帝人事件(読み)ていじんじけん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

1934年帝国人造絹糸 (帝人) の株式売買をめぐる疑獄事件。 1927年の金融恐慌によって,鈴木商店は倒産し,同商店の子会社であった帝人の株式 22万株はその担保として台湾銀行のものとなった。鈴木商店の大番頭金子直吉らは,帝人株の買受けをはかり,ときの斎藤内閣のバックたる財界の番町会斡旋を依頼し,番町会が 11万株の買戻しに成功,その直後の増資による株価上昇で利益をあげた。この経過を『時事新報』の社長武藤山治が贈収賄事件として暴露記事とし,議会でも政治問題化した。そのため台湾銀行,帝人の首脳,番町会関係者,黒田大蔵次官が相次いで検挙され,34年7月内閣は綱紀上の責任を理由に総辞職した。 265回にわたる公判の結果 37年 10月全員無罪となった。事件は司法部内に勢力を温存する平沼騏一郎系ファッショ勢力および武藤らによる倒閣のための陰謀であったといわれる。

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百科事典マイペディアの解説

昭和初期の疑獄事件。1927年の金融恐慌後,台湾銀行鈴木商店に対する債権の担保として,その子会社である帝国人造絹糸(帝人)の株22万余を所有。台銀も日銀から特別融通をうけたため,帝人株は日銀に入れられた。その後,帝人が業績をあげたため,財界グループ番町会河合良成らが10万株を入手。これに関連してスキャンダルが発覚。1934年5月台銀,帝人の首脳をはじめ,黒田大蔵次官,次いで三土忠造鉄相,中島久万吉商相らも起訴,7月斎藤実内閣は総辞職した。裁判の結果,全員無罪となったが,事件は平沼騏一郎らの斎藤倒閣の陰謀によるものとされる。
→関連項目汚職武藤山治

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世界大百科事典 第2版の解説

帝国人造絹糸(株)(,帝人)の株式売買が汚職として追及され,斎藤実内閣の倒壊を招いた事件。1927年金融恐慌で鈴木商店が破産したとき,子会社の帝人株を台湾銀行が担保としてとったが,台銀も日銀から特別融通を受けたため,その担保として同株は日銀に入れられた。その後,帝人が好調に業績をあげたので,同株を入手しようという動きが活発となり,33年5月財界グループ番町会の河合良成らが10万株を入手した。これに対し34年1月武藤山治(元鐘紡社長)経営の《時事新報》が〈番町会を暴く〉を連載して番町会の帝人乗っ取りで,中島久万吉商工相らも関与した不正があると攻撃,3月武藤の暗殺疑惑が拡大した。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

帝国人造絹糸会社の株式売買をめぐる大疑獄事件。1934年(昭和9)4月検察当局は、台湾銀行所有の帝国人絹株の売買に背任、贈収賄の疑惑があるとして、台湾銀行幹部や帝人重役河合良成(かわいよしなり)、永野護(ながのまもる)らを検挙した。5月には大蔵省幹部も収賄の疑いで相次いで逮捕され、政財界に大きな衝撃を与えた。この事件によって斎藤実(まこと)内閣は総辞職(同年7月)を余儀なくされた。内閣総辞職後、斎藤内閣の中島久万吉(くまきち)商工相、三土忠造(みつちちゅうぞう)鉄道相らも検挙された。この事件の背後には、前年末以来中島商工相、河合良成ら財界グループ「番町会」のメンバーが推進していた政民連携運動を挫折(ざせつ)させ、斎藤内閣を倒壊させることをねらった政友会久原房之助(くはらふさのすけ)派、司法界の長老平沼騏一郎(きいちろう)枢密院副議長、軍部、右翼の策謀があったとされている。検挙当局の被検挙者に対する取調べ状況が明らかになるにつれ、その不当性を非難する声が高まり、司法ファッショのことばが生まれた。35年に公判が開始され265回にわたる公判のすえ、37年12月には「空中楼閣」であったとして全員無罪の判決が下った。

[芳井研一]

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世界大百科事典内の帝人事件の言及

【疑獄】より

…満鉄疑獄事件(1921),松島遊廓疑獄(1926),陸軍機密費事件(1926),朝鮮総督府疑獄(1929),売勲事件(1929),五私鉄疑獄(1929)など,政友・民政両党をまきこんだ疑獄は枚挙にいとまがない。その後,斎藤実挙国一致内閣を崩壊させた帝人事件(1934)は,事件そのものが〈空中楼閣〉とされ全員無罪となった。これは,政党内閣崩壊後の政治的主体確立をめぐる状況の中で司法部の政治化が進んだことを意味する。…

※「帝人事件」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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