(読み)ヤジリ

デジタル大辞泉 「鏃」の意味・読み・例文・類語

や‐じり【×鏃/矢尻】

矢の先端につけ、射当てたとき突き刺さる部分。普通は鉄製であるが、古くは石・骨・銅なども用いられた。矢の根。
矢を射当てる技量
「小藤太が―の細かさ、これ見給へ」〈浄・虎が磨〉
[類語]矢先矢の根雁股石鏃

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「鏃」の意味・読み・例文・類語

や‐じり【鏃・矢尻】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 矢の先端についていて、対象物に突き刺さる部分。縄文時代以来用いられ、材質により石鏃、骨鏃鉄鏃銅鏃、竹鏃という。形態上からは、尖根(とがりね)平根(ひらね)三角鏃などがみられる。やさき。矢の根。〔享和本新撰字鏡(898‐901頃)〕
    1. [初出の実例]「則弓手の方へ真倒に落れば、矢尻は鞍にとどまて」(出典:保元物語(1220頃か)中)
  3. 矢を射る技量。
    1. [初出の実例]「小藤太が矢じりの細かさ、これ見給へ」(出典:浄瑠璃・曾我虎が磨(1711頃)下)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

普及版 字通 「鏃」の読み・字形・画数・意味


19画

[字音] ゾク
[字訓] やじり

[説文解字]

[字形] 形声
声符は族(ぞく)。族に族集の意がある。〔説文〕十四上に「利(するど)きなり」、〔玉〕に「(や)の鏃(やじり)なり」とみえる。〔呂覧、貴卒、注〕に「鏃矢は輕利なり」とあり、〔説文〕は軽利の矢とする意であろう。族字条七上に「矢鋒なり」と訓し、鏃の初文と解しているが、族とは族盟、それよりして族集の意となる。

[訓義]
1. やじり、やさき。
2. するどい。
3. すき。

[古辞書の訓]
名義抄〕鏃 ヤサキ・ヤジリ・ゼニツラ 〔立〕鏃 ヤサキ・ツルキ・ヤジリ・ゼニツラヌク・サシツラヌク

[熟語]
鏃矢・鏃新・鏃鏃
[下接語]
遺鏃・羽鏃・金鏃・骨鏃・矢鏃・石鏃・鏃・短鏃・鉄鏃・飛鏃・鋒鏃・鏃・没鏃

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鏃」の意味・わかりやすい解説

鏃(やじり)
やじり
arrowhead

「ぞく」とも読み、矢尻とも書く。矢の先端につけた刺突具(しとつぐ)。材質によって石鏃(せきぞく)、銅鏃、鉄鏃、その他に分けられる。確実に石鏃といえるものが出現するのは、縄文時代に入ってからであり、石材や形は多様であるが、剥片(はくへん)を素材にした打製のものがほとんどである。しかし、北海道東部および中央部の早期の遺跡からは、石刃(せきじん)でつくられた石刃鏃が発見される。これはシベリア方面のものと関連をもつと考えられている。イノシシの牙(きば)でつくった牙鏃(がぞく)もあり、銛(もり)の先端にはめ込まれたままの例も知られている。また、シカの角(つの)を利用した骨鏃(こつぞく)あるいは角鏃(かくぞく)もあるが、これは有茎のタイプに属するものが多い。

 打製の石鏃は、弥生(やよい)時代にも広くみられる。このうち、アメリカ式石鏃(アメリカ先住民が使っていたものに似ていることからその名がある)とよばれる特異な形のものが、東北地方南部から関東・中部地方の一部にかけてみいだされる。打製の石鏃とともに、粘板岩などをおもな石材とする磨製の石鏃が発達し、この時代の石鏃の特色をなす。骨鏃(角鏃)のほかに、アワビなどの貝殻でつくった貝鏃(かいぞく)もあるが、発見例は少ない。また硬い木質の木や竹でつくった鏃もあるようである。さらに、この時代には青銅製や鉄製の鏃が出現普及し、刺突具としての効果をいっそう高めた。

 古墳時代に入ると、石鏃はまったく姿を消す。銅鏃は前期までは存続するが、すでに実用品としての意味を失う。中期以降はみられなくなり、鉄鏃が主座を占める。この時代の骨鏃は、鉄鏃を模した形をしている。

[岡本 勇]



鏃(ぞく)
ぞく

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「鏃」の意味・わかりやすい解説

鏃【やじり】

矢の先端に付け,突き刺すための利器。〈ぞく〉とも読む。鏃身と茎(なかご)からなる。旧石器時代終末期に発生し,弓矢による狩猟具として普及した。新石器時代以降,石鏃銅鏃鉄鏃が登場した。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鏃」の意味・わかりやすい解説


やじり

矢の先端につけて,目標に突刺さるようにしたもの。原始時代から石鏃,銅鏃,鉄鏃と進歩してきた。石鏃は材質が石の鏃で,三角形か柳葉形を基本とする打製のものが多い。時代を経るに従って,磨製の精巧なものが現れるようになった。日本では,縄文時代草創期から認められる。半弓から長弓に変化するに従って,石鏃の形状や重さが大きくなった。銅鏃は青銅製の鏃で,メソポタミアのウル,中国の殷代から現れたが,日本では,古墳時代前期に盛行した。鉄製の鉄鏃は弥生~江戸時代に使われ,正倉院には雁股や鏑 (かぶら) 矢のような変形の精巧なものも保存されている。


ぞく

」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「鏃」の意味・わかりやすい解説

鏃 (ぞく)

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【矢じり∥鏃】より

…石,骨,木,竹,青銅,鉄などでつくり,矢柄(やがら)の一端に着装する。鏃(ぞく)ともいう。鏃は,鏃身の形により,非常に細かく分類することもできるが,茎(なかご)の有無によって,大きく二つに分けることができる。…

【弓矢】より

…近衛の武官は白と黒の緂の切斑(きりふ)の羽を用い,行幸には左近はワシ,右近はタカの切斑としている。羽の上下と矢先の口巻(くつまき)には檀紙を巻いて〈樺矧(かばはぎ)〉といい,鏃には金銅の長根(ながね)をつけた(図1)。 軍陣の弓は丸木弓や七曲(ななもじり)の弓のような古風なものもあるが,多くは塗弓で,もっぱらこの上に籐(とう)の皮を巻いた弓を使用した。…

※「鏃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android