金属学(読み)きんぞくがく

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

金属学
きんぞくがく

金属を対象とする学問の総称。鉱石を製錬して金属を製造する技術に関するいわゆる冶金(やきん)学から、得られた金属を各種の利用目的にかなった材料とするための技術、それら材料の性質などを研究する分野、それら材料と使用環境とのかかわり合い(使用中の破壊、疲労、腐食など)を研究する分野まで非常に広範な領域を含む。最近では、扱う金属も鉄、銅、アルミニウム、亜鉛、鉛などいわゆるコモンメタル(普通金属)から、第二次世界大戦後に登場してきた各種の新金属や、エレクトロニクスの発展に伴うシリコン、ゲルマニウム、ヒ素、セレンなどの半金属にまで及び、しかもこれらでは非常な高純度のものが対象となってきている。また、セラミックスと併用されることも多く、セラミックスや、金属とセラミックスとの中間領域にある材料にまで研究対象が広がってきている。
 金属学の工学的側面は冶金学(金属工学)であるが、これは、実用性のある金属材料をつくり、またそれを加工成形するための科学と技術とに要約できる。冶金学というと、きわめて古めかしく神秘的な技術との印象をもつ人が多い。確かに数千年も前から「冶金」は行われているが、これが学問としての体系を整えてくるのはけっして古いことではなく、むしろ非常に新しい。神秘的な錬金術から冶金術へと進むのは、アグリコラが『デ・レ・メタリカ』(1550)を著したあたりからである。[長崎誠三]

歴史

西洋冶金学が日本に導入されたのは江戸末期から明治にかけてのことのようである。高等教育としての冶金学は、まず東京大学理学部のなかの採鉱冶金学科で教えられた。教鞭(きょうべん)をとったのは、明治政府が秋田の小坂鉱山の技師として1873年(明治6)にドイツから招いたネットーCurt Netto(1847―?)である。彼の講義の内容は弟子たちによって翻訳編纂(へんさん)され『涅氏(ねし)冶金学』として1884年に時の文部省により刊行された。上冊では金属についての万般の知識と学理、さらに銅と鉛の冶金学を、下冊ではその他の金属の冶金学を扱っている。しかし、下冊は事情は明らかでないが未刊に終わっている。ネットーは1885年に離日し、一方、当時は工部省(後の通商産業省にあたる。2001年からは経済産業省)の管轄であった工部大学と理学部とが1886年に合併され、冶金学科は理学部から工学部に移り、今日に至っている。
 同著の編纂にあたった野呂景義(のろかげよし)(日本の近代製鉄の基礎を確立するのに力があった。日本鉄鋼協会の初代会長)は序文に「……読ンデ之(コレ)ヲ明解セント欲スル者ハ、宜(ヨロシ)ク先(マ)ヅ冶金学ニ関スル各学科、即(スナワ)チ化学、物理学、機械学、金石学(いまの鉱物学)等ヲ予修セザルベカラズ……」と書いている。このように冶金学は、化学、物理、機械などの基礎を学んだのちに履修する学問とされていた。現在でも、西欧の一部の大学の普通学部には冶金はなく、大学院で初めて学ぶところがある。
 野呂景義は冒頭で、冶金とは鉱石より金属を分離する技術であると規定しているが、当初は製錬についての学問が冶金学で、金属の加工、諸性質についての学問は機械や物理、化学の分野であり、冶金学(今日流にいえば金属学)の対象とはされていなかった。東京大学を例にとれば、学科としては採鉱冶金学科として始まり、大正に入って採鉱と冶金とに分離し、さらに金属工学科と金属材料学科とに名前を変え、分かれた。これは「冶」の字が当用漢字から外されたという事情もあるが、学問の内容が、当初の製錬主体から金属や合金という「物」についての学問、加工法などに関する学問に重点が移ってきたことを物語っている。大正末年に開設された東北帝国大学工学部では金属工学科として出発した。現在、多くの大学では「冶金学科」から「金属工学科」、さらに進んで「材料(科学)工学科」へと名前を変えている。[長崎誠三・平林 眞]

分科と対象

(1)化学冶金学 金属の化学的性質に関するすべての問題を取り扱う。第一に、ほとんどの金属は酸化物、硫化物、塩化物などの無機化合物の形で産出するから、これらの鉱石から金属を取り出すこと、すなわち製錬という化学反応をいかにして経済的に行わせるかということを対象とする。対象が鉄の場合は鉄冶金、非鉄の場合は非鉄冶金ともいう。また反応を行わせる手段が電気である場合は電気冶金という。第二には、得られた金属製品は使用される環境のなかで多かれ少なかれ腐食したり、銹(さ)びたり、製錬とは逆の金属として安定した化合物の状態に返る反応をおこす。この機構の究明、防止は重用な化学冶金学のテーマである。
(2)加工冶金学 金属学は材料科学の一分科ではあるが、材料といえばガラス、プラスチック、木材、石材などあらゆるものが含まれ、なかでも金属材料の占める割合が大きい。金属には材料としての多様性ももちろんあるが、それを可能にしているのは独特の機械的性質である。鋳造、圧延、鍛造など各種の加工を施して、巨大な構造物から微小な機械部品、エレクトロニクスの素子に至るまで使用目的にかなった合金をつくりあげる。これらは加工冶金学の重要なテーマである。加工法のみならず、使用する機械の研究、金属の機械的性質、また破壊や疲労など金属製品が使用中におこす挙動を明らかにすることも対象となる。
(3)物理冶金学 金属学の科学的側面であるが、このことばは冶金学の研究に物理的な手段を用いるという意味が強いので、金属物理学といった表現もする。金属や合金の性質、原子的構造、結晶構造、加工、熱処理の際の挙動についての研究など、対象は広い。これらの研究に使用する機器の開発研究も重要な対象である。
 さらに試料の分析についての学問も金属学の重要な一分科である。分析は、試料の化学組成のみならず、それらがいかなる物理状態にあるか、また試料内部でいろいろな成分、不純物などがどのように分布しているか、表面はどのような状態になっているかなど、多様な事柄を知るためのものである。[長崎誠三]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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