木の6郷(いずれも《和名抄》郷)の郷司に補任されているが,この郷司は郡司とも呼ばれているように,郡務の実質が郷に移譲され,郡が有名無実化してしまっている。このような郷司も郡司の小規模化したものといえよう。第3は,新たな開発などによって生まれた別名(べちみよう)の郷に郷司がおかれたケースで,63年(康平6)の石見国久利郷司や1117年(永久5)の美濃国鶉郷司などがその代表例である。この場合も,久利郷司に対して〈郡務を執行すべし〉という国司の外題が与えられており,郷司の職務は郡司と同じであった。

 以上いずれの郷司にも共通していることは,郡務の執行者であり,国司によって補任されていることである。これは,郡が方位で単純に分割された郷,《和名抄》郷,別名の郷のいずれもが国衙に直結する行政単位となったことと深い関係がある。ただし,東国などに広範にみられる村とほぼ同義の郷(ここでは《和名抄》郷の解体がいちじるしい)にも郷司がおかれたかどうかはつまびらかでない。いずれにせよ,11世紀中葉以降の郷は,郡とならんで在地領主制の基盤となっており,郷司は郡司と併称されることが多くなる。なお鎌倉時代になると,本領安堵地頭の多い東国では郷司職は地頭職におおむね吸収されてしまうが,西国では後世まで郷司の称が存続するケースが多いように思われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「郷司」の意味・わかりやすい解説

郷司
ごうじ

平安中期以降の国衙(こくが)領(公領)の一つであった郷の司(つかさ)すなわち行政職。律令制下の郷長の称は10世紀には消滅し、11世紀に入ると郷司が登場する。律令制下の郡や郷も10世紀には解体し、11世紀初頭になると新たに国衙が支配する中世的所領としての郡、郷、保などが並列するかたちとなった。こうした中世的所領は、大名田堵(だいみょうたと)や地方豪族などの開発領主(かいほつりょうしゅ)による開発私領を核としたもので、行政単位として再編されたことで成立した(郡郷制の再編)。郷司などは私領としての郷などを世襲化するとともに、国衙の行政をになう在庁官人となり、郡、郷、保などの所領は実質的に在庁官人によって支配される国衙領となった。

[鈴木哲雄]

『松岡久人著「郷司の成立について」(『歴史学研究』215号)』

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百科事典マイペディア 「郷司」の意味・わかりやすい解説

郷司【ごうじ】

律令制の弛緩により,令制下の郷長が消滅し,新たに11世紀に成立した行政区分の〈郷〉の行政・裁判を担当した地方官。令制の郷の系譜を引く郷,郡が分割されてできた郷,開発によって生まれた別名(べちみょう)の郷の3種は,いずれも国衙(こくが)に直結する行政単位で,郷司(多くは在庁官人)は国司が補任し,郡司と共通した職務を遂行した。→国衙・国府

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「郷司」の意味・わかりやすい解説

郷司
ごうし

平安時代中期,11世紀初頭に出現するの役人。律令制下の郷長とは異なり,郷司職を世襲し,郷を自己の私領化しているなどの点に特徴がある。1郷のみならず数ヵ郷の郷司を兼ねる場合もあり,また安芸国高田郡司藤原氏の例にみられるごとく,郡司と郷司とが同質化していく傾向を示している。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「郷司」の解説

郷司
ごうじ

平安中期以降,律令制の地方行政単位の変化にともなって設置された地方行政職。10世紀には地方で郡以下の機構の解体・再編成が進み,郡と並んで新たに国衙(こくが)から直接に把握される郷が設定され,その責任者として国司によって郷司が任じられた。その呼称は11世紀初頭からの例が知られ,主として在地の有力者に世襲され,郷の官物徴納中心の職務にあたった。また国衙機構の在庁として国務に参画する者もあった。

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