発酵工業および醸造において使用する有用微生物を純粋に培養したもので,目的とする物質あるいは酒などの醸造物をつくるための種(たね)として使われる。清酒醸造では酛(もと)ともよばれる。微生物の存在が知られるまでは,原料で栄養条件をさだめ,製造の温度や酸度などの物理的環境条件を調節することにより,自然界から有用な微生物だけを酒母に生やす集積培養法が経験的に開発されていた。たとえば稲わらのむしろで蒸米をくるんでねかすと黄麴菌(きこうじきん)が生えてこうじができるが,こうじには種々の酵母や乳酸菌などの細菌も生えている。このこうじと蒸米と水を混ぜ,低温(8℃)で放置するとまず水由来の細菌が生えて亜硝酸をつくり,これに弱い微生物を淘汰する。次に亜硝酸に強く,低温でも生える乳酸菌が生育して適度の乳酸を生産し,その乳酸で細菌はすべて死滅するとともに亜硝酸も消失する。ここで酒母の温度を徐々にあげて10℃以上にすると清酒酵母が活動をはじめ,それが生産するアルコールにより,酒母の微生物は清酒酵母のみにかぎられるようになる。
1883年にE.C.ハンセンが微生物の純粋分離法を確立して以来,有用微生物の細胞1個を種として出発する人工純粋培養法が酒母製造に採用されるようになった。日本では1910年江田鎌治郎が純粋培養酵母と乳酸を使用した清酒酒母製造法を考案した。短期間でできるこの酒母は速醸酒母とよばれ現在ほとんどの清酒の酒母がこの方法で製造されている。
執筆者:菅間 誠之助
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…なかでは新嘗会(しんじようえ)に使われた白貴(しろき)(白酒(しろき)),黒貴(くろき)(黒酒(くろき))と呼ばれる酒が有名で,10月上旬の吉日に臼殿(うすどの)で米をつき,こうじ室(むろ)でこうじをつくり,酒殿(さかどの)に並べたかめに蒸米とこうじと水を混ぜて酒を仕込んだ。現在の酒母(しゆぼ)の仕込みに近いが,こうして10日ほどで白貴ができる。これに久佐木(くさぎ)の灰を混ぜ,酒をアルカリ性にして褐変させたものが黒貴である。…
※「酒母」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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