身代限(読み)しんだいかぎり

精選版 日本国語大辞典 「身代限」の意味・読み・例文・類語

しんだい‐かぎり【身代限】

〘名〙
江戸時代から明治期まで、負債を支払うことができなくなった者があった場合、官の宣告強制執行によってその全財産を提供させ、負債の支払いにあてるよう強制すること。この処分を受けた者は、未払いの負債を全部支払うまで、常人としての種々の権利や資格を失う。また、その未払いの負債を支払う義務は、子孫にまで及んだ。明治二四年(一八九一旧商法施行によって廃止。今の破産にあたる。身代切り。
※禁令考‐後集・第二・巻一三・享保六年(1721)六月「総体身代限りに申付候儀、店借りに候はば、道具計を不残取上げ可申候」
② 全財産をつぎこむこと。自分のものを全部出してしまうこと。身代切り。
洒落本・短華蘂葉(1786)「『おじゃまながらたばこちっと』と銀かなぐのこしさげ出す。身体きりの見てくれ也」

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改訂新版 世界大百科事典 「身代限」の意味・わかりやすい解説

身代限 (しんだいかぎり)

江戸時代の強制執行で,身体限とも書き,身上限(しんしようかぎり)ということもある。債務者の総財産に対する執行であるところから,破産の前身である〈分散〉としばしば混同されたが,幕府法では両者を明確に区別している。身代限は官憲的執行であって,出入筋(でいりすじ)の判決手続で〈日限済方(ひぎりすみかた)〉ないし〈切金(きりがね)〉による弁済を命ぜられた債務者(百姓町人)がこれに応じない場合に,奉行所の申付けによって実施された。執行には当事者と町村役人が立ち会い,〈身代限諸色付立帳〉という執行調書を作成して,田畑屋敷,家蔵,家財等の現物またはこれを売却した代金を債権者に引き渡したが,田畑等を差し押さえ,作徳によって債権を回収した後これを返戻するという方法も行われた。もっとも1843年(天保14)の改革以後はすべて売却代金をもって債務弁済に充当すべきこととされている。免責的効力はなく,債権者は後日債務者の資力が回復するのを待って不足額を請求することができた。明治初年には分散と一体になり,72年(明治5)の〈華士族平民身代限規則〉以下多くの単行法令が出されたが,90年の民事訴訟法,旧商法,家資分散法によって近代的な強制執行および破産制度へと発展した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「身代限」の意味・わかりやすい解説

身代限
しんだいかぎり

現代法における強制執行手続に相当する江戸時代の法律手続。判決により日限済方 (ひぎりすみかた) ,すなわち一定日限内の弁済が命ぜられ,これを履行しない場合,当事者と町村役人立ち会いで田畑,屋敷,家蔵,家財,債権証書などの全財産から債務額に応じて物を取り上げ,債権者に交付したが,天保 14 (1843) 年以後,売却代金を交付するようになった。明治以後もこの制度は存続したが,1890年家資分散法,民事訴訟法,商法の制定とともにこれら諸法に引き継がれた。

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世界大百科事典(旧版)内の身代限の言及

【分散】より

…割賦(割符)(わつぷ)ともいう。しばしば〈身代限(しんだいかぎり)〉と混同され,明治初年には両者が制度的に合体するが,江戸幕府法上は,裁判所による強制執行としての〈身代限〉と,債権者・債務者間の契約による〈分散〉とを,明確に区別している。分散には裁判所の介入は必要的でなく,債務者が総債権者もしくは大多数債権者の同意を得て自己の全財産を委付し,債権者はこれを入札売却して,代金を債権額に応じ配分するのである。…

※「身代限」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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