俳人。父は俳人金子伊昔紅(いせきこう)(1889―1977)。埼玉県小川町で生まれ、秩父(ちちぶ)の皆野町で育つ。旧制水戸高校在学中に句作を始め『成層圏』『土上』『寒雷』などに投句。東京帝国大学経済学部卒業後、海軍主計将校としてトラック島(現、チューク島)に赴任。第二次世界大戦後復員、日本銀行に入行。組合運動に活躍した。1946年(昭和21)、同人誌『風』の創刊に参加、社会性俳句運動の主論者となり、「社会性は態度の問題である」などと論じた。引き続き「銀行員等朝より蛍光す烏賊(いか)のごとく」「華麗な墓原女陰あらわに村眠り」などの句に代表される前衛俳句運動の旗手を務めた。1961年『造型俳句六章』を書き、ものと作品との間に創(つく)る主体を置くことを提唱した。1962年『海程』を創刊、代表同人となり、のちに主宰となった。一茶、山頭火(さんとうか)などを論じながら放浪漂泊の再評価に取り組む。1988年紫綬褒章(しじゅほうしょう)受章。1992年(平成4)日中文化交流協会常任理事就任を機に訪中を重ね、「天人合一」の考えを知り共鳴、郷土、自然への関心を深めたが、やがて秩父の狼(おおかみ)に象徴される産土(うぶすな)の地霊との交感のなかに自己の原点をみるようになった。「おおかみに蛍が一つ付いていた」が代表句になる。2002年、『東国抄』(2001)により第36回蛇笏(だこつ)賞を受賞。主要句集に『少年』(1955)、『蜿蜿(えんえん)』(1968)、『金子兜太全句集』(1975)、『遊牧集』(1981)、『詩経国風』(1985)、『両神』(1995。詩歌文学館賞受賞)などがあり、全作品から精選した『金子兜太集』(全4巻、2002)がある。
[平井照敏 2018年3月19日]
銀行員等朝より蛍光す烏賊(いか)のごとく
『『短詩型文学論』(1963・紀伊國屋書店)』▽『『定住漂泊』(1972・春秋社)』▽『『俳童寓話』(1975・北洋社)』▽『『ある庶民考』(1977・合同出版)』▽『『熊猫荘点景』(1981・冬樹社)』▽『『詩経国風 句集』(1985・角川書店)』▽『『皆之 句集』(1986・立風書房)』▽『『熊猫荘俳話』(1987・飯塚書店)』▽『『俳諧有情 金子兜太対談集』(1988・三一書房)』▽『『両神』(1995・立風書房)』▽『『花神コレクション・金子兜太』(1995・花神社)』▽『『エロチシズム』(1996・雄山閣)』▽『『東国抄 句集』(2001・花神社)』▽『『金子兜太集』全4巻(2002・筑摩書房)』▽『『小林一茶 「漂鳥」の俳人』『種田山頭火 漂泊の俳人』(講談社現代新書)』▽『『わが戦後俳句史』(岩波新書)』▽『『黄 金子兜太句集』(ふらんす堂文庫)』▽『『金子兜太 自選三百句』(春陽堂書店・俳句文庫)』▽『『俳句専念』(ちくま新書)』▽『『金子兜太句集』(芸林21世紀文庫)』▽『金子兜太他著、聞き手・黒田杏子『証言・昭和の俳句』上(2002・角川書店)』▽『成井恵子著『俳句の美学』(1992・牧羊社)』▽『鶴岡喜久著『超現実と俳句』(1998・沖積舎)』▽『岡井隆著『前衛短歌運動の渦中で――一歌人の回想(メモワール)』(1998・ながらみ書房、はる書房発売)』▽『倉橋羊村著『私説 現代俳人論』上(1998・東京四季出版)』
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…〈人間探求派〉と呼ばれた主宰者,加藤楸邨(しゆうそん)(1905‐ )は,〈真実感合〉の方法を提唱,生き生きとした実感を,対象と自己を一体にした発想において把握しようとした。楸邨のその志向のもとに,田川飛旅子(ひりよし),金子兜太(とうた),森澄雄らが輩出した。【坪内 稔典】。…
※「金子兜太」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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