酒母(読み)シュボ

精選版 日本国語大辞典 「酒母」の意味・読み・例文・類語

しゅ‐ぼ【酒母】

  1. 〘 名詞 〙
  2. しゅぼきん(酒母菌)」の略。〔薬品名彙(1873)〕
  3. 日本酒をつくる際に用いる酵母を培養したもの。もろみを発酵させるためによい酵母を純粋に増殖させる。酛(もと)
    1. [初出の実例]「酒造の為に莫大の小麦消費せらるるを憂ひ酒母は他の穀物を使用すべき契約を結べり」(出典:風俗画報‐一六八号(1898)漫録)

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改訂新版 世界大百科事典 「酒母」の意味・わかりやすい解説

酒母 (しゅぼ)

発酵工業および醸造において使用する有用微生物を純粋に培養したもので,目的とする物質あるいは酒などの醸造物をつくるための種(たね)として使われる。清酒醸造では酛(もと)ともよばれる。微生物の存在が知られるまでは,原料で栄養条件をさだめ,製造の温度や酸度などの物理的環境条件を調節することにより,自然界から有用な微生物だけを酒母に生やす集積培養法が経験的に開発されていた。たとえば稲わらのむしろで蒸米をくるんでねかすと黄麴菌(きこうじきん)が生えてこうじができるが,こうじには種々の酵母や乳酸菌などの細菌も生えている。このこうじと蒸米と水を混ぜ,低温(8℃)で放置するとまず水由来の細菌が生えて亜硝酸をつくり,これに弱い微生物を淘汰する。次に亜硝酸に強く,低温でも生える乳酸菌が生育して適度の乳酸を生産し,その乳酸で細菌はすべて死滅するとともに亜硝酸も消失する。ここで酒母の温度を徐々にあげて10℃以上にすると清酒酵母が活動をはじめ,それが生産するアルコールにより,酒母の微生物は清酒酵母のみにかぎられるようになる。

 1883年にE.C.ハンセンが微生物の純粋分離法を確立して以来,有用微生物の細胞1個を種として出発する人工純粋培養法が酒母製造に採用されるようになった。日本では1910年江田鎌治郎が純粋培養酵母と乳酸を使用した清酒酒母製造法を考案した。短期間でできるこの酒母は速醸酒母とよばれ現在ほとんどの清酒の酒母がこの方法で製造されている。
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飲み物がわかる辞典 「酒母」の解説

しゅぼ【酒母】


日本酒の醸造のために、蒸した米・麹・水を用いて優良な酵母を培養したもの。ここへさらに蒸した米、麹、水を加えて発酵させ、もろみとする。「酛(もと)」ともいう。もろみを発酵させるのに用いる優良な酵母の培養には、醸造に有害なこの酵母以外の微生物の増殖を抑えるために強い酸性であることが必須となるが、このためには、乳酸を加えるか、または乳酸菌の働きを利用して乳酸を生成させる。製法としては前者を「速醸酛(そくじょうもと)」、後者を「生酛(きもと)」といい、江戸時代に完成した伝統的製法である生酛を明治期に改良した製法を「山廃酛(やまはいもと)」という。◇普通、日本酒についていうが、中国酒の一部など製法に共通点のあるほかの酒について用いることもある。

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普及版 字通 「酒母」の読み・字形・画数・意味

【酒母】しゆぼ

こうじ。

字通「酒」の項目を見る

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栄養・生化学辞典 「酒母」の解説

酒母

 日本酒の製造で,もろみを発酵させるために培養調製した酵母.

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世界大百科事典(旧版)内の酒母の言及

【清酒】より

…なかでは新嘗会(しんじようえ)に使われた白貴(しろき)(白酒(しろき)),黒貴(くろき)(黒酒(くろき))と呼ばれる酒が有名で,10月上旬の吉日に臼殿(うすどの)で米をつき,こうじ室(むろ)でこうじをつくり,酒殿(さかどの)に並べたかめに蒸米とこうじと水を混ぜて酒を仕込んだ。現在の酒母(しゆぼ)の仕込みに近いが,こうして10日ほどで白貴ができる。これに久佐木(くさぎ)の灰を混ぜ,酒をアルカリ性にして褐変させたものが黒貴である。…

※「酒母」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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